表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
壱章 私と彼女とこの物語
17/66

(16話)探し物と捜される者

 かくして私達は来た。

一昨日(おとつい)の電話の件に今日が(つな)がる。

つまり、今 3人はグリーンマンションの315号室前にいるのだ。ちなみに朝宮ちゃんはいない。

こんな危険なとこに、朝宮ちゃんなんて連れてこれるか。


「グリーンマンションの315…。ここか。…はぁ、来てしまった」

溜息(ためいき)

「いや、頼むよマジで…」

金田が手を合わせて頭を下げてくる。

 くそ。(ゆず)のやつめ。私だってユリは苦手なんだ。なんだって、私達までここに来なきゃダメなの…。(よう)があるのはお前だけだろ!

「もう、さっさと済ませて帰ろう」

「柚、お前はもっと優しいやつやと思ったったんやけど。…そうか、そうか、つまり君はそんなやつだったんだな。」

機堂がヤケクソ気味(ぎみ)に言った。

「頼むよ、ホント。マジで悪かったとは思ってる」

「はァ。もうええわ。はよピンポン押せ」


ピーン、ポーン。

ガチャ。

 だれが来たのかを確認する様子(ようす)もなく、すぐに扉は開いた。

「オー。ヨク来たね!…っと、機堂(ギーク)ちゃんに真絵(マエ)ちゃんも来てるじゃナイか!」

笑顔で(しも)() ユリは言った。


 天然(てんねん)モノ、というか地毛(じげ)金髪(きんぱつ)

(つや)のある金髪は、2つの(たき)のように (うつく)しく流れるツインテールとなっている。

ツインテールは膝下(ひざもと)まで()びていた。

何よりも、たわわな(むね)。大きすぎることもなく、女性の理想を()(げん)()したかのような 美しい胸。

 これだ。これなのだ。あのウザったらしい性格(せいかく)変態性(へんたいせい)とは関係なしに、見た目のみをとれば彼女は、最高にカワイかった。

どれくらいのものかと言うと…

…ああ、その(すべ)ての“カワイさ”を()(かえ)すほどの威力を持った、クソダサい(いも)ジャージを着ていなければ 女の秋野でも(いき)()むほどのカワイさだ。

「…」


「サ、入って入って!」

()(かえ)って、「こっち こっち」と誘導(ゆうどう)した。

 振り返ったときには光の当たり()(あい)でユリの顔が どこか(うれ)いを()びているように見え秋野はドキッとした。

いつもからは、考えられない顔だったから。光の当たり具合も意地(いじ)(わる)なものだ。

 4人は部屋の中を進んだ。


「イヤー!(ひさ)しぶりダネ!座って 座って!お飲み物持ってクルから〜。ついでに着替(きが)えてこヨっ」

3人は、「座って」と言うので(ゆか)を見たが、床には何も敷かれていない。ユリらしいといえばユリらしいので、特に気にすることなく適当に座る。

 あぐらで座った秋野は、手を後ろの床につけて 首を軽く回した。

…周りに何があるか見ようとしたが、何も無い。

「…どういうつもりだ」

 手を組んで、太ももの上に乗せて そわそわする。

「もうここまで来たんやし、なんか色々どうでもよォなってきたわ…。用ってのがなんなんかだけアレやけどなァ」

「そうなんだよなぁ〜。俺も聞かされてない」

「はぁ」

3人は、面倒くさそうな声を吐いてうなだれた。

 お茶を取りに行くにしては、少し時間が長い気もしたが、そんな気も 3人が吐いた声でかき消されてしまった。


そこに、お茶を持ったユリが帰ってくる。

 彼女は、さっきのジャージからガラリと服装(ふくそう)を変えた。あまり()()ける感じのなさそうなオフホワイトのパンツと、ゆったりとしたベージュカラーのシャツ。動きやすそうな服という意味ではジャージと同じかもしれないが、(ふん)()()(まった)くの別物だ。

そんな彼女は、手にお(ぼん)を持っていた。

「ヤ〜、お待たせ!」

ゴト

 床に置かれたお盆の上には、お茶の入ったペットボトルが4本。

コップに入れたのではなくペットボトルをそのまま出すあたり、まだ冷蔵庫もキッチンもいろいろとテキトーなんだと(うかが)える。


「くぅ!懐かしいナ〜!秋野ちゃん!今日はスカート()いてないの?」

「なっ!誰のせいでスカートを履かなくなったと…!」

気に入ってボーイッシュなスタイルをしていたので、元々スカートを履くことが(めずら)しかったが、それでもたまには履くったら履く。そんな秋野が (まった)くスカートを履かなくなったのは、留学生としてここに来た(しも)()ユリと(おお)いに関係があった。というか、ユリの風魔法のせいだ。100%だ。

「まぁまぁ〜!機堂ちゃんはマダあのゲームしてないノ?」

「お前がネタバレしてくれなかったらもうしとるハズやったんやろうが!!」

顔を突き出して彼は怒った。

「アッハッハッハッ!あのゲームは私の国での発売のが早かったカラ、ちょっと自慢したかったダケだって言ったジャン!」

しばらくはそんな調子が続いてしまった。いつもそうだったのだが、今日も、いつの間にかユリのペースに巻き込まれている。



「で、なんで呼んだんですか?」

金田がペットボトルに入ったお茶を飲んだ後、何もなかったかのように言った。これでやっと話が進む。

 秋野と機堂の周りの空気が一気(いっき)に乾燥したかのようになる。

…「なんで呼んだんですか」だと?それはこっちのセリフだ!そもそもユリに呼ばれたのはお前だけで済んだのに、なんで私と機堂まで…。(ゆず)、まさか「旅は道連れ世は情け」とかいう地球の馬鹿みたいなことわざに(したが)っていたりするんじゃないだろうな?

と秋野は思っていたわけだ。が、そのパワハラ上司に訴えるときに使うような視線は、金田には通じなかったらしい。



「本当ハ金田にダケ来て欲しかったんだけど…まぁイイや」

頭をポリポリと()きながら小声で呟く。それが本当に小声だったので、一番近くに座っていた秋野にしか聞こえなかったようだ。

「…?」

言葉の意図(いと)は分からなかった。ただ、どこか、秋野はユリの顔から(かな)しさを感じる。まただ。

…いや、今度のは ()()(ちが)いとは思えないようなほどハッキリと感じた。

「で!今日ココに呼んだ理由なんダケド!実は…」

 気のせい、気のせいだ。こいつに限って、あんなことを言うわけがないし、あんな表情をするわけがない。

秋野は、疑問を心に閉じ込めて話を聞くしかなかった。




「………つまり、落としたペンダントを探すのを手伝ってほしいってことね」

大体(だいたい)の話を聞き終えた秋野は、「はぁ」と息をつきながら 手を床につけて後ろにもたれかける。

気が抜ける。

「ソーなんだ。(まい)ったヨ。手伝ってホシイな〜っテ」

 なんか…。なんというか、「なんだ、そんなことか」って感じだな。ユリも少しは性格がマシになったのかも…。

そう思って秋野は、どこか抜けてしまった。


「別に暇やから俺はええけどな。どうせ家おったらゲームとアニメやし、たまには運動するかァ」

機堂が立ち上がって手を上に伸ばす。

 秋野も“残り数日の休みでは忙しくなること間違いなしな量はある宿題”の存在を(のぞ)けば暇だ。つまりかなり忙しいのだが、こういうのもいいものかもしれない と今日は思っていた。

 金田は勿論、他2人も手伝うことになったのだ。

「おお!助かるヨ!じゃあ早速(サッソク)行こう!レッツらゴー!」

立ち上がってユリは右の拳を突き上げる。

 こういうのも悪くないな。

そのノリが懐かしく感じたこともあったので、今日は乗ってみた。

「おー!」


「ん?…ちょっと待て」

ペンダント。

こっちに来る途中に落としてしまった…とは聞いているが、どこに落としたかは聞いていない。

「ペンダント、どこで落としたの?」

 アァ、そういえば 言うノを忘れていまシタ。

といったような反応が顔に現れた後、ユリは短く答えた。

「レイクハイツってトコ!」

レイクは(みずうみ)、ハイツは集合住宅(しゅうごうじゅうたく)という意味だ。なんで湖という名前がついているのかは知らないが、つまるところ集合住宅。マンションやらアパートやらの親戚(しんせき)ということだ。

ここよりもう少しだけ駅に近いところにある。

 あることを(さっ)した金田が、察したことは心に閉まっておけばいいものを 口に出してしまう。

「ああ。どうせ、ここと…グリーンマンションとレイクハイツを間違えたんでしょ。引っ越しだとしても 住む場所を間違えるとは…」

(となり)で聞いていた2人の中学生も「あり()る…」と全力で思った。

「ナゼバレタ!?」

わざとらしいリアクションに笑いながら4人は、出口へと進んでいった。

 ユリがドアノブに手をかける。

ギィ…

ガチャ


()(じま)り 戸締り…っと」

カチャ。

意外にしっかりしているユリを(かた)()に、中学生3人組はただ立っていた。

 空は青く、太陽はいつもの顔で(かがや)いている。和紙(わし)をちぎったような雲が、()(だい)に集まって一つの大きな雲になろうとしている。まさしく夏。まさに夏。真夏だ。

なのに、何故(なぜ)(すず)しい。扇風(せんぷう)()ともクーラーとも、魔法使いの()こす風とも違う… 地から 海から 空からの風。

何よりも良い風だ。


「ジャ、今日ハ(たの)むヨ!(さそ)ったのはコッチだし、終わったらアイスでも(おご)るゼ!」

 ユリはハイテンションで前へ進んだ。

「風で溶かすくせに、よォ言うで」

そこを、機堂が他2人の気持ちを代弁(だいべん)しつつツッコむ。

 気持ちのいい風を受けながら、4人はレイクハイツを目指し始めたのだ。

天気は最高。探し物日和(びより)なのだから。



 そして、

住宅街を抜け

公園を通り越し

学校を横に見ながら歩いて

少しコンビニで休憩したり

赤信号に捕まったりもして

 ついに


「着いたー!ココがレイクハイツだー!ケッコー遠かったネ…」

 少しボロさを感じる色をしているが、見た感じ6階まである高さ。狭い駐車場が裏に見える。着いた。レイクハイツだ。

 それはそうと、どうやら彼女は道を覚えていたらしい。(つい最近まで、引っ越し先をグリーンマンションではなくレイクハイツだと思っていたので当然でもあるが)

ユリにとってはそこそこ馴染(なじ)みのある場所なのだ。

そんな場所の入口に4人はいる。大きく金色で書かれた『レイクハイツ』の文字に 逆に安っぽさを感じているところだ。


「ここ こんなに遠かったっけ?」

「まァ、さっさとそのペンダント探してまうか」

「そうだな。どんなペンダントなの?どこら(へん)で落とした…とかも」

機堂(となり)提案(ていあん)を受けて、秋野が質問する。どんな(ふう)なペンダントか分からないと、見つけるのに困ると思ったから。

見た目と、落としたかもしれない場所 は知っておいた方がいいに決まっている。

「見た目は…金!金色をシテル。ロケットペンダントってヤツで、中には写真が入ってるヨ〜!」

彼女は 視線を右上に向けて、思い出すように言った。

 中に写真が入っているペンダントのことをロケットペンダントということは、初めて知った。

新しい発見をしつつも秋野は話を進める。

「へ〜。実物を見るのは初めてになるかも。でも、落とした場所は大体どこ とか分かんないの?」

「アァ。ソレが(まった)くネ。このハイツに落としちゃったハズ…ってコトくらいだナ」

「あ、そう。この建物 ()(たい)はそんなに広くなさそうだし、見た目だけ分かればいいか…」


 情報は整った。


「ヨーシ、ペンダント探し開始ダー!(ふた)()に分かれて探すカ!」

「それがいいかも。どういうペアにする?」

 2つのペアに分かれるということでらしいので、 金田でも機堂でもいいけど、ユリはちょっと()だなぁ

と思いながら、彼女は聞いてみた。

機堂(ギーク)ちゃんと秋野ちゃん、私と金田で分かれるのはドウ?金田クンには話したいコトもあるしね」

うし!

と喜びを心の中で噛み締めながらも、秋野は冷静に返事をした。

「了解。機堂、行くか〜」

「おう」


 ところが、入口の中に向かって進んでいく2人を彼女は止めた。

「ア、ちょっ、ちょっと待って!」

「何」

「いや、2人には 1(から)3階までを頼んでもイイ?コッチが4階以上を探してみるって感じでサ」

「へいへい。ようござんすよ…」

2人はまた前を向いて歩き出した。

後ろから

「かたじけナイ!」

と 高い声の外国人らしい声が飛んできた。

 あ〜あ。あの変わった性格と変態さがなければ、()さくな年上のいいお姉ちゃん なのになぁ。スカートをめくるとか、今どき 小学生の馬鹿(ガキ)でもしないだろ…。

「?どうしたんや、秋野」

「いや なんでもない。それより、どこから探す?」

「せやなァ、まず3階に()がって 段々(だんだん)()りながら探してもええけど…普通に1階からでええやろ」

「そうだな。早速(さっそく)、あっちから探すか!」

「よう走れるわ…」

 ユリの性格にウンザリしていても仕方ないので、秋野は機堂と探し始めた。


 ペンダントなんて、そこそこ大きいし 金色という派手(ハデ)な色だ。

すぐ見つかると思ったが、これが 廊下(ろうか)黄土色(おうどいろ)に隠れてしまっていて、なかなか見つからなかった。始めた(ころ)は、こんなに手こずるとは思わなかったほど。

そう。結果的に、30分もかかってしまったのだ。探し物に30分というと、長い時間か短い時間かよく分からないが…。

とにかく、見たけた(ころ)には2人とも(つか)れてしまった。







なので、その後 金田とユリに思わぬ形で(ごう)(りゅう)した時は………2人ともあまりの(おどろ)きにパニックになってしまった。

別に、可笑(おか)しなことじゃないと思うが。誰だろうが、友達があんなことしてたら そりゃ(おどろ)くに決まってんだから。




-そんな驚きの展開(てんかい)が待っている とある一組(ひとくみ)のペアとは別、こちら…[金田]とユリのペアはというと…


勿論(もちろん)、ペンダントを探していた。

勿論(もちろん)、秋野と機堂のように雑談(ざつだん)(まじ)えながら。

「こっちは無いな〜。そっちはどうすか?」

「ン〜、()()たらないナ。もしかしタラ、案外(あんがい) 秋野ちゃん達がもう見つけてたりシテ…」

「それは…。というより、どっちかが見つけたらどうするつもりです?集合する時間と場所を伝えていない…」

機堂(ギーク)クンが携帯(ケータイ)持ってるデショ。(キミ)が機堂に電話してくれなイカ?」

「まぁ別にいいんですけど…」

…そのことだが、なんとも間抜けな話で、金田と機堂はどちらとも今日に限って携帯を忘れている。しかし、それに気づくのは、だいぶ後であった。


他にも、あっちでの生活 とか 最近ネギにハマっている とか 夏休みがそろそろ終わりそう とか そんなどうでもいいことを、だらだらと話し合った。

 だらだらと流れる汗はない。涼しい風が、気持ち悪い汗をかかせまいとしてくれている。涼しい風が、2人の会話を気持ちのいいものにしてくれている気さえする。

「ハハハ、それはどう考えても こどもっち時代に問題があるやつだ」

「そうカナ?おせわ もちゃんとシテると思うケドなぁ…」

機堂(ギーク)に聞いてみたらどうですか?あいつなら、この()のゲームも(くわ)しかったはずですよ」

「デモ、機堂ちゃんは私のコト嫌ってるシ…」

 急に何かを思い出すなんて、そこまで(めずら)しいわけでもなくて、金田もまた この時、急にあることを思い出した。

「それはあんたが悪いとも思うが……あ!ところで、この前の電話で 俺に渡したいものがあるって言ってた気がするけど、あれって結局 何ですか?」

思い出したとは、このことだ。ユリが8月14日にした電話で話していた、「渡したいモノ」。(たし)か、そんなことを言っていたのだ。

「ア〜。あの話…。もう少し後でもよかったケド、もう言っちゃうカ」


「知り合いにサ、少し変わった(やつ)がいて、そいつが君…金田クンに会いたいって言ってるんダヨ」

さっきまで しゃがんでペンダントを探していたユリは すっ と立ち上がった。

 ってか…ん?渡したいモノ の話は?

と金田は思ったが、そのクエスチョンはもうすぐ終わる。

()わりに、より大きなクエスチョンができるからだ。

 ユリは、どんどんと言葉を吐き出した。

「その知り合いが、君みたいな人を(さが)してるんダッテ」

「…へぇ」

 “俺”じゃなくて、“俺みたいな人”に渡したいのか…。それにも理由があるんだろうか。

金田の頭をぐるぐるとはてなマークが回っている。

「つまり、君みたいな人に、私の知り合いは渡したいモノがあるらしいんダ」

「なるほど」

「それは…エート、変な名前をしていて、(たし)か…」





「神になるための権利、だったカナァ…」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ