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地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
壱章 私と彼女とこの物語
11/66

(10話)留守番電話と大予言

-[私]の名前は、(あき)() ()()。今、歩いているところだ。

友人が、ある戦いに勝った。その帰り道を歩いている。

 私は、これからもあんな戦いが続くと考えると、少し不安になった。というのも、さっきの戦いで友人である金田がかなりの怪我(けが)()ったからだ。


 ジーッ、ジーッ と、どこかで(せみ)の鳴き声が聞こえる。蝉の飛ぶ空は、夏だからか、それともまだ昼間ってだけだからなのか、まだ青い。


「あー。いま何時くらいなんだろう」

今年の8月8日はやけに長い気がした。

「もうそろそろ家に着くし、そこで時計(とけい)見るか。この(ごろ)になると、昼が長いからなー」

(となり)にいる金田が答える。なんとも(せい)()が無い。

「それもそうか」

それもそうだ。


 よく分からん工場から帰っているのだが、どうやら彼が帰り道を行く()(ちゅう)で覚えたらしく、スムーズに帰ることがでいている。


 そろそろ(かね)()()だ。…と、ここにきて、今更(いまさら)ながら思い出す。

「お前、よくよく考えたら ゴム(だん)2、3発は()らってるのに、そのまま帰ってきて良かったのか?」

どこかで見たことのある、本の内容を彼女は思い出したのだ。その本には、『ゴム弾は()()()(せい)(へい)()で、相手を()(しょう)させることなく()(りょく)()させることができる。』と書いていた。(おそ)らく(なに)かで見た(まん)()だ。

しかし、重要なのは、そこではなく、その後の文だ。その本には、『()(りょく)(おさ)えなければ、(おお)怪我(けが)してしまう。最悪、死に(いた)るケースもあるのだ。』と書いていたのだから。

実は、その漫画はこの国では有名なもので、数年前にはアニメ化もされている。しかも人気は、まだまだ続いていた。なので金田もそのゴム弾のことは知っていた。

「…うん。なんか、その時はめっちゃ痛かったんだけど、今はもう痛みはそんなにないんだよ」

さすさすと、右腕をさする。右腕には、まだ赤い(あと)があった。

「本当か?」

不安になって聞く。

「いや本当に……」

本当であることを肯定(こうてい)した後、彼はしばらく黙った。

「…?」

「ああ…そっか。そういうことだったんだ。カフネさんが最初に言ってたな、『殺してまで権利を(うば)うヤツらとは違う』って」

金田は手を胸に当てた。

「つまり、それって…!」

「うん。多分、()()(げん)してくれてたんだ。だから…」

()(じつ)、そうだった。というかそうでなければ(そく) 病院に行くはめになっていたのだ。

 手加減してくれていたから、勝てた。そのことを知り秋野は、カフネとルークに感謝すると(とも)に、さらに不安になっていた。「いつか、その『殺してまで権利を奪うヤツ』に()う時がくるんじゃないか」と…。



「…っと、着いた。今、何時なんだろう」

金田に()いかける。

「まぁ、7時ってことはないだろ。夏の空は、ずっと明るいから6時はあるかもしれないけど」

そう言って、彼はインターホンのボタンを押した。ピンポンと音が鳴る。

(かぎ)を持っていかなかったので、家にいる金田の母に扉を開けてもらうしかない。

「…」

 いくらか待っても、反応はなかった。

「どうする?」

秋野の宿題も、その中にあるのでそのまま帰ることはできない。

金田は

「いや…どうせ」

と言って、そのまま扉の()()に手を伸ばした。

 取っ手を(つか)んだ手が引かれると、ガチャという音と共に扉が開いた。

「ええ…。()(じま)り…」

ゆたっとツッコミを入れる。秋野の家では考えられないことだ。

「母さん、マジで頼むよ」

金田もこれには(なや)んでいるようで、「ただいま」の()わりに 母に戸締りを頼みながら家に入った。

続いて秋野が中に入る。


 その後、2人は2階へ上がっていった。彼の部屋で時間を確認するためだ。

「で、何時なのかね」

壁に()けていた時計を見ると、それは4時23分を(しめ)していた。

「おお、思ったより、早くに終わってたんだな。あの戦い」

「うん。でも、昼飯も食べてねー」

金田は腹を抑えてそう言った。確かにそうだ。思い出して、何か食べたくなった。

「そうだった。宿題してる時は、なんか『ここまで来たしもう宿題全部やっちゃえ』って感じで、空腹はあんまり気にならなかったけど」

「じゃあ今からなんか買いに行くか?」

「あー、(ゆず)。すまん。金 持ってきてない」

「えー、おい」

「まぁ今日はもう帰るわ。ここにいても、迷惑かけるかも知らんし」

「いや?別に。まだ4時だし」

「いやぁ。ここにいて、ご(はん)をご()(そう)になったりしたら迷惑だろ」

「あー…」

金田は、「そもそも今、家にある食べ物は、多分ちくわしかない」ことを言わなかった。

「じゃ」

「うん」


 もう2人ともお腹は減っていたし、金田なんかは疲れていたので、ここで解散することになった。

 持ってきた宿題を取り、軽く手を振りながら部屋を出る。すると、すぐに階段があるので、そこから1階に()りた。

「あら。もう帰るの?」

たまたま、通りがかった金田の母に会う。手には、テレビゲームを遊ぶためのコントローラを握っていた。さっきまでゲームをしていたのだろう。白い美しいフォルムが心をくすぐる。

それはそうとして、もうお腹も減っているので帰らなければならない。

「はい。お(じゃ)()しました」



 こうして、今は自分の家の前にいる。インターホンを鳴らして、家に入るのを待っているところだ。

少しして、ガチャ という音がする。それを合図に、家へと入った。

「ただいま」

返事はなし。2階の掃除でもしているのだろうか。

 ゲーム機でもあれば、いい(ひま)(つぶ)しになるのだが、今は持っていない。そのため、しょうがなく(もの)(おも)いにふけることにした。


 はぁ。

神…か。あいつがあのまま勝っていけば、もしかして神になるのか?そんなに上手(うま)くいくもんなのか?

ルークさんみたいな神候補ばっかなら、まぁ命の危険はないと思うけど。でも、神候補 全員がああいう(わけ)じゃないだろ。うーん。あいつマジで大丈夫か?

どうも、心配だ。

…いつまでもこんなこと考えてても()(かた)ないか。別のこと、別のこと。あー、そういや あのゲームっていつ発売されんだろ。人気シリーズの続編ってだけあって、面白いだろ。やってみたいなぁ。


 その後も 4、5分ほど よく分からないことを考えていると、ついに上から音がした。階段から下りる音だ。

面倒くさいことに、秋野家では、外出した後に家に入るためにはまず体を洗わなければならない。そのためには、風呂場に行くためのスリッパもいる。そしてスリッパは母が用意するのだ。

母さんが下りてきたってことはもうそろそろ家に入れるな、と思うと同時に、秋野はとても深刻(しんこく)由々(ゆゆ)しき()(たい)に自分がなっていることに気づいた。できれば気づきたくなかった。

 あ…。今更だけど…私が病院にいた時、アークさんと金田以外、お見舞いに来てない…だと!?これは…。流石(さすが)にもう少し友達いると思ってたのに…。


「少し待っていてちょうだい」

自分の母親のその言葉を聞いて、考えるのをやめた。

 スリッパが用意される。もうじき風呂だ。



 家にいても特に変わったことがあるわけではない。体を洗ったら、ソファに座ってだらだらとするのみ。今日のテレビって なんかあったっけ、だなんてことをボーっと考えていた。

50cm先には、低いテーブルがあって、さらにその1m先にはテレビがあった。

わざわざテレビまで歩いて電源を付けなくとも、今はリモコンという (えん)(きょ)()(そう)()で電源を付けたりチャンネルを変えたりできる便利な物がある。そのリモコンに手を伸ばす。


 今日は8月8日、火曜日だ。好きなテレビ番組はなかったはずだが、つい確認したくなってしまった。

 テレビのリモコンを手に取ったとき、ふと隣にある()(てい)(でん)()(…つまりは家電(いえでん))が目に入った。その白い体にたくさんのボタンを付けたそいつは、右上のボタンを赤く光らせていた。留守(るす)(ばん)(でん)()があるということだ。

赤くなっているところをピッと押して、電話の内容を再生する。

()(どう)です。えーとォ。もし、お母さんの(ほう)が聞いたのなら、真絵(まえ)さんに伝えといて(くだ)さい。…ほな、真絵に。秋野?お前、(だい)(じょう)()か?テストの日に早退(そうたい)してから、ずっとやろ?お見舞い行こうにも、どこの病院か分からんし…。あ、もうそろそろ時間や。また連絡するわ」

約30秒の再生が終わる。よくもこの短い時間内に、ペラペラと喋れるものだ。


「ギーク…」

ぼそ、と秋野は(つぶや)いた。ギークというのは、彼女の友達の()(どう)という奴のあだ名だ。なぜかというと、機堂が技術オタク(ギーク)だったからに過ぎない。


 すぐさま、電話をかけた。今はまだ5時20分。昼ご飯は6時になりそうだが、別に気にはならなかった。今は何よりも、久しぶりの友人と話がしたかった。

プルルルル、プルルルルと3回鳴って、電話が繋がった。

「はい、もしもし。機堂です。どちらさんですか?

面白い方言(ほうげん)の混ざった声が聞こえる。

「よう。ギーク」

「!秋野やんけ。え、大丈夫なんか?何があったか知らんけど」

「さぁ。ま、大丈夫でしょ」

(なん)(なん)や。何があったんや」

「え?金田に聞いてないか?」

「やァ、あいつの家の電話番号知らんくて、全然電話できへんねん。しかも、あいつもテストの日に早退したやろ」

「そうだな。…でも、うーん…私は大丈夫だよ」

「へー。そうなんか」

「うん。それと(こん)()(ゆず)から電話番号教えてもらっとけ」

「それは思った」

「はぁ。久々(ひさびさ)に話せて良かったわ」

「何や急に」

「いや、何でもない。それより、最近のゲームでオススメのってあるか?」

唐突(とうとつ)やな…。てか、最近のゲーム教えて(なん)になるんや?どうせお前、(やっす)い中古のゲームしか買わんやろ」

「バッカ、新しいのはお前に買わせて、そっちに遊びに行くんだろが」

「おまっ、何てことを…。手加減せーへんぞ」

技術オタク(ギーク)が私なんかに本気出すなよ…。でも、そういうことだから、(ヒマ)なときに連絡 入れるわ」

「おう。じゃあな」

「うーい」

楽しそうにボタンを押して、電話を切る。これは、(いそが)しくなりそうだ。


 いやぁ。いつ あいつの家に行こうかなー。といっても、私は別にいつでもオッケーだけど。や、(ゆず)はどうかなー。


「あ、テレビテレビ」

途中、つい電話してしまったが、そもそもの目的はテレビを見ることだった。

 嬉しい遠回りをしてしまったが、ついにテレビのリモコンに手が届く。よく考えれば、長いこと病院にいた上にその間はテレビを見ていないので、約10日ぶりに見れる ということになる。

ポチ。

ボタンが押されるとほぼ同時に、テレビから光が漏れる。その(うす)くて黒いが画面は広いテレビは、最新型のもので、そこそこ自慢できるほどの性能はあった。画面に高画質な映像が流れる。

 今は午後5時30分ほど。人気バラエティー番組というよりは、ワイドショーというかニュースなどが多い。アホなことに、それに気づかず、アニメでもやっているかなとテレビを見てみる。

「うーわ、何も無いじゃん」

ピッ、ピッとチャンネルを次々に変えるが面白そうな番組は何も無い。

この後はどうなのだろう、と番組表を見る。この後はどんな番組があるのかチェックしていると、彼女の(きら)いな感じの番組が見つかった。

『本当のハナシ。~予言は本当に外れたのか⁉︎ノストラダムスの大予言SP(スペシャル)‼︎~』

 クソみたいにデカい溜息(ためいき)が秋野の口から()かれる。これには、つい(ひと)(ごと)が出た。

「またか。都市(とし)伝説(でんせつ)…だろ。こんなの。結局 外れたし!」

別に、都市伝説が怖いんじゃなくて、信じてないだけなんだけどね!と自分に言い聞かせながら、そう言った。


 きっとほとんどの人は分からないだろうから説明しておくが、『ノストラダムスの大予言』とは、その昔 地球で書かれた予言である。その予言には、『1999年7月に、空から(きょう)()大王(だいおう)が降りてきて、なんやかんやあって世界は(ほろ)びる!!!』とか書かれていた。ちなみに、()()でいう『世界』とは『地球』であって、『サースター』(この星)ではない(さらに言うと、結局 地球は滅びなかった)。というか、こんなどうでもいいことはこの(もの)(がたり)とまったく関係ないので、覚えなくていい。


「やっぱり、『本当のハナシ。』シリーズはクソだな。他、他」

とにかく、こんな都市伝説を見ることに、()(ちょう)な“(ヒマ)”は使えないので、さっさと忘れて 番組表の続きを見た。

ピ、ピ、ピ…ピ。

「ふーっ」

 無し。もう、テレビを見るのやめ。ゲームしよ。

テレビの電源を消す。ゲームをすることにした。

病院送りにされたり、命の恩人に会ったり、友人が変な戦いに参加してたり…ここまで変わったことがあっても、変わらずゲームはするんだなぁ、と思うと笑えてきた。あぐらを()いてスリッパを()く。そして、ポケットゲーム機を本棚から取った。


 ピコピコとゲーム機を(あやつ)りながら、いつ()(どう)の家に行こう…なんてことを考えた。

 明日…いや、急に行ってもアレだな。明日は金田のやつに連絡入れて、機堂のことを伝えるか。 あ、そういや機堂は『神になるための戦い』を知らないのか…。()(やみ)に広めることでもないし、それも柚に教えとこ。



 次の日、実際に電話した。普通にスムーズに話は進み、8月10日に機堂の家に集合することになった。テストが近い時は勉強、その後は秋野が入院と、しばらく遊べなかったが、3人が遊ぶのはいつものことだった。


 3人が遊ぶのはいつものこと。そして、その日 3人は少し久しぶりに会った。

知り合いの家に向かうと、2人の青年(せいねん)がその家の前に立っていた。

1人は、 (かね)() (ゆず)。もう1人は…



笑っているように見える、ツリ目。ツリ目なのに、(おだ)やかな顔に見えるのは、不思議(ふしぎ)としか言いようがない。 そして、その少し太った体。まさにパソコンオタク…ギークそのものだ。名前は、()(どう) 誠一(せいいち)彼女(あきの)の親友だ。



機堂(ギーク)は、その2人に向かって話しかける。

「よう。お前ら」

2人は、ほんの少し前に来たみたいだった。いや、そもそも機堂の家だから、彼は“来た”と言ったら変だが。とにかく、3人は(そろ)った。

「うーわァ。久しぶりやなァ。何や、最近 調子悪かッたらしいからな」

「うん。色々あったからなー」

「そうなんか。ないと思うけど、変な事件とかに巻き込まれてたり…なんて、心配したわ」

「…まさか。お前、昔っからそういう予想が外れるよな」

「そうか?(するど)い方やと思っとったけど」

そうだ。鋭いのだ。ヒヤヒヤするので()めていただきたい。

「…さ、さっさとゲームしよう。お菓子(かし)持ってきてるぞ」

なんとか金田の天才的な提案(ていあん)によって、本来(ほんらい)よりも早く家に入ることになった。

「あのなァ、家 入れるんはええけど、お前らがお菓子持ってきたらまた太るからやめてくれ」

そう ぶつぶつ呟きながら家の扉を開けた。太るのは完全に機堂の勝手だが。


機堂と金田が中に入ってゆく。2人はいつものような話をしていた。

「そういや、今 何か面白い(まん)()ある?」

「あァ、最近のんやとな…『ONE(ワン) PIECE(ピース)』とかやな。今はそんなに人気あるって聞かんけど、あれはきっと売れるわ」

「ほーん。それ、()()の漫画?」

「いや。地球のや。やっぱ、漫画はサースターのより地球のが好きやわ」

「あー。それは分かるかも」

「やるや……ん?秋野?どうした」

機堂の声で、やっと秋野は家へと走り出した。

「ううん。何でもない!」

近頃(ちかごろ)のよく分からない出来(でき)(ごと)による不安が少し薄れた気がした。

 金田の手にあった、お菓子の入ったビニール袋がカサカサと(ここ)()()い音を立てながら()れていた。




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