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地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
壱章 私と彼女とこの物語
10/66

(9話)初めての戦いと結果

 灰色の空間。

右の(かべ)には、ハンサムな男が1人と、少し髪の短い女が1人いた。そのどちらも今 (だま)っているのでここは静かである。

目の20m先にはラフな格好(かっこう)をした中学高学年生ほどの青年が1人。しかし手にはなかなか物騒(ぶっそう)な物を持っていて、さらに言うと、迷惑(めいわく)なことにそれは自分のために使われている。スリングショット(つまるところパチンコ)と、専用のゴム(だん)4つだ。


 ここは…とある(はい)(こう)(じょう)。そして、まさに今 金田にとっての初めてのバトルを経験(けいけん)する場所でもある。教室での、数学教師との()()はバトルにはカウントしない場合の話だが。


 ズクズクと、変な感覚(かんかく)がする。…まだ痛い。ゴムって、あんなに当たったら痛いのか。そう思えた。

金田の右手は赤くなっていた。これでは魔法を()つために手をかざすことも難しいだろう。もう左手でしか氷は撃てない。

「いつもの戦い方じゃないから、あんまし上手(うま)くはいかないと思ってはいたが…案外(あんがい)やれるもんだな」

そう言って、自分と向かい合っているルークは、3つの弾をポケットにしまう。(すき)ができた。

「っ!」

そこを(ねら)って左手から氷魔法を(はな)つ。自然の少ない都会では見ることのできない 少し大きめのつらら。



「し」 まった。

すべての台詞を言うことすらできない。小さな氷の柱は、すぐ()()なんて近さじゃない!もう()()だ!体を動かさざるを得ないと脳に伝わった時にはもう間に合わない!どうしても、当たってしまうだろう。


 ピッ。


「あがッ!」

()けきれず 右の(あし)に当たってくれた。かすった程度だが、これは意外にもでかいことだった。

先端(せんたん)(とが)った氷の(かたまり)がかすったのだ。

かするだけでも相当(そうとう)痛いなんてことは、当たったルークが一番分かった。


 (しょう)(げき)で手に持っていたゴム弾を落としてしまったらしい。小さな黒い球体はポーンと()ねながらどこかに転がっていってしまった。

「クソ。(はか)りやがったな」

氷に当たった()(しょ)から じわ…と血が出ている。半ズボンの外にできた傷は ほんのりと冷気を()びている。


「…ルークさん」

「ん?…んだよ」

 質問(しつもん)を受けていた彼は(すき)を見て、コロコロと転がっているゴム弾を追いかけていた。追いつかないので「あーっ」と言っている。

「どうして俺じゃなく秋野のヤツに手紙を出したんすか」

「あー。あれは」

と、ここでついに追いついた。ひょいとその黒い球体を拾う。

「前、お前とあっちのコが一緒に歩いてんのをカフネが見たらしくてさ。そいで、金田君が神候補だってのに気づいたんよ。まぁ()(りつ)使いは『神になるための権利』を持ってるかが見れるからなー」

「へ、へぇー」

知らなかったとは言えない…と金田は思っていたようだが、そんなことは(たい)()からバレている。

「でも、アホなことにあいつはお前だけ()(うしな)ってなぁ。どっかでお前らが別れた時、だっけ」

「そうですね。分かれ道で別れた時です」

ぺたりと壁にもたれているカフネが(はし)から(しゃべ)る。

「しかし、それからというものクソみたいに大変(たいへん)だったんですよ?秋野さんが家に着く前に、例の手紙を書き上げたんです。そして近くにあった秋野家のポストに入れました。(さいわ)い、(しゅう)(へん)に秋野という名前の人はそこしかいなくて助かりましたよ」

話し終えると一つ、長い息をついた。

「へーいへい。すません。この後うどん(おご)りますよ と」

「いや だから…」

「なんか調(ちょう)()(くる)った。もう再開(さいかい)すっぞー?」

そう言ったルークは、(すで)にパチンコのゴム(ひも)(たま)をセットしていた。


先に手を打つしかない!


「!」

 左の手をルークへと向ける。

「んなのにいつまでも負けてるかよ!はぁっ!」

 もう弾を撃たれた!そう感じこちらも魔法をぶっぱなつ。1秒にも()たない短い時間、ルークの姿(すがた)確認(かくにん)した(のち)に。

「ずぁっ!」

 ()()けな声で(しょう)(かん)したソレは空間(くうかん)を進んでいく。

 …ズガァッ!

しかし水色のソレは壁に当たった。今、音を立てて(くず)れているところだ。

 氷柱(つらら)はルークに当たらなかった。

しかし、あろうことか お返しにゴム弾がしっかりと飛んでくる。

「え、な」

本当についさっきまで小さかった黒い球は、いつの間にか大きくてまぁるい(こっ)(きゅう)になっている。いや、実際(じっさい)に大きくなってるワケではなくて、近づいているから大きく見え



ズドン!!



…た。



(いった)い!!!脳から来たその信号(しんごう)は、すぐさま口から出ていった。

(いった)ぁ!」

 何が起きたんだ!?痛い痛い痛い!何!あ、あぁ…。(かた)の、感覚(かんかく)を…感じ、ない…。

左の(かた)が、何か(おそ)ろしいものに(つらぬ)かれたとしか思えない。勢いに負けて(あと)退(ずさ)りまでしてしまった。

「痛、いっ…痛ぁ」

「かーッ!笑いが止まらん。あー、面白い」

「…何でだ。同時に撃ったはずじゃ…」

なのに、なぜ後からあいつの攻撃が来たんだ…?あの音…確かにルークはパチンコのゴム弾を放った…。

 ただ単に、ルークが攻撃のタイミングをずらしただけなのだが、戦いの中で思考があまりまとまらなくなってしまった。それにしても、左肩に受けたダメージが大きすぎる。


「おい金田ァ!」

「…?」

(こん)()は俺から質問させてもらうとするかァ!」

とか言いながらも手はしっかりと、スリングショットにゴム弾をセットしていた。

「お前は、何のために神を()()してんだよッ」

ゴム弾が飛ばされた。どこにしろ、次に弾が当たればもう戦闘(せんとう)を続けるのは()()(のう)だと思われる。

そんな時、金田には時間がゆっくり動くように見えた。


 あれ。そう言えば、何でだっけ…。神候補になったのも…親戚(しんせき)みたいなヤツが『神になるための権利』をくれたからってだけで…いつの間にかそうなってたとしか。

あ、そうそう、思い出してきた。俺に『権利』をくれた()(りつ)使いは確か、叔母(おば)さんの(よう)()だ。たまに遊んだりもしたが、この前 (ひさ)しぶりに会ったと思ったら「ねぇ、神になりたくない?」だもんなぁ…。正直な話、少し()いたな。

……じゃ なくて!!…確かに、戦うのが(いや)なら誰か他の神候補に【(ゆず)】ってしまえばいい。でも、俺は…



俺は



 不思議(ふしぎ)と、金田にはやる気が(みなぎ)ってきた。ただ、そのゴムでできた(こっ)(きゅう)は近づくことを()めようとしていない。

「……ぬおっ!」

面白い声を出したのはルークだ。そのすぐ後に、ゴム弾が(すご)(いきお)いで壁に当たる音が()った。


「……!こりゃ(おどろ)いた!()けたのか!」

大声で驚きを(あらわ)した後、

「……。馬鹿(ばか)な…。スリングショットで撃ったモンを避けるって…(どう)(たい)()(りょく)のいい知恵(ちえ)使い達くらいしか無理だろ」

小声で驚きを(つぶや)いた。


 なんと金田はゴム弾を避けたのだ。彼が避けれたのは、ほとんどが運のおかげなのだが。しかし、ルークの攻撃が当たらなかったということは()(ちが)いなかった。

「た…助かった…」

金田よりも先に(あん)()の息を()らしたのは、秋野だった。


 ()(かた)がまた、(たお)()むようにしゃがんだのだが、それがまたギリギリでの行動(こうどう)であった。とにかく、今はしゃがんだかのような姿()(せい)をしているので、まずは立たなければならない。そして、立ってあいつに神を目指す理由を教えてやるのだ。

その気持ちを(げん)(どう)(りょく)に体を動かす。

「ぐ…お、おぉ…!」

ついに金田は立った。

「ちと やばいな…」

 小さな不安が心に宿(やど)ったのが分かる。ルークの不安とは、(たま)()れのことだ。手元にあるゴム弾は残り3発。

あの状態の金田が相手なら、3発でも十分足りるだろう。しかし、ルークは思ったより(しん)(ちょう)に行動する(やつ)だった。(しん)(ちょう)()(だい)(あせ)りへと変わっていく。



早く戦いを終わらせよう。



()(ぐう)にも、2人ともがそう思った。

 金田もまた、戦いを早く終わらそうとしていたのだ。理由は極々(ごくごく)簡単(かんたん)。もう体力が持たないからだ。これ以上ダメージを受けたら…。

「命を心配するほどではありませんが…次に攻撃を受けたら、金田君はもう戦うことができないでしょう。そろそろ(しょう)(はい)が決まるでしょうね」

カフネも、もう早く終わりそうだということを感じていた。


 先に攻撃を()()けたのは、金田だった。痛む右手をルークへと向けるべく動かして、氷魔法を(はな)つ。それと同時に()()ぐにルークに()()んでいく。

 スリングショットをセットしてゴム弾を放つというのは、時間がかかるのだ。氷をゴム弾で撃ち落とす時間なんてない。

スリングショットに向けられて撃たれた氷を避けながらポケットの中のゴム弾を取り出す。それをセットしたゴム紐を思い切り引っ張る!

「おぉお…!」

 声を上げながら金田は走るのを止めない。

そのまま近づいてくる金田にゴム弾をぶち()んでやるのだ とルークは(ねら)いを(さだ)めている。

 さっきまで20mも()いていた、2人の(あいだ)はどんどんと小さくなってゆく。10m……。5m…。3m……今だ!!2m先の目標を目指して弾は飛ばされた。

 このまま何もせずに突っ込んでいったら、(はら)の ど()(なか)へゴム弾がめり()むだろう。

この距離を避けれるのか?その先を考えるのが(いや)になった秋野は()()(しき)の内に目を閉じていた。



 結果から言うと、金田は避けなかった。彼は『(にく)()らせて(ほね)()つ』的な攻撃の方法はやりたくなかったのだが……この場合は()(かた)ないと思えた。

「お前、(みぎ)(うで)を…!」

やはり、また、ゴムの()ねる音が聞こえた。彼の体に当たった後、床に落ちて跳ねている。

 金田は、ルークがスリングショットのゴム紐から右手を(はな)した…つまりゴム弾を撃った と分かった()(たん)に体を左に向けた。そのため、体の右側面(みぎそくめん)がルークの方向に向けられたのだ。

こうなってはゴム弾が当たるのは(みぎ)(かた)(みぎ)(うで)(みぎ)()(みぎ)(あし)のどれか…と 当たる選択(せんたく)()(かぎ)られた。右腕を160度 ()げているので、(よこ)(ぱら)はガードされていた。()(なか)は もし当たっても精々(せいぜい)かする(てい)()()んだだろうし、そもそも当たっていない。

 そしてゴム弾は右腕に当たったのだ。

「チィッ!」

 いよいよラストの1発をスリングショットにセットする。その間にも、金田は動いた。痛む体を無視(むし)して、2mを()(すす)む。

予想はもうつくが…ルークがセットしたゴム弾を放つよりも先に 金田はルークの(もと)に着いた。

 ルークの胸元(むなもと)には、金田の手が当てられている!つまり、金田は今 0(ゼロ)(きょ)()で魔法を当てることができるというわけだ…!

「…どうした?早く撃たないのか?」

「…」

スリングショットとゴム弾を()てた。床に落ちて、カランカランと()り、その音に金田の体はビクッと反応した。

「こんなに近い距離で…!俺は、力使いだぞ?お前の魔法と俺のパンチ…どっちが速いか試してみるか?」

耳の横に置いているのか と思うような大きさの、自分の心臓(しんぞう)の音が聞こえる。その音に()()されそうになりながらも、

「…はい」

言葉を返した。

魔法使いがガードなしで力使いの(こぶし)を受けてしまったら…その結果は誰しもが分かることだ。体の強くない魔法使いが、力の強い力使いに(なぐ)られる。そのリスクを知った上で金田は(けっ)(ちゃく)をつけにきたのだ。

「……()めだ、()め。俺の負けだよ」


この時 ルークは 金田に 【負】けた。


「えっ?…あれ?」

「だから、俺の負けだよ。そもそも俺は力使いじゃねー。知恵使いだよ。だから俺のパンチとお前の魔法、どっちが強いかなんて比べ物にもなんねーよ」

確かに氷が当たる(たび)に、力使いとは思えないくらいには痛がっていたが。しかしそれでも、最初に見せたコンクリート()(かい)パンチのインパクトが強すぎて力使いとしか思えなくなっていた。

「つまり最初のパンチは…」

「あー。ありゃ()()けがあんだよ。ったく、氷の魔法が痛かったのに。やっぱ()()(まん)は良くねェわ」

ルークが傷の部分を手で(おさ)える。


(ゆず)ーっ」

 壁の方から(おさな)()()みの女の子が走ってきた。

「……じゃな」

それに合わせて、ルークはひらひらと右手を()りながらカフネの所へと歩いた。

「おい、おいおい!勝ったじゃんか!まともな戦いで!」

背中をバシバシ叩かれる。

「勝った…。勝ったのか!後、痛いからやめて!」

「あっ。すまん」

ぱっ と秋野は手を(はな)した。

「うん。…でも、完全に自分の能力でって訳じゃないけど、本当に勝ったのか」

実感(じっかん)というのが()かない。

(ゆず)…なんか今、疲れた…って顔してんな」

「そ…そか?ま、実際 疲れてるから」

「それもそうだけど。……じゃ、帰るかー。色々と、喜びたいと思うけど、とりあえずは…家に帰ろうぜ」

「うん。賛成(さんせい)

「……歩けんの?」

「じゃあ おんぶしてくれ」

馬鹿(バカ)も休み休み言え」

「ハハ…。あ、待った」

「ん?」

キョトンとする彼女を待たせて、歩いてゆく。壁へと歩いているのだ。


 壁の方では、ルークとカフネがいた。

「ん?どうした。もう俺の『権利』ならお前に(わた)ってるはずだぞ。な、カフネ」

「ええ。このアホは【負】けたので。…はい。確かに渡っています」

じーっと見た後、カフネが確認済みの情報を教えてくれる。しかし、金田の目的はそれではなかった。

「いえ…。そうじゃなくて。その、さっき質問された神を目指す理由、伝えた方がいいと思って」

と言うと、自分が()(しき)(たか)いみたいだったが、(なん)となくモヤモヤしたのだ。

「そうだった。ま、別に答えてくれなかったの気にしてねーんだけども」

一応(いちおう)聞いときましょう。ルー…ぶっ!ル、ルークさんっ!ハハハ!」

「バッカ、あの()(めい)()(かた)ないだろ!咄嗟(とっさ)に思い付いたヤツなんだから」

「ハハハ」

カフネはまだ笑っている。

「…たく。でも(いち)()ある。理由、聞かせてくれよ」

座っていたルークが金田を見上げる。

「は、はいっ!」

そして、彼は初めて 神候補になり、神を目指している理由を人に言った。


 すべてをやり()えた。今は家に帰っているところだ。

「なぁ。…何話してたんだ?」

「神を目指してる理由」

「え!マジか!私でさえ聞いてないのに!」

「いや、分からないのか。(さい)()先生の時にもう分かったのかと思ってた…。できる限りで、困ってる人を助けるためだよ」

「おー。ちゃんとした理由。(せい)()のためーみたいなアホっぽいやつかと思ってた」

「オイ」

「てか、どうせ親戚(しんせき)とかに(だま)されていつの間にか神候補になってたとかじゃないんだなぁ」

「ヴッ!」

「どうした。……まさか…」

「いやいやいや!さ、さ。口じゃなくて足を動かせ」

「家まで歩いて帰ってんだから、足は動かしてるが…」

2人の足は、(かね)()()へと向かって動いている。




-ここは、(すた)れた工場だ。少し前まで、そこそこのバトルが()(ひろ)げられていたが。

今は、2人の男がいるだけだ。

「聞きました?困ってる人を助けるためですって。良いことですね」

「…そのために無理(むり)しなきゃいいがな。あーあ。【負】けたぁ」

「いやいや。かなりの善戦(ぜんせん)でしたよ。特に、自分を力使いのように見せて、接近(せっきん)(せん)()けたのは流石(さすが)でした」

「そう?知恵使いに接近戦は危険過ぎるからな。俺、頭良いな」

「やれやれです。まったく。いつも私をクソ厄介(やっかい)なことに()()んで」

「それは悪い!しかもお前に(もら)った『神になるための権利』も無くなったし」

「もういいですよ、それは」

「いや本当に。何か(おご)ってやるわ」

「では今夜にでも。一緒に うどんでも食べに行きますか?」

「……おう!」

「さ、立てますか?」

「どうにかな」

「あ、そうだ。これ、(あず)かっていた本です」

「サンクス」

「はい。……さて。ここら(へん)美味(おい)しいうどん屋って、何か知ってますか?ルークさん」

「ルークて。だから…!」

「ハハハ」

この2人もまた、笑顔でここを()っていくのだった。勿論(もちろん)、床に()らばったゴム弾を拾ってから。




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