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胡蝶  作者: 戦国
9/17

9 夕暮れに染まる廃墟

 あやふやな記憶の中に、駅前に喫煙エリアが在った事を思い出した千堂は、とりあえず若葉駅へと向かう事にした。


大学があるのはもちろんだが、若葉駅は都市の中心を走る環状線の駅の一つであるため、道行く人は昼過ぎだろうと中々に多い。駅近くに辿り着くまでに結構な数の人々とすれ違ったが、道行く人々は活気に溢れ、その中に悲壮な顔をしているような人は皆無だった。

世間は表面を見れば基本的に平和そのものだ。我が国の素晴らしい所である反面、それでも事件が無くなる事は無い。今回の様な事件を担当する度に、千堂はそのギャップに嫌気が差す。

 千堂の目指す究極は、事件を解決する事ではなく、事件が起こらないようにする事だ。本人は『起きてから動くのは効率的じゃない。起きなきゃ動かなくて良い。』などと嘯くが、本質の所では単純に人が苦しむのが大嫌いだという優しさからくるものだった。


 駅が遠目に見えてきた所で、その道筋の途中にレンタカーショップと居酒屋がある事に千堂は気付いた。一服が遠退くのに一瞬顔を顰めたが、そのまま順番に裏付けのための聞き込みに行く事にする。

 しかし、思いの外聞き込みはあっさり終わった。レンタカーショップでも居酒屋でも簡単に裏付けが取れてしまった。レンタカーショップはともかく、昼間は開いていないのではと危惧した居酒屋だったが、幸運な事にランチタイムから営業していた。そして、レンタカーショップでは記録が残っており、居酒屋では学生達は常連らしく店長がはっきりと覚えていた。様子を聞いても普段と何一つ変わらなかったと答えてくれたのだった。


 大した手間を掛けずに仕事の一つを終えた千堂は、いそいそと駅前へ足を運ぶ。喫煙エリアに辿り着き、待望の一服を味わって至福の時間に浸る。精神的疲労の回復を心地よく感じ、数時間でこんなに疲れるものかと苦笑いを零した。

気分のリフレッシュを済ませた千堂は、上司へと頼み事の電話を掛ける事にする。数コール鳴った後電話越しに聞こえた声は、いつにも増して千堂への労りを含んでいた。


『千堂か。話を簡単に聞くだけでも随分と厄介な事件みたいだな。』

「お疲れ様です。事情は粗方九条とのやり取りで伝わってますかね?」

『あぁ。四人の行方を調べろと言われて訳が分からなかったが、前日の事故記録なんやらで出てきて余計に訳が分からなくなったな。』

「呪い云々の事は?」

『詳細は知らんし、到底信じられんがな。その学生が話した四人のうち三人も不審死が出てきたら、関係性を嫌でも考えなきゃならんだろ。』


 その返答に千堂は上司としての五味の存在に感謝する。事故死では無く不審死としている点でも五味自身が関係性を強く疑っている事が分かる。五味は他の上司に比べて、極めて思考が柔軟だ。例えば『前例に無い』事柄に対して即座に『前例に無いだけだろう?』と受け入れるくらいには度量の深さがある。そういった事もあり、体裁に拘る上司などから疎んじられる事も多いようだが、部下からの信頼は非常に厚い人物でもある。

 そんな上司だからこそ、これから提案する事柄も、渋りながらも受け入れてくれるだろうという希望が千堂には有った。


「唐突だけど五味さん。今日、俺と九条と一緒に寝泊まりしてくれないですか?」

『あん?どういうこった?』

「この後九条と遊園地跡地に向かおうと思ってます。」

『俺は呪いは信じて無いと言ったはずだが…お前も九条も違う判断なのか?』

「信じてないというより信じたくない、ですかね。それに内容がアレなんで、大真面目に検証って訳にもいかないでしょう?馬鹿馬鹿しいとは思いますが、それでも万が一を捨て切れません。九条も入るって聞かないので、五味さんにお願いするしか、という状況です。頼めますかね?」


 付け加えて、植松から聞いた夢と呪いの話をする。呪いの詳細は知らないと言っていたが、やはり九条との二回目の電話の時に聞いていないらしい。電話の向こうで唸り声が聞こえる。どれだけ柔軟な思考の持ち主でも、流石に馬鹿らしいという感情は拭いきれないようだ。

ただそれでも五味ならば、という確信に近い期待が千堂には有る。案の定溜息と共に電話口から聞こえてきた言葉は、部下からの信頼を裏切らないものであった。


『分かった。呪いじゃなく、お前と九条の感性を信じてやる。ただ、お前らが跡地に行ってる間に俺も一度帰るぞ流石に。23時くらいに署に戻ってくれば良いか?』

「ありがとうございます。とりあえずこの後16時に九条と署で待ち合わせしてるので、その時に一回五味さんの所に寄ります。では、また後程。」


 燻っていた不安だったが、とりあえず一つの備えを準備出来た事に、千堂はほっと一息吐く。ちょくちょく悪態をつく相手だが、やはり何だかんだ一番頼りにしている相手でもある。その事に思い当った千堂は、もう少しだけ五味を敬うようにしようと、薄っぺらな決意を胸に抱いた。



 署に戻ると九条に出迎えられた。少しだけ私服姿の九条に期待したが、ほぼ変わらないパンツスーツのままだった。それとなく聞けば、私服で来れば寝巻の他に翌日のスーツも持ってこなければならないだろう、荷物が増える、と当たり前のように返される。それもそうだなと千堂は納得した。

そんな会話を交わしながら五味のもとへと向かう。五味へ連絡を入れると喫煙所に来いとの事。その事を九条に伝え歩き出した所で、彼女からビニール袋を渡された。新品の下着と靴下が入っているらしい。本当に買ってきやがったと苦笑いして中身を確認すると、一緒に煙草が入っている。ちゃんと自分の吸う銘柄だ。


「九条、愛してる。」

「ワンコインで言ってくれるとは、先輩の愛は安いですねぇ。」

「ばかやろ。ちゃんと言わないのは日本人の悪い所らしいぞ。」

「言葉に重みが無いのは千堂文弥の悪い所らしいぞ。」

「おい。それ、俺が始めるやつ。あと、俺、先輩。呼び捨てダメ、ゼッタイ。」

「先輩なら、そもそもただの後輩に『愛してる』はアウトです。セクハラダメ、ゼッタイ。」

「おぉっふ…。すみませんでした。」


 くだらないやり取りの間に、気付けば五味のいる喫煙所に着いた。隣の九条は『してやったり』とでも言いたげな、少し幼くも見える表情をしている。決して無表情な女性では無いが、それでも最近彼女は自分に対する表情が豊かになってきているように思う。その事を思うと多少の無礼がどうでも良くなるのは、悲しい男の性なのだろう。千堂は気を取り直して五味に声を掛けた。

五味はこちらに気付くと、右手を挙げて応えた。しかし、表情が優れない。何かあったのかと尋ねると、吸っていた煙を深く吐き出しながら答えた。


「この短い間に二つ進展があった。良い知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたい?」

「うわっ、それ本当に聞く日が来るとは思ってませんでした。じゃ、悪い方で。」

「うるせぇよ。ネタにでも走りたい気分なんだよ。何なんだ今回の事件は。…んで、悪い方な。野田修哉が見つかった。死体でな。」


 五味はそう吐き捨てて、その詳細を語り出した。

 

野田修哉が見つかったのは都内にある野田の自宅らしい。地方出身らしく、若葉駅を通る私鉄の沿線上で一人暮らしをしていたようだ。

野田の捜索をする上で、当然彼の自宅にも捜査が及んだ。自宅の呼び鈴を鳴らしたが反応が無い。事件が事件なため、何か手掛かりを求めて自宅内に入ると、室内に入ってすぐ傍、玄関辺りでうつ伏せの状態で発見された。すぐに意識の確認をしたが、既に事切れていたらしい。死因は特定されておらず、現在は司法解剖へと回されているそうだ。


予想はしていたが、それでもその事実は千堂の心へ小さな針のように突き刺さる。九条の方も同じようだ。学生達にも嫌な報告をしなくてはならない。その事を思えば気分が滅入る。

そんな様子を見ていた五味が、空気を変えるように口を開く。


「で、良い方だが。病院からの連絡で稲葉と仲矢が回復に向かっているらしい。」


 その言葉に千堂と九条は目を見開き、思わず身を乗り出すようにして五味を見つめる。そんな二人を宥めるように声を低くして続ける。


「といっても、意識が戻ったとかそういうのじゃない。脳波検査する、と言っていたんだろう?」

「はい、午前中にそのような事を。」

「その報告があったんだが。詳細が送られてきてな。シータ波がどうとか明晰夢がどうとか専門的な事はよくわからんのだが。どうやら被疑者二人は夢を見ている状態に近いんだと。」

「夢、ですか。」

「あぁ。そして、少しずつ覚醒状態、つまり起きている状態だな、それに近づいている事も分かったらしい。このペースで行けば、近いうちに意識が戻るかもしれない、と。これは希望的観測らしいがな。」


 確かに五味の話した事は良い知らせではある。だが同時に、燻っている不安を煽るものでもある。植松の夢の話。それに信憑性を齎す情報ではないだろうか。思案に耽る千堂だったが、そんな千堂を窘めるかのような大きな声を五味が発した。


「そこでだ!今からお前らが跡地に行くのは聞いた。それで今晩泊る所だが、署内じゃなく病院に泊れ。呪いなど馬鹿馬鹿しくて信じたくもないが、脳波に何らかの影響が考えられるなら、寝てる間についでに観測してもらえ。病院側にも話を通してある。それぞれ個室で脳波測定器付けて寝てもらう事になったからな。一応俺も病院に泊るが、これなら安心して寝られるだろう。機材に纏わりつかれて寝苦しいかもしれんがな。ははは。」


 五味の大きな笑い声が、千堂の不安を吹き飛ばすかのように響き渡る。その提案に、千堂は改めて五味という上司の得難さを思い知らされる。

本人の言う通り、呪いなど信じていないだろう。だが、千堂と九条の感性は疑わずに信じてくれる。そうで無ければ、病院からの報告を読んだ所で、直ぐこの行動に移す理由が無い。部下に対して、物理的だけでなく心理的ケアも当り前のように行ってくれる。お陰で跡地へ赴くのに不安が随分無くなった。千堂は五味に笑顔を向けると、頭を下げて謝意を口にする。


「五味さん、本当にありがとうございます。ささっと跡地調べてきます。」


 顔を上げると、五味が顔を顰めていた。右手は掌を下にして上下に振っている。


「お前から真っ直ぐ感謝されると正直気持ち悪い。さっさと行って来い。」


 確かに千堂がこういった事を面と向かって言う事は少ない。だが流石に気持ち悪いは酷くないだろうかと千堂は憤る。同意を求めて隣の九条を見るが、彼女もうんうん頷いている。どうやら多数決によると、千堂の振る舞いは気持ち悪いようだ。

納得のいかない千堂は顔を歪めると、二人に背を向けて歩き出した。慌ててついてきた九条を横目に、数十分前に胸に抱いた薄い決意をペラリと剥がす事にする。敬うなんてとんでもない、これからもちゃんと悪態を吐いてやろうじゃないか。悪餓鬼のような新たな決意が立ち上り、心の中に未だ僅かに燻っていた不安を押しのけて居座る。


「ちゃちゃっと行ってちゃちゃっと済ませるぞ九条。さっさと事件も解決して、資料をガマガエルの顔に投げつけてやる。」




 千堂のセリフに九条は嘆息しながらも、小さな笑みを浮かべる。彼女がこっそり後ろを振り返れば、五味も穏やかな顔で手を振っていた。


悪態を吐くのは良い事だとは思わないが、それをしない千堂は弱っていたり集中出来ていなかったりする。逆に言えば悪態を吐き始めればいつもの調子だ、という事でもある。

 五味にしろ九条にしろ、千堂の扱いが上手いのは間違いない。しかし、千堂をコントロールしようと動くのは、調子付いた千堂を彼等が頼りにしているからでもある。当然千堂はその事を知る由もないのだが。


 千堂の強みは、事件の解決への道筋の中で余計な回り道をしない事だ。『効率的』に拘って動こうとする訳では無いが、『効率的ではない』と判断した行動は忌避する。そのうえで個人の感情は押し殺して動ける人間だ。

行動に移すのが頗る早く、またその選択も的確。結果、千堂以外ならもっと時間が掛かっただろうと周囲に思わせる案件は多い。その事が、五味や九条以外からの『優等生』という評価に繋がっている背景でもある。


 しかし、今回は九条が跡地に入る事を躊躇った。足が無いから九条の車を使うのは分かるが、それなら九条一人に行かせれば良い。二人で行っても良いが、それなら二人で跡地内を巡った方が見落としは少なくなるし、意見交換で解決への道筋が見える事だってある。九条をタクシー代わりにして外で待たせる理由など、個人的感情でしか無いのだ。


 九条はその感情を少し嬉しくも感じたが、同時に千堂の足枷になっているようで、もどかしいとも感じていた。そのため車内で柄にもなく声を荒げたが、千堂が心から納得していない事にも感づいていた。

 しかし、五味との会話を済ませた千堂は、事件に真っ直ぐ向き合っている。頼りにしている先輩の顔になった千堂の横顔を眺めた九条は、自身の足取りが軽くなっている事に気付いた。自身よりも千堂の扱いに長けている五味に軽い嫉妬を覚えながら、その悔しさを千堂にぶつける事にする。


「先輩。失言を黙っていますので、夕ご飯奢ってください。」

「え?セクハラの事?罰則重くない?」

「それプラス、『ガマガエル』って言ってますよ?五味さんの事ですか?」

「…えっ?イッテナイヨ?」

「『ガマガエルの顔に投げつけてやる』と、確かに。」

「…高いのは勘弁してください。」


 無意識の失言を思い出したのだろう、千堂が素直に申し出を受け入れる。言質を取った九条はニコリと微笑むと、千堂よりも一歩前に出た。

仕事とはいえ、今から向かう場所に対して未だ多少の不安と恐怖はある。一つくらい楽しみがあったって良いだろう。崩れかかった表情を隠すように九条は歩を速めた。


白くスマートな体に黄色いヘッドライトの車が見えてきた。その姿に昔飼っていたネコを思い出し、同じ名前を付けた車だ。相棒である愛車の窓には刑事らしくない顔の女が映っている。九条は両頬をパチンと叩き、引き締め直した顔を後ろの千堂に向けた。


「さ、先輩。ちゃちゃっと行きましょうか。」


 西日を背にする九条を見た千堂が目を僅かに細めた。きっと傾き始めた太陽が眩しかったのだろう。そのまま視界に映せば顰め面にさえ見える千堂の顔が、しかし九条には柔らかく見える。千堂の心情を読むなど九条には朝飯前だ。

可愛がってくれている後輩だからか、あるいは。脳裏に浮かぶ考えに気付かない振りをして、九条は運転席へと乗り込んだ。




千堂と九条を乗せた白の軽自動車は、思いの外早く跡地周辺へと辿り着いた。夏休み前の平日夕方、郊外へと進む道筋。順調に行くと思ってはいたが、それでも時間にして1時間掛からなかったくらいだ。反対車線は多少込み合っていたため帰りはもう少し時間を食うだろうが、これなら暗くなる前に周りきれそうだと千堂はほくそ笑む。

 植松の話にあった場所と思われるパーキングに車を止め、千堂と九条は車を降りる。歩き出したタイミングで九条がところでと千堂に問いかけた。


「スマホで何を調べてたんですか?」

「ん?あぁ、一応跡地の噂や過去の事件なんかをな。」


 質問に答えた千堂は、そのまま得られた情報を簡潔に九条に話す。彼は移動中の車内で

遊園地に関しての情報を漁っていた。


 植松から聞いた七不思議じみた『遊園地跡地の噂』は、ほぼどのサイトでも一致していた。おそらくあの七不思議が、オカルト的な噂のベースなのだろう。

しかし、過去に起きただろうという事件の噂は、確証が無い物ばかりだったとはいえ多岐に渡る。強姦事件はもちろん、七不思議にもあったジェットコースターでの死亡事故や子供の行方不明、酷い物では臓器売買の温床だったなんてものもある。


 千堂が気になったのは、事件についてだ。調べていく内に気付いたが、七不思議の方が噂としては新しい。当然の事だが、事件については遊園地時代、七不思議は跡地となってからであるため、順番としてはおかしくない。

 ただ、よくある七不思議の類というのは、噂自体が古くどういった経緯でそのような噂が出来たか分からない物が多いと思う。そのため、『七不思議に合わせた』過去の事件などがでっち上げられるような事もありえる。

しかし、この遊園地に関しては、遊園地としての時期も比較的最近であるため、噂の原因となっただろうと関連付けられる事件の詳細さえ、情報として出てくる。それが正しいかどうかは置いておくとしても、妙な説得力のようなものがある事が気持ち悪い。


「まぁ、ほとんどがガセなんだろうが、それでも実際に碌でもない場所なのは事実かもしれないな、と思ったわけだ。っと、着いたか。」


 話している内に問題の跡地前へと辿り着いたらしい。千堂と九条は並んで足を止めた。


 目の前に錆びに塗れた門がある。その向こうには確かに遊園地の施設の残骸らしきものがチラホラと視界に入る。目線の真っ直ぐ先にはお城のような建物が、その陰に見えるのは観覧車の箱だろうか。それが何かは分かる程度の大きさという事は、逆に言えばここからの距離がそれなりに遠いという事でもある。

 門の近くには園内マップがあった。確認すればお城は園の中心にあるようだ。予想していたよりも割と大きいちゃんとした遊園地だったらしい。


「こりゃ、日の出ている内に全部周るのは難しいかもな。…九条?」


 園内全部周るのは諦めようかと呟くと、隣の九条が自らの手や足を確認している。彼女にしては珍しい不思議な動き、端的に言えば挙動不審な様子に千堂が声を掛ける。


「あ、すみません。…あの、先輩は何か体の変化とか感じますか?」

「はっ?あぁ、成程。…いや、特に何も感じないな。」

「そうですか。私もです。少し不気味だなぁとは思いますけど。」


 九条はそう言いながら跡地に視線を向けた。確かに夕日に照らされる廃墟と為り果てた園内は、噂など抜きにしても近寄りたくない雰囲気がある。


「まぁ、それならそれで良いだろう。とりあえず入るか。」


 千堂が九条を促すと、彼女も頷く。植松は門の前で体に変調をきたしたから、園内には入らなかったと言っていた。しかし、千堂も九条も特に何か変化を感じる事はない。植松はこの雰囲気に中てられたのだろう。そう結論付けた千堂は、九条と共に園内に入る。


 跡地とはいえ私有地だろうに。何故か開いたままの門を千堂は気にせず進むことにした。気にしない事に違和感を覚えない。そんな千堂の様子に九条も気付くことなく後に続いた。




ようこソ、夢の国ヘ。御来場ありがとうございまス。二名様ご招待♪




 二人の後ろで門が音を立てずに閉まる。そこにはいつも通り、門の閉じた遊園地跡地が存在するだけだった。


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