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胡蝶  作者: 戦国
10/17

10 跡地の探索

 遊園地の広さが予想以上だった事や日の傾きなども含め、千堂は九条に一つの提案をした。とりあえず周るのは七不思議に関する場所だけにしようと。

 理由はもちろん暗くなると調べ辛いのはもちろんだが、学生達六人の当日のルートを考えた場合、肝試しに来たのであれば七不思議に関係する場所を巡っているはずとの考えに至ったからだ。その考えに九条も同意した。他にも巡っているかもしれないが、それは改めて稲葉や仲矢が目を覚ました時に確認すれば良い。

 指針を決定した二人は、とりあえず七不思議の順番通りに園内を歩き始めた。



 一つ目は遊園地内で子供がいなくなる。これに関しては場所が特定できないため、二つ目のジェットコースターへと向かう事にする。そして目にしたそれは、中々に立派なものだった。今の時代であればそこまで大した物ではないかもしれないが、当時を考えれば日本中に誇れただろう。


「ここが二つ目だな。事故が起きたってやつだ。」


 そう口にしながら、千堂は先程漁った事件を思い出す。署に戻って改めて調べようとは思うが、死亡事故が起きた事は事実のように扱われていた。千堂自身幽霊等信じるわけでは無いが、神仏等には畏敬の念を、死者に対しては鎮魂の思いを抱く。信じる信じないではなく、そういうものだとして育ってきた千堂は、『もし本当に事故があったのなら』と軽く黙祷を捧げた。

 しかし、ジェットコースターそのものを見ても事故の痕跡など見つかるはずもなく、一通り確認を済ませた後はさっさと次へと向かう事にした。



 三つめはアクアツアー。

謎の生物との話だが、濁って腐っているような水中に生物がいるとは思えない。二人で外縁を一周して中を覗いたが、当然生物の影など見える由も無かった。



 四つ目はミラーハウス。

入口から中を見ると、至る場所で鏡が割れて飛び散っていた。当然中は暗い。ペンライトは持ってはいるが、迷路のようになっている中で時間浪費するのも馬鹿らしい。加えてあまり気乗りしない理由もあった。


「ここが四つ目なんだが。それ以外に、強姦事件も廃園後のこの中だったという話だ。」

「それを聞くと、調べるのがすごく嫌な場所ですね。」


 そう吐き捨てる九条の表情は険しい。男に比べて女の方が生理的嫌悪感は凄まじいだろう。表情と仕草から、中へ入る事を躊躇っている様子が手に取るように感じられた。


「一応、『ミラーハウスから出ると人が変わった』という事と『強姦』という点で稲葉に通じるものはある。だが、じゃあ仲矢はどうなんだという事もあるし、今の時間から中を全部調べるのは時間が足りない。とりあえず今は確認だけで良いだろう。」

「そうですね。もう少しで日も沈みそうですし。」


 ほっとした様子の九条の言葉に空を見上げれば、確かに深い朱色に染まっている。あと三つある事も踏まえ、早々にミラーハウスを出る事にした。



 五つ目は城、城の地下。

だが、城に入れない上、そもそも地下があるのかすら分からない。仕方がないので二人で周囲を一周する事にした。案の定何も見つけられない。肩を落としながら正面に戻ってきた所で、ふと千堂は足元に目をやった。


「タバコ、の吸殻か?」


 呟きながらポケットから白手袋とビニール袋を取り出す。手袋をはめた手で吸殻を掴みとり、袋の中へ放り込む。


「割と新しいですね?」

「あぁ、学生達の誰か吸ったやつかもしれない。証拠品の一つかもな。ったく、私有地だろここ。吸うな捨てるなだ。」

「先輩はそういう所真面目ですよね。携帯灰皿持ってるし。持ってるのにこういう場所では吸わないし。仕事も最初からそれくらい真面目にすれば良いと思いますよ?」

「真面目とは違うんだよ。警察なんだからルールは守るってだけだ。ついでに言うなら、喫煙者が肩見狭いのはこういう馬鹿達のせいなんだよ。こっそり大人しくしてりゃ、ここまで世間様に目の敵にされないってのにさぁ。」


 微笑む九条に対して千堂がぼやく。千堂は嗜好品として煙草を好む。それこそアルコールを口にした時などは本数もかなりのものとなるが、一方で、吸えないなら吸えないで一日二日程度なら大きな苦も無く我慢できる。吸える場所なら堂々と口にし、禁煙場所なら我慢する。当然の事であるし、当然の事だからこそ、自分だけでなく他人に対してもそのあたりは厳しい。


「我慢出来るなら止めれば良いと私は思いますけどね。」

「ばっか、我慢した後はした後で美味いんだよ。なにより刑事と煙草はセットだろ。」


 吸い始めた理由は忘れたが、禁煙するつもりが無いのは割と仕様も無い理由だったりする。千堂の脳内では、刑事と煙草は切り離せないという固定概念があった。

 その返答に首を微かに竦めた九条は、呆れた表情を浮かべた後、千堂に背を向け歩き始める。


「ちょいちょい発想が子供ですよね先輩は。まぁ良いです、次の場所に向かいましょう。」

「子供で悪かったな。ったく。」


 少し不貞腐れながら、千堂は九条の後に続いた。



 六つ目はメリーゴーラウンド。

 それほど大きくないためあっさりと周囲を周り終える。噂のように動き出す気配など微塵も無い。ただ、ここの噂は動き出すというだけなので、動かないならこれ以上考えることも無い。ものの数分で見切りを付けて次へ向かう。



 七つ目は観覧車。

 ここだけは他の噂と毛色が違う。他の噂が、遊園地が営業していた頃の事であろう噂に対して、『廃園後の』と枕詞が付くように時期が違う事が分かる。オカルト的な事が起こるなら、ここが一番遭遇する可能性が高い場所であるとも言えるのだが。


「…何も、聞こえませんよね?」

「何も聞こえないな。」


 ただ、期待していた訳では無いが、やはり何か起こる事は無かった。ただそこにあったのは静寂のみ。日が随分傾き赤く照らされた観覧車は、寂れた様子も相まって不気味に見えたが、それだけだった。




 開きっ放しだった入り口の門を通り園外に出た所で、千堂と九条は顔を見合わせる。お互いの様子に特に変わった様子は無い。二人して溜息を重ねると、どちらからとなく声が漏れた。


「帰るか。」

「帰りますか。」


 日も暮れて周囲はすっかり暗くなった。現状二人の体に何か変調があった訳では無いが、植松の話を信じるならこれからだ。気を抜くのは早いが、日の入りの前に探索を終えられた事、そして特に得られた物が無かった事も合わせ、二人は自然と息を吐いた。



 帰り道は都内に向かう事もあり、行きと比べれば多少時間が掛かったが、それでも順調といえるくらいに車を走らせる事が出来た。


出発前に九条と約束を交わした事もあり、夕飯を二人で取る事にする。何処でも良いとの九条の発言を受けて、千堂は道すがら駐車場のある牛丼のチェーン店に入るよう指示した。とりあえず目に入った場所で時間効率が良いからというだけで、千堂に大した考えは無い。

しかし、その発言を受けた九条の機嫌が悪くなった事を千堂は察した。その理由が思い当たらない千堂は、横目に九条を伺いながら冷や汗を流す。

不機嫌なまま、しかし何も言わずに駐車場に九条が車を停める。せめてものご機嫌伺いにと、千堂が「サラダでも豚汁でも何でもつけて良いぞ」と空笑いしながら九条に顔を向けるが、それに対する九条の返答は言葉ではなく、刺すような視線のみだった。


 車を降りた九条は一人でさっさと店内へと向かう。ビクビクしながら千堂が後を追うと、カウンター席に座った九条が『特盛り、汁だくで』と男らしい注文をしていた。

その様子を目にした千堂は、納得いかない様子で首を傾げながらこっそりと彼女の隣に座り、音を立てずにメニューを開くのだった。




 夕飯を済ませた二人は、千堂の寝巻を取る事も考え署に戻るつもりでいたが、確認も含めて五味に連絡を取ると、直接病院へ向かえとの指示を受けた。

先程の話の通り脳波測定等幾つか器具を取りつけて寝るなら、入院着の方が何かと都合良いだろうとの事。シャワーも使わせてくれるらしく、下着の替えさえあれば問題無い。五味の話を受け、随分と病院が協力的な事に少々疑問を抱きながらも、素直に有難いと感じた千堂は、九条に直接車を病院へ向かわせるよう指示した。



 病院に着いた千堂は改めて五味に連絡をする。五味は一旦帰宅していて病院に来るのはもう少し後になるという事だった。詳しい話は五味が合流してから一緒に聞きたいらしく、それまで少し休んでおけと指示を受ける。


 病院内に入りその旨を病院側に伝えると、あちら側も準備していたらしく、二人分の入院着を手渡された。そのまま今日二人が寝泊まりする事になる隣り合った個室に案内され、荷物を置いた所でシャワーも今なら使って良いとの提案を受ける。五味の到着まで時間もあるので、素直にその提案を受けた二人は一時の休息を味わう事にした。


 烏の行水とまで言わないが、それでも男のシャワータイムは短い物だ。例に漏れず千堂も短時間で済ませたが、それでも随分とさっぱり出来た事に上機嫌で自分の病室へと戻る。

 病室に戻った千堂は、買っておいたスポーツドリンクを飲みながら、手帳とボールペンを取り出す。そのまま暫く事件について纏めながら考えを巡らせていると、扉をノックする音が部屋内に響いた。五味が到着したのかと扉を開けるが、目の前に現れた人物を見て千堂は思わず息を呑んだ。


「あ、お疲れ様です。五味さんはまだ到着してませんかね?」


 声を出せなかった千堂を気にするでもなく、部屋の前に立った九条は病室内を覗きこみつつ口を開く。その際甘い香りが鼻にまつわりつくように広がり、千堂は身動いだ。

 入院着を身に纏い、化粧を落とした飾りっ気の一切無い女だ。そんな目の前の存在に、完全に心を揺り動かされた事を千堂は自覚していた。


化粧を落とした顔はあどけなさが増して庇護欲をそそり、御洒落と程遠い入院着姿はその無防備さが支配欲を擽る。一方で綺麗な黒髪は潤いを帯びて妖しく光り、甘い香りと相まって妙な色気を醸し出している。

幼さと妖艶さ。相反する表情が違和感無く同居している妙齢の女性は、いつになく千堂にとって魅力的に感じられた。


 言葉を発する事が出来ず視線を部屋の外へ逸らしていた千堂だったが、その視界に救いが現れた事に気付き、声を絞り出す。


「い、いや、五味さん来たみたいだ。」


 その発言と千堂の視線に気付いた九条が振り返る。千堂と九条の視線の先には、エレベーターを降りて歩いてくる五味がいた。九条が身体を五味へと向け上司を迎える。

その隙に千堂は顔を二人から隠して表情を立て直しにかかる。後輩から浴びせられた普段とは異なる種類の猛毒。こっちの毒に対する免疫はまるで持ち合わせていない。焦りを促すような動悸を宥めつつ、千堂は取り繕う事に必死になった。



 無事に落ち着いた所で五味と合流する。話題を求めて五味にこれからの予定を尋ねると、稲葉と仲矢を担当しているという医師と待ち合わせていると言う。

五味の話によると、脳神経外科であるその医師は、医師として働く傍ら、睡眠について研究し論文も書いているらしい。今回の事件について興味を抱いたらしく、是非協力させてほしいと向こう側からの申し入れもあったため、病院側の手厚い協力体制が得られたのだと五味は語った。

 そのまま五味に案内され、とある部屋の前へと辿り着く。五味が部屋の扉をノックすると、中から初老の男性が現れた。


「どうも、連絡していた五味と申します。こっちが千堂、こっちが九条で、共に私の部下です。」

「お待ちしておりました、旭恭一郎と申します。早速ですが、お話は中でお伺いしましょう。どうぞこちらへ。」


 現れた男性に五味が挨拶と部下の紹介を済ませる。それに合わせて二人が軽く頭を下げると、初老の男性も名乗ってすぐに三人を部屋へと招き入れた。

微かに白髪が混じっているし、優しげな目尻には皺も目立つが、まだまだ働き盛りと思わせる男だ。その佇まいや所作は年相応の落ち着きを感じさせるものだが、挨拶も程々に部屋内に戻り三人をソファへと促すそそくさとした様子からは、如何にも事件への興味が大きい事を示していた。


 事件の話に入る前にと前置きをして、脳波について簡単に説明したいと旭が申し出た。その方が患者の容体も理解しやすいだろうとの事で、刑事三人は首是し、旭の講釈に耳を傾けることにする。三人の反応に対し徐に頷き返した旭は、学生に講演する教授のように、堂々とした様子で話し始めた。




「睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返すというのは御存じですかね?浅い睡眠と深い睡眠の事で、割と有名な話だと思います。この状態なんですが、脳波を観測する事によって外部から大まかに判断する事ができます。

その前に脳波についてご説明いたします。5種類に分けられるのですが、それぞれ簡単に説明しますと、


γ波。強い不安を感じたり、興奮している時。

β波。緊張したり、多少のストレスがある時。

α波。リラックス状態。

θ波。深いリラックス、または浅い睡眠状態。

δ波。熟睡状態、または昏睡状態。


という具合に分けられます。基本的に覚醒状態、つまり起きている状態ですね、その時はγ波からα波、一方睡眠状態ではα波からδ波が観測されます。睡眠状態について言えば、δ波の時がノンレム睡眠、θ波からα波までがレム睡眠と思ってもらえば大丈夫です。」




 そこまで一気に続けた旭が一息吐き、千堂達に向き直る。その様子に脳波の説明が終わった事を理解した五味が口を開く。


「丁寧にご説明ありがとうございます。とてもわかりやすかったです。それで、頂いた資料にあったシータ波や明晰夢というのは、そして回復に向かっているとは、どういった事でしょうか?」

「はい。先程も言った通り、睡眠は深浅両方の繰り返しをします。大凡90分周期くらいですかね。ただ、入院している稲葉さん仲矢さんお二人の脳波を観測し続けているのですが、ずっとθ波しか観測されないのです。」


 旭の返答に対して刑事三人が各々の顔を見合わせる。皆首を傾げたため、誰もその意味が良くわからないのだろう。そんな三人を柔らかな目で一瞥した旭が話を続ける。


「ただ、観測されているθ波なんですが、θ波というのは7Hzから4Hzの周波数内の事をそう呼ぶんですがね。時間を追う毎に、僅かながら7Hzへと近づいている様子が観測されたんです。8Hzからはα波となりますから、そういった意味で回復の兆しが見えたかも、と連絡させていただきました。」


 旭の説明を受け、成程と千堂は頷く。五味や九条も同様のようだ。しかし、五味の言うように回復に向かっているではなく、回復の兆しが見えたかもという曖昧すぎるものだった。

おそらく病院から署に届いた資料にもちゃんと記載されていたのだろう。ただ五味は理系にめっぽう弱い。読み込めば理解はしただろうが、内容をパッと見て、後で千堂達と一緒に聞けば良いと放り出したに違いない。

軽く千堂が五味を睨むと、五味は少し気まずそうに咳払いをし、改めて旭に質問を重ねる。


「事情はわかりました。後もう一つ。明晰夢がどうのこうのというのは?」


 その質問に、すらすらと説明を繰り返していた旭の表情が僅かに陰る。そのまま軽く目を瞑った旭は、何やらつらつらと考えているようだ。質問をはぐらかされたのかと五味が訝しげな様子で旭を伺っていたが、唐突に目を開いた旭は重たそうに口を開いた。


「明晰夢というのはどういったものか、御存じですか?」

「夢を夢と理解している夢、でしたっけ?」


 聞いた事がある程度の知識を千堂が披露する。五味は首を傾げていた。


「概ねその認識で間違いないです。そして、その明晰夢なんですが、最近それを見る方法などの研究結果も出たりと、割と科学的なアプローチが進んでいるんですがね。その条件の一つとして、θ波が出ている状態を長く保つ、というものがあるんです。」

「はあ。…つまり、θ波が出続けている二人は夢を見続けているかもしれない、おそらくはそれも明晰夢だろう、というわけですか。しかし、それにどんな問題が?」


千堂が五味を差し置いてやり取りを交わす。しかし単に出しゃばっているという訳でもない。千堂の情報処理能力は五味の認める所でもあり、特に今話している理系寄りの内容は千堂の畑だ。そうなれば五味よりも千堂が会話の主であった方が円滑に進む。今までに二人が築いた関係上、阿吽の呼吸でそういった役割分担はこなせるのだ。

そんな様子を察したのだろう、千堂寄りに視線を合わせた旭が、言い辛そうに答えた。


「医師として、研究者として。科学に携わる以上、科学的な根拠の無い物は論文などには起こしませんし、他人に話すのも良い事ではないと思っております。ですから、ここから語る内容は医師としての見解ではなく、ただの中年男の戯言だと思って聞いてください。」


 唐突な申し出に軽く驚いた千堂達だが、話の腰を折る事もないと黙って頷く。


「明晰夢は見続けると精神に影響を及ぼすと考えられています。夢だと理解するくらいに脳も働いているので、臨場感やリアル感を感じやすいというのも明晰夢の特徴かなと私は思ってます。それを延々見続けるというのは、一種の催眠のようなものです。悪夢を見続けて精神が崩壊したなんて事例もあるくらいです。そして、稲葉さん仲矢さんの口から零れ続けている内容から、彼等がそのような内容の明晰夢を見続けているとすると。」


 一旦言葉を切った旭が三人を見据え、暴論を告げる。


「明晰夢の影響を受けた彼等が、それと同じ行動を取ったのかもしれない、と推察できるんです。」


 何を馬鹿な、という一言が千堂の喉奥で突っかかる。旭の言葉を穿って捉えれば、行動ありきの夢ではなく、夢を見たから行動したのだと聞こえる。


「わかっています、これは医師としての言葉なら暴論甚だしいです。ただ、彼等の今の状況はあまりに異常なんです。直近の事象を夢として見るのは普通にある事です。でも、その場合は深浅繰り返す普通の睡眠活動であるべきなんです。しかし、彼等の今の状況を鑑みると、何らかの影響を受けてずっと同じ夢を見続けている状態になっている、と考えた方が余程説得力があります。」

「つまり、その状態にされ続けている原因を探った方が良い、と?」

「はい。そして本当に『夢』の方が先なら、一刻も早く彼等を救わないといけない。医師として、そして、一人の大人としてです。なので事件の協力をする上で、こちらの方向で少しでも考えていただけたらと思いまして。」


 その言葉に、千堂は稲葉と仲矢の様子を頭に浮かべた。社会に出る前の少年少女だ。学生達への聞き込みで、彼等が友人達から慕われ愛される人柄ということも分かった。それがあんな異常な状況のまま、一日以上経っている。


 確かに旭の言う通りだ。刑事として事件を解決するのは仕事であり、根底にあるべき物だ。しかし大人として、まずおかしな状態の彼等を救わなければとも思う。他の四人が関連しているかはまだわからないが、せめてあの二人だけでも。旭の話を聞いた千堂は、強い決意を新たに胸に抱き、重たい現実を見据えるのだった。


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