四神三天王
「Sステージをクリアしたのは三天王の一角、二つ名は『水切り』の矢吹 秋明。
母性本能をくすぐる純粋無垢な笑顔が生徒会の人気のマスコットキャラ的存在。
でも魔法の腕前は二年、三年の先輩の顔を脅かすのではないかというほど。
怪我を負う前に棄権して欲しいと思う反面、勝ったときの凛々しい笑顔はもっと見たい。」
女子から歓声というか悲鳴に近い、とにかく甲高い声が観衆席から上がった。
「そしてまたもや三天王の一角、二つ名は『付き人』の篠田 夕。
四神の三人官女の一人篠田 加奈のお兄ちゃん。妹の兄妹の禁断の愛?
はたまたこれまた四神の黒一点澄ました顔で時々見せるイジワルな笑顔に女の子の心を奪う水原 七草との性別を超えた公開恋愛?と二人に板ばさみな何気に不幸体質・一度で良いから執事服の見てみたい男の子賞四年連続授賞の篠田 夕。
以上の二名がSステージの後悔処刑からのジャッジから無実を勝ち取った!!
なお未だ続いているA/Bの予選はAが9人、Bが3人とやっぱり生徒会長は容赦ない結果となっております。
予選の終了した生徒の方は一度検査を受けてから観客席にお着きください。
予選突破されたお二方は本戦待機室にてお待ちください。」
色々と言いたいことはあったけど魔力を使いすぎて精神的に参っているので大人しく秋と本戦待機室に歩き始めた。
「お疲れ様。」
待機室は社長室を思わせるような豪華絢爛さでフカフカのソファーに秋と腰掛けながら俺はカルピス、秋は白ワインを飲みながらいつまで見ても開かないドアを見ていた。
「最近一年棟はどうなんだ?俺二年棟が忙しくて見に行ってやれないんだけど前みたいにバカやってるやつはいないのか?」
ちょっとカルピスが濃いな。
もうちょっと薄めようと水差しを取ろうとすると秋が寄せてくれたので腰を上げることも無く取れた。
「そうだな〜入学して早々力自慢する人もほとんど居ないし中等部は中等部で今の生徒会長がお利巧さんだから手伝わなくて良いのが嬉しいかな。
あ、でも才先輩が中等の女の子をナンパしに来るのが仕事の邪魔になるかな、だってさ。」
よし、あの馬鹿が俺の目の前に姿を現したときがアイツの命日だ。
俺はそう固く誓って抹殺方法を考えていた。
「親父さんの仕事はどうなんだ?」
秋の親父さんは王家騎士団の王族守護者をしていて一回しかあったことはないけど誠実そうな人だった。
「相変わらずだよ。それでも国の象徴である国王を守っている人間かよってくらいに定時より早く帰ってきてるよ。」
そっちのほうが平和だって証拠だからいいんだけどね、と笑ってグラスに口をつけた。
この学校の生徒会の仕組みについて話しておくと初等部・中等部・高等部・大学・大学院・研究所の順にエスカレーター式で進むことが出来る。
といってもエスカレーターは高等部までで大学からはきっちりと試験を受けないといけない。
高等部までには生徒会執行部があって基本的に会長・副会長・総統・書記・会長補佐の順に立場が上のピラミッド形。
実力で言えば会長補佐がトップで後はそのままの順番となっている。
会長以下は生徒からの選挙と教師からの試験で決まるけど会長補佐は上等部の生徒であることが条件。
簡単に言えば初等部の会長補佐は中等部、中等部の会長補佐は高等部、高等部の会長補佐は大学、と言った感じ。
理由はその部だけで構成すると成績上等者との抗争で歯止めが利かなくなってしまうから。
去年は加奈が中等部の会長だったから俺達は選出しなくてよかった。
まあ、あのレベルで同種開口なんて反則級だからな。
実際俺の知っている限りで加奈が勝てない相手は生徒会長、七草、会長補佐、位だと思う。
兄としての威厳が無くて哀しくなってきた。
「そこにあるリモコンとって。たしかリアルタイムで見れるはずだから。」
言われたとおりにリモコンのボタンを押すとさっきまで俺達のいた会場が映し出されていた。
「・・・・・・なにこれ。僕達Sステージでよかったね。相手が七草君で・・・」
画面に映っているのは確かに俺達が見ていたであろう予選会場はなかった。
Aステージに立っているのは加奈、と制服が少し破けている愛名と頬に埃をつけて詠唱らしきことを呟いている一白、他には戦意喪失というよりも満身創意といった感じの生徒が7,8人残っていた。
加奈相手に10人が残っていれば上出来だと思う。
残っていたのはいずれも三年生の学年トップの実力者が9割を占めて残りは三天王の竹内 沙織だった。
一年生で加奈と特に仲のいい子だったと思う。
家は大きな神社の神主らしくて産まれつき水属性の魔法しか使えなくて悩んでいた。
それをばねにして今では高等部では誰もが認める魔法の使い手。二つ名は『巫女』。
なんとも捻りが無いと思うけど誰にでも隔たり無く接する態度は優しくて神々しい。
でも趣味はヌイグルミ集め。何故知っているかというと以前図書館に資料を探しに行ったときに沙織ちゃんを見つけて話しかけても返事がないから近付いてみたらヌイグルミのカタログを見ながら幸せそうな顔をしていた。
話しかけたらビックリして悲鳴を上げて不審者と間違われたのは苦い思い出だったりして。
もちろん今は普通に話したりするし権力を奪ったりするような覇権争いなど起こらずに楽しく三人でお互いのことを助け合ったりしている。
正直な話は俺達がサポートしている四神の個性というかキャラが濃すぎて後片付けに追われたりして自分のことなど二の次なんだよね。
Aステージのクリア条件が液晶の上に表示されている。
『四神狂華からの攻撃に対して20分間立ち続けていること。』
多分加奈の奴はまだまだ余裕だと思う。なんせアイツが俺の見た限りで火魔法は使っていない。
全部水・風と本来はサポートに使っている系統の魔法しか使っていないから。
そんなことを考えていると中継が一瞬激しいくらいに輝いた。その中心には加奈がいた。
「我が敵とならんとせん。火種は我が怒り、発現の証は背徳の業。貫くは絶望と希望。根源と原罪の華。舞うは花弁、散るは命、堕ち逝くは御霊。世界を滅さんとせん。後光の一条の修羅道。狂い咲き、華と散り、華と負えよ『狂火』」
9個の狂火がそれぞれの人の元に一度交差して向かっていく。
各自それに備えて魔方陣を引き、詠唱を行い、守護符を張っている姿が映っている。
あの三人は共同で何か結界みたいなものを詠唱しているみたいだ。
一白が中心として動いているから空間操作系だと思うけど狂火を避けるなんて出来るのかな?俺でもが
んばって相殺するしか方法なんて見つけてないのに・・・
ディスプレイには残り時間が3秒を切ったことを示している。
2、1秒となったときに七箇所から閃光が迸った。
深紅の閃光が尾を引きながら消えていくと立っていたのは五人だった。
「意外に意外だ!同種開口の篠田 加奈嬢の代名詞『狂火』を打ち破ったのは四人。
一人目は大和撫子と言う言葉はきっとこの人を形容するために存在しているといっても過言ではないでしょう。
ご実家は八幡神宮の氏子。
水魔法を自在に扱い傷なら私に任せて頂戴!つぶらな瞳に童顔なのに似つかわしくない様な第一級危険物に認定されてもおかしくないほどの豊満な巨乳。
でも巫女姿からは想像も着かないでしょう?母性本能くすぐる純真な笑顔が早く見たい!竹内 沙織!!」
ズームアップされているのは照れて頬を赤らめている沙織は確かに可愛かった。
「二人目はあまりデータも無いのにどうして生き残ったのだろうか?
もしかして狂火も敵の存在を忘れてしまったのだろうか?とにかく不思議でいっぱいな浮草 影人。」
観客席からはどよめきが広がる。
正直俺もわからなかった。秋もただ俺と同じ気持ちらしく珍しい面持ちでこちらを見てくる。
「ねぇ、あんな子居たっけ?」
いや、俺も全く知らない。今流れているプロフィールを見て知った。
でも俺達の途惑いを打ち切るかのように放送は流れ続く。
「三人目は影の支配者として名高い学園の黒幕柳川 一白。
黒髪に隠された素顔を知る者は多くなく知的でミステリアスな雰囲気が大人の男性と付き合いという女の子に大人気。
名前とは裏腹にお腹の中は真っ黒?でもそこも魅力的、な腹黒王子様こと柳川 一白!!」
歓声が上がる前に横殴りの衝撃が会場や待機室を襲った。
それの発信地はもちろん今も予選中であるはずのBステージだった。
「おおっと!今の大地震は局部的なものです。
もちろん発信源はこの人、赤井 葵。私が右といえば右、左と言えば左、私の言うことが聞けないのなら磔にしてやるよ。
強さは歴代4位、我が儘っぷりは歴代1位。
碧眼に金髪、スリーサイズは上から91・54・88とそんじょそこらのモデルなんかには負けねえよ!
我に振り向け!我に尽くせ!愚民どもよ我に平伏せ!
と長くなってしまいましたが最強生徒会長が試験監督をおこなっているBステージを踏み潰してしまった。
さて何人生き残っているのか?というかBステージになった人たちよ、クワバラクワバラ!!」
土埃が舞い視界の遮られていたBステージが段々とディスプレイ越しに見えてきた。
粉砕された元ステージには見慣れた顔と見慣れてしまった顔が一つずつあった。
「Bステージ突破一人目はやっぱりこの人!黒髪が麗しい大和撫子の代名詞、正倉院華道現家元 正倉院 百合。
天才生徒会長もやっぱり人の子だった。
この人だけには逆らえない!校長の弱みすら握っていると名高い裏の生徒会長!圧倒的な正確さで相手の魔法を破壊する姿は赤井 葵よりも恐ろしいのではないでしょうか?
口元を押さえながら笑ったら半径2キロ以内には入るな、が生徒会長から遺言です。
さて生徒会長の言葉が遺言になるか分からないですが次の紹介に入ってみましょう。
なお今起きている小爆発に危険は無いです。」
放送が一時中断られたので秋と向き合うと苦笑いしていた。俺も苦笑いを返す。
さっきの放送でチラッとB会場が写っていたけれど悲惨だった。
会場の中心には直径十メートルほどのクレーターが出来上がっており一人は会場と観客席の壁の間で磔状態になっていた。
正倉院先輩は優雅に立っていたけど才の奴は全身ボロボロだった。
ただでさえ残念なことになっている顔が更に歪んでいた。
うん、さっきよりも格好良くなったな、才。
「さて生き残った次の人を紹介しましょう!
…ちっ。生命力のしぶとさは台所に良く出る黒いテカっている物体G以上。
繁殖力はバクテリア以上の…あぁ名前忘れたからいいや。
とりあえずそんな感じで女の敵、山田 太郎君でした。」
なんか、かわいそうだね。才。
同情はしないけどな。
でもキレイな人が舌打ちする姿ってなんか嫌だな。
そんな感じに現実逃避していると控え室の扉が開かれた。
そこには一白、愛名、沙織ちゃん、浮草君?そしてなぜか試験監督の加奈が立っていた。
おにぃちゃぁぁぁあぁぁぁん〜〜〜と飛びついて来た加奈を軽々と避けてから座るように促した。
「はぁ、本当に疲れたよ。夕、少しは妹さんに手加減ってものを教えてあげてくれ。じゃないとそのうち本気で誰か死にそうだ。とくに才あたりなんて危ないぞ。」
本気とも冗談ともとれない言葉を言ってから備え付けの冷蔵庫からコーラを出して一口飲んだ。加奈の頭を押さえつけながらおかしいことに気が付いた。
「愛名、お前なんでここにいるわけ?合格者紹介で呼ばれて無かったよな?」
そう聞くと『う…。』とか言って黙り込んでしまった。
一白が『そんなウィークポイントピンポイントで狙わなくても…。』と苦笑いをしていた。
もしかして、地雷踏んだ?
「さっきの放送聞いただろ?それで俺のあとに放送が入るはずだったのに会長が会場をデストロイだろ?インパクトがありすぎてスルーされてしまったわけよ。」
優しい俺は今放送している今川先輩に愛名のことについて報道するように頼みのメールを送った。
報道しやすいようにいくつかの情報提供をしてから。
それが終わったので愛名を見て笑っていると俺の目の前には拳が迫っていた。
そして風圧を感じるや否、俺は星空へと旅立ったのだった。