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26.博士へお願い

本日二話目です。

ご注意ください。

 うーん、美しい。これは……ふふふ。俺は再び「美しい……」と呟き、うっとりした目線を向ける。

 

「ティル?」

「惚れ惚れするよ……」


 え? 何がって? 向かいに座るアシェットのことではない。そう……翅刃の剣だよ。こいつは良い、良いものだ。おやっさん、こんなもの本当にもらっちゃっていいのかなあ。


「ティル……」

「ん……」


 俺は剣から目を離さず曖昧にアシェットへ返事をする。俺の心は今この剣にぞっこんなんだ! 先ほどからトントンと机を叩く音がうるさいが、目を向けないようにしていると、音がさらに大きくなったので仕方なく音のした方へ目を向ける――

 なんと、アシェットの民族衣装風のワンピースのスリットがはだけ、太ももが半分以上見えている! な、なんだとおお。このチャンス逃すものかあ。パンツもチェックだあ。俺はもう少しで閲覧できそうなけしからんをのぞき込もうと身を乗り出す。


「ぐおお、い、痛いいいい」


 油断していると頭を掴まれてしまった……

 

「やっとこっちを向いてくれましたね」


 何だ? 構って欲しいからお色気作戦で来たのか? 可愛いところあるじゃないか。そ、それにしても……


「アシェット、待って、待ってえ。潰れる、潰れるうう」

「剣より私を見てくださいと思ったわけではないですよ?」

「な、なで、わがっだ!」

「顔を見ればすぐ分かります。そろそろフォーク博士が戻ってこられますが、ちゃんと考えているんですか?」

「も、もちろんだって。俺もこの二日間遊んでいたわけじゃあない」

「今日は朝からずっと剣を眺めているだけだったと思いますが?」


 アシェットは凍り付くような視線を俺に浴びせる。手はまだ俺の頭を握ったままだ。そろそろ、離して欲しいんだけど。

 そうだ!


「いや確かにそうなんだけどさ、剣の柄もじっくりと見たかったんだよ」

「……っつ……」

 

 お、手が離れた。ふふふ。アシェットが動揺するだろうなと思ってこう言ったことは確かだけど、内心、彼女にとても感謝しているんだ。

 俺の元々持っていた片手剣の柄は既に革がボロボロで、彼女はそれを見かねて俺に革を買ってくれたんだから。


「アシェット、大丈夫。任せておいてくれ」


 俺は上目遣いで恨めしそうに俺を睨むアシェットの頭へ手を伸ばそうとして、引っ込める。しかし、彼女がこちらに頭を差し出しているから、おずおずと彼女の頭に手を乗せそのまま撫でた。

 すると、彼女の長い耳がピクピク動いて嬉しさを示していた。うつむいているから、彼女の表情は分かんないけど……どんな顔をしているのかとても見てみたい!

 

「……ティル……今変な事を考えていませんでしたか?」

「い、いや……撫でられるの好きなのかなあとか」

「……そんなことありません!」

 

 アシェットは俺の手を払いのけると、憮然とした表情で腕を組みプイッと俺から顔をそらした。


「アシェット、ティルー、ふぉーく博士が帰ってきたよー」


 研究所の扉が開き、尻尾をご機嫌そうにフリフリ振りながらクトーが入って来ると、後ろにフォーク博士も続く。

 フォーク博士は相変わらず白衣にオールバックで片眼鏡と恰好だけは壮年の知性溢れる研究者って感じだ。


「ただいま、諸君! 今帰ったぞ!」

「クトー、さっきね、外でふぉーく博士と会ったのー」

「うむうむ。ティル君、アシェット君、何事も無かったのかね?」


 フォーク博士の問いに俺とアシェットの「はい」という声が重なる。


「いやあ、特にケビン教授の森林鼠の研究が素晴らしかった! 私も彼の研究へ大いに刺激されたとも!」

「森林鼠ですか、フォーク博士はどんな研究を行うんですか?」


 森林鼠の名を聞いた俺はひょっとしたらと思って、博士に尋ねてみた。

 すると、フォーク博士は胸を逸らし自慢げな顔をして一言……

 

「それはだな、ティル君、聞いて驚くなよ! 森林鼠と草原鼠の体毛の数を比べてみようと思うのだよ!」

「……そ、そうですか……」


 やはり、フォーク博士はフォーク博士だな……森林鼠ってまではよかったんだが。

 俺はアシェットへ目くばせすると、彼女は静かに頷きを返し、そっと俺の肩を叩く。

 

「フォーク博士、折り入ってお願いがあるんです」

「ほうほう、君からお願いとは珍しい。何かね?」

「じ、実はですね――」


 俺はフォーク博士に魔族が飢饉であえぎ、森のモンスターを大量に狩猟していることを述べる。

 その結果、街へ捕獲難易度の高いモンスターが襲撃する可能性があることを彼へ伝えるとフォーク博士は「うむうむ」と俺の話へ一つ一つ頷き、反応を見せてくれた。

 

「ふむふむ。なるほど、それは事態が深刻だ。魔族はともかく、街の平和は守らねばならんな、ティル君!」

「はい、それでですね」

「言わずともわかるともティル君!」

「は、博士!」


 分かってくれたのか、博士え。まだ最後まで話もしていないのに。俺は少し感動して肩を震わせる。

 

「森の浅いところまで出てきたモンスターどもを私が狩って平和を守ろうじゃないか!」

「……」


 分かってねえ、分かってねえよおお。期待した俺が馬鹿だった。フォーク博士は自分が超強いとか思っている。実際は捕獲難易度最低のゴブリンにも勝てるか分からんくらいなんだぞ。

 危険に突っ込んでいく博士を……相手が捕獲難易度十だったら守り切れん……いやいや、そもそもそんな斜め上ってどころじゃない解決策について考慮する必要なんてまるでないって!

 

「フォーク博士、お願いってのはそういうことじゃないんです」

「ん? 何かね?」

「魔族の住処(すみか)の近くには森林鼠が大量に生息しているらしいんです。それでですね、フォーク博士の料理で森林鼠を魔族でも食べることのできるようにしてもらいたいんです!」

「そんなことかね? 森林鼠なら……さばき方次第だが……」


 フォーク博士は何でもないとい風に肩を竦め、森林鼠の調理方法を語り始めた。ええと、まず深さ三ミリ、幅二ミリの穴を決められた箇所に寸分たがわず穿(うが)ち、ここを毒抜きの穴とする。

 そして、78.2度のお湯で5.2秒湯通しして……無理だってええええ。最初の穴開けから無理だ。

 とにかく、フォーク博士に魔族に対する解決策、彼にやってもらいたいことをちゃんと話をしよう。このままではいつもと同じじゃないか。ちゃんと話をするとアシェットへ約束したんだ。

 「よし」と心の中で気合を入れなおしたら、俺の手をアシェットが握りしめていた。大丈夫だよ、アシェット。任せておけって言っただろ。

 俺は手にギュッと力を込めると、博士へ目を向ける。

 

「フォーク博士、凶悪なモンスターの流入を防ぐ最善の手は、魔族の食糧事情を解決することなんです」

「うむ、それも悪く無い手だ」

「それには、森林鼠を食すことができるようになることが、一番手っ取り早いのはご理解いただけますか?」

「森林鼠があるのに、何故食べないのか理解に苦しむが……ティル君の言わんとしていることは分かるとも」

「フォーク博士、博士の料理の腕は、古今東西見渡しても凌ぐ腕を持つ者はいません! フォーク博士だけが森林鼠を調理できるんです!」

「ううむう」

「ですが、魔族でも調理できるように何とかできませんか? フォーク博士の『料理の腕』が頼りなんです。アシェットの時だってフォーク博士は動いてくれたじゃないですか。どうか魔族……しいてはこの街の為にも考えていただけませんか?」


 俺の真剣なまなざしに、フォーク博士は目を逸らさず片眼鏡をクイッとあげ、大きな息を吐いた。

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