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15.王都西の砂漠

 フォーク博士の料理に保存の魔法はかけてきたんだが、俺自身紅亀の料理を食べそこなった……俺は後悔しながらも冒険者ギルドの扉をくぐる。

 冒険者ギルドの飲食ができる区画……酒場は冒険から帰って来た冒険者でにぎわっており、みな今日の冒険について語り合っているようだった。

 

 あ、受付のおっぱいの谷間が美しい女の子を発見。

 俺は彼女に「暴帝龍」と「バジリスク」の出現情報を訪ねてみるけど、冒険の受付所は本日の営業を終了しているらしく「いるらしい」という情報しか得ることができなかった。

 

 ちょっと強引な手段だけど、冒険者たちに聞くか。


「この中で誰か『暴帝龍』を目撃した人はいないかー?」


 俺は大きな声を張り上げて、酒場全体に聞こえるように尋ねると場はシーンと静まり返った。

 固まる冒険者たちの中から一人、赤毛をサイドテールにした釣り目の女の子がツカツカと俺の元までやって来ると手を掴み、俺を彼女が元居た席へと引っ張る。

 

「ちょっと、ティル。『暴帝龍』がどうとか突然どうしたの?」


 釣り目の女の子はセルヴィーだった。こんなところで飲んでいたのか。

 

「あ、いや、『暴帝龍』の唾液がどうしても必要でさ、あとバジリスクも」


 セルヴィーに促されて俺は彼女の対面に座る。

 

「それって、フォーク博士からかな? でも、いきなり捕獲難易度十のモンスターについて叫ぶのはねえ……」

「いやまあ、それは分かってるんだけど急ぎなんだよ。研究所で一緒に暮らしているハーフエルフの子が『粉吹き病』にかかってしまったんだよ」

「……ハーフエルフなら、まだ……エルフだったら命にかかわることが多いわよ。で、あんたは呑気にフォーク博士のお手伝いなの?」

「いやいや、フォーク博士が『粉吹き病』に効果がある『オートミール』を作ってくれるんだけど、その材料がさ……『暴帝龍』の唾液なんだよ……」


 俺の言葉にセルヴィーは目を見開き、手に持ったビールが入った木製のジョッキを机に勢いよく叩きつけた。

 うん、それが普通の反応だよな。フォーク博士がおかしいんだ。

 

「ちょっと待ちなさいよ! 治療薬(ポーション)がない『粉吹き病』を……よっし、私も行くわ。騎乗竜も貸してあげる。でもその代わり、フォーク博士の調理を見せて欲しいんだけど」

「おお、騎乗竜か! 助かる。急いでるからな。フォーク博士の調理風景を見せるのは全く問題ない」


 まあ、見ても52.1度の湯を0.03秒とか誰にも真似できんがな……あわよくば「粉吹き病」の治療効果のあるオートミールで大儲けって考えがあるのかもしれんが、無理だって。

 博士以外に調理できる人はたぶんいない。

 

「ありがとう! じゃあ、さっそく行きましょう! 急いでるんでしょ?」

「あ、ああ。でも場所が……」

「大丈夫よ。バジリスクは巣があるし、『暴帝龍』は出現場所の情報を掴んでるから」

「お、おおおお。ありがとう!」


 そんなこんなで俺はセルヴィーと共に、王都西の砂漠へと向かう。

 

 

◇◇◇◇◇


 

 王都西の砂漠は荒涼としたところどころがひび割れた大地が広がっており、サボテンや低木がポツポツと生育している程度で他に植物の姿は見かけることが無かった。

 俺達がこの礫で覆われた砂漠地帯に到着する頃にはすっかり日が暮れ、周辺は急速に気温が下がりつつあった。昼間に熱せられた大地にまだ余熱が若干残っていて震えるほどではないが、明け方前には凍えるような寒さになることが予想される。

 

 王都西の砂漠は俺達が今いるような礫砂漠が殆どだが、場所によっては大きな岩石が転がる地域や、サラサラの砂で覆われた砂砂漠も存在する。

 といっても今回の目標は礫砂漠にいるようだから、岩石地帯や砂地帯へ行くことはないだろう。

 

 俺とセルヴィーが乗って来た騎乗竜は、ダチョウに似た爬虫類で、サイズこそダチョウくらいだが、ダチョウよりは体がガッシリしており硬い鱗に覆われている。色は緑か灰色、茶色が多いが稀に赤っぽいのや青っぽいのがいる。

 いわゆるレアカラーの騎乗竜は高い値段で取引されているらしい。

 

 騎乗竜は荒れ地に強く、馬に比べて傾斜を軽々と登ったり、くぼみを使って登攀したりと冒険者にとっては馬より便利な騎乗生物といえるだろう。餌は果物類を与える。

 難点は寒さに弱いことだ。爬虫類だから仕方ないといえばそうなんだけど、冷えてくると体の動きが鈍くなってくる。しかし、暑さには強く、馬に比べて食事量も三分の一程度で済むから、俺は騎乗竜の方が馬より好きだなあ。

 

 俺は厚いローブにくるまり、騎乗竜の傍でこの日は眠ることにした。俺の隣ではセルヴィーも同じようにローブにくるまり寝そべった騎乗竜の腹に頭を乗せてくつろいでいた。

 

――翌日

 日が昇り、温度が上がってきたところで俺達は「暴帝龍」を発見するためセルヴィーが先導し俺が後ろをついて行く形で進む。

 昼になる前に俺達は目的の「暴帝龍」を発見する。

 

 やはり……でかいな……身長は十五メートルを超える赤黒い鱗に二本の強靭な脚、前足には鋭い爪、トゲトゲのついた太い尻尾……そして巨大な口から覗く牙より垂れる唾液……

 唾液が滴り落ちた地面は煙をあげジュワジュワという音を立てている。

 

「ティル、落ちて来る唾液を集めるしかないと思うんだけど、容器が溶けない?」

「大丈夫だ。フォーク博士から預かったこの壺なら大丈夫みたいだ」


 俺は懐から薄く青みがかった銀白色の壺を取り出す。

 

「ティル、その色……まさかミスリル?」

「たぶん、そうだと思う。壺にミスリルってもったいないよなあ」

「相変わらず呑気ね、あんた……」


 ミスリルと言えば、最高級の金属として名高い。硬くしなやかな割に鉄より遥かに軽く、武器や防具に使うには最適な金属と言われているが、とにかく値段が高い。

 産出量も少ないから、武器や防具以外の用途に使われることは滅多にない金属なんだ。

 一体いくら使ってこの壺を買ったのか分からないけど、フォーク博士は……まあ金銭感覚がおかしからなあ……研究のためとなればポンとお金を払ってしまう。生活費も考えて使って欲しいものだけど……

 しかし、今回のようなことがあるから、彼の散財も侮ってはいけないな。でも、あの変な箱は役に立たないだろう!

 

 さて、そんなことよりどうやって「暴帝龍」に接近し唾液を採取するかなんだが……魔法しかないだろうなあ。


「セルヴィー、魔法でかく乱して『暴帝龍』に近寄るから、万が一の時はサポートしてくれるか」

「分かったわ。いつでも魔法を撃てるように準備しておくわよ」


 「暴帝龍」に気が付かれ追っかけられたら、セルヴィーの炎の魔法で気を逸らし、一旦退却だな。

 じゃあ、行くとしますかー。

 

 俺は両手を組むとポキポキと音を鳴らし、首を回す。

 

影足(シャドウフット)


 影足(シャドウフット)は足音を完全に無くし、体が揺れる時に出る音なども全て漏れ出なくなる魔法で、コソコソ行動するときに持ってこいなのだ。

 しかし、これだけでは目視されると一発で発見されてしまうから、更に一計を投じる。

 

蜃気楼(ミラージュ)


 俺の呪文が終わると共に、辺りに濃厚な霧が立ち込め始める。突然発生した霧に「暴帝龍」は大きな咆哮をあげるが、俺は構わず奴ににじり寄る。

 蜃気楼(ミラージュ)の魔法は周囲を霧で覆う魔法なのだが、術者のみ良好な視界が保たれるのだ。

 俺は「暴帝龍」の唾液が落ちているところまで奴に気が付かれずに進むことに成功し、ミスリル製の壺で落ちて来る唾液を採取していく。

 

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