信じて海外留学に送り出した彼女が映像チャットで男友達を紹介し始めた
「じゃあね、達郎くん、私、行ってくるね!戻るときは、超一流女優だから!」
彼女はそういって、アメリカへと旅立った。
ユキは大学で知り合った僕の彼女で、付き合ってもう2年になる。
「演技の勉強のために、アメリカに留学する!」
と言い出したときは、正直僕もビックリしたが、彼女の夢が世界的女優だということはずっと前から知っていたことだ。だから、最終的には彼女の夢を応援したいと思い、笑顔で彼女を見送ることに決めた。
もっとも、僕はその決意を完遂できず、結局空港で号泣してしまったのだが。
彼女はそんな僕を見て、「たった一年だし、ネットでなら毎日会えるんだから」と笑った。
けれども、彼女の目も潤んでいたのに、僕はちゃんと気づいた。
ともあれ、彼女はアメリカに出発した。それ以来毎日のようにネットでユキと映像チャットで会話しているので、空港であんなに号泣してしまった自分がなんだか間抜けに思えてきてしまう。
パソコン画面の向こう側のユキはいつも笑顔で楽しそうだ。友達もできて、勉強も上手くいっているらしい。
ただ、それでも、不安はある。
ユキは、彼氏である僕の色眼鏡を抜きにしても、魅力的な女性だ。色白で、髪はさらさら。身長はやや低めだが、おっぱいは大きい。性格はがんばり屋のしっかり者だけど、妙なところでおっちょこちょいで、スカートのパンツがカバンに挟まってめくれていたり、危なっかしいところが庇護欲を誘う。
僕の自慢の彼女。だからこそ、不安だ。彼女が、アメリカ男たちに、言い寄られたりしていないか。
俺より身長高くてかっこよくて、将来推定年収が俺よりも多そうなブロンドイケメンに告白されてなびいちゃわないか……!
い、いや!何を考えてるんだ俺は!ユキに限ってそんなことはない!なにしろ「エッチは結婚してから!」と言うので、2年間付き合って未だにキス止まりの割りとこじらせた処女なのだから!
僕はそう自分に言い聞かせたが、完全に不安を拭うことはできなかった。
おかげで、僕はストレスで寝不足になっていった。
ユキが留学してから半年ほどしたある日のこと、チャットの終わり際に、ユキはこう言った。
『そうだ!明日、私の友達のボブとリチャードを紹介するね!』
ボブとリチャード。たびたびユキの話に出てきた、アメリカでの友達。男友達。
ユキがその名を出したとき、僕はまるでなんともないように「あぁ。分かった」と言った。
しかし内心では気が気でなかった。
だって男友達だぞ?男だぞ?男でユキに惚れない奴なんかいない。きっとその二人もユキのことを好いているはずだ!で、でも友達として紹介するということは、ユキにはその気はないという証拠では?
だが、無理やり迫られたりしたら……。
僕は気が動転し過ぎて、その後のユキの『明日なんの日か覚えてる?』という言葉に「いや……」と適当な返事しか出来なかった。
その夜、僕はベッドに入って枕に顔を押し付けてうめいた。足をジタバタさせた。
不安で堪らなくて一睡も出来なかった。
次の日のチャットでは、ユキは約束通り、二人の男友達を紹介した。
『じゃあーん!今日は私の友人二人を紹介しまーす!リチャードとボブでーす!』
リチャード。身長の高いブロンドで細身のイケメンだ。ユキの右側のソファーに座っている。
左側はボブ。こちらは大柄の黒人だ。筋肉質な男気溢れるイケメンだ。
僕は無理やり作り笑いを浮かべて「Hi」と言った。
二人は挨拶を返さず、ただニヤニヤ笑うだけだった。
なんだこいつら。ちょっと感じ悪いな。
『あのね!今日は、私、達郎くんに言わなきゃいけないことがあるの!』
ユキは唐突に、そう切り出した。
なんだ伝えなきゃいけないことって?
画面の向こうのリチャードとボブは何が可笑しいのか、口元を押さえて笑っている。
『あのね。私、今、アメリカで演技の勉強してるって嘘なの。』
「えっ……?どういうことだよ?」
僕の心の中に得たいの知れない緊張感が生まれた。
ユキ、いったい、何を言おうとしているのだろう。
『私、私ね……実は今ね……』
「あなたの後ろにいるの!」
僕は驚いて後ろを振り返った。そこにいたのはユキとボブとリチャードと僕とユキの大学の友人たちと俺の両親と妹だった!
彼らは一斉にクラッカーの紐を引っ張り、叫んだ。
「ハッピーバースデー!達郎!!」
パンパンパン!一斉に俺の部屋がクラッカーの音で満たされた。
「えぇっ!?なんで!?なんで!?だってさっきまでチャットで!」
パソコン画面に目をやると、いつの間にか、ユキ、リチャード、ボブの三人に変わって、メチャクチャテンション高いユキの他の友人たちが、「Surprise!!!」と書かれたボードを手にメチャにこやかに笑っていた。さっきの映像は、録画だったようだ。
「フフッ!ビックリした?でもさらにビックリするのはこれからだよ!」
そう言うと、ユキは俺に一つの小箱を手渡した。
「これは、誕生日プレゼント?い、いや!この箱はまさか!」
箱を開けてみた。
中には指輪が入っていた。
「達郎くん。 私と結婚してください!」
「お、お前……こういうのは……ぐすっ……男が渡すもんだろぉー……!」
俺はもううれしくて涙が止まらなかった。俺の誕生日は同時に婚約記念日にもなったのだ。
それからはパーティータイムだった。
大学の友人たちやボブとリチャードと一緒に朝まで酒を飲みながらゴキゲンなナンバーでダンスし続けた。話を聞くと、ボブとリチャードの二人は恋人同士で、つまり、俺の心配は完全に杞憂だったのだ。ユキが頭の軽いジョックに言い寄られているところを助けたのが、二人がユキと友達になる切っ掛けだったそうだ。
俺はその話を聞き、泣きながら二人に「I love you!」と伝えた。
数年後。
ボブとリチャードはアメリカを代表するコメディアンコンビになった。ダンスに音楽なんでもござれの芸風で、投稿するyoutube動画は片っ端からミリオン。今度二人を主人公にした映画も作られるらしい。
ユキのほうはというと、伝説的国際アイドルとなり、音楽賞、映画賞を総なめにした直後に電撃的に活動中止を発表。今は俺と毎日子作りエッチしているところだ。
「でも良かったのか?活動休止して……」
「いいの!私の今の夢は達郎君と一緒に幸せな大家族を築くことなんだから」
そう言って、ユキは出会ったときのころから全く変わらない笑顔を僕に向けた。
終わり