21.耕太と哲平
耕太は、学校から帰って夕食を済ませたあと、哲平の家に向かった。哲平には相談があると言っておいたが、さっき考えた通り、哲平の彩乃に対する気持ちを確かめるためだ。
彩乃と千鶴を悲しませないために早速行動を起こした耕太だったが、哲平の家に自転車を走らせながら、悩みはじめていた。
哲平には何て言えばいいのだ?
今耕太が行動しているのは、すべて推測に基づいたことだ。彩乃が哲平を好きかもしれないということも、彩乃は、千鶴は哲平が好きだと勘違いしているかもしれないということも、確証はない。もちろん、彩乃の様子から導いた推測なのだから、まったく根拠のないことではない。
しかし、確証のないことを話すときには、誤解が生じないよう慎重にならなければいけない。下手をすると、余計な期待をさせて、今度は哲平を傷つけることにもなりかねないのだ。もし、哲平が彩乃を好きで、彩乃は哲平を好きではなかった場合、哲平は期待した分傷も大きくなる。
話をどう切り出すか決まらないうちに哲平の家に着いてしまった。とにかく慎重に話をしよう。
哲平は、いつもと変わらない様子で耕太を迎え入れた。
しばらく関係ない話をしてから耕太は、
「そう言えば、今日は、びっくりしたよな」
目的を果たすべく、話の流れを彩乃のことへと持っていく。
「え? ああ、神崎さんが告白されたことだろ」
哲平は、そう言って顔をゆがめた。耕太は、その表情を見てハッとする。もしかして哲平……
しかし哲平はすぐに、大げさすぎるくらい明るい声で、
「まじでびっくりしたな。いきなり過ぎて、最初何が始まったのかわかんなかったよ」
「うん」
「だけどさ、なんかすげぇよな」
「え? 何が?」
「神崎さんと五十嵐さんが付き合ったらさ、すげぇ美男美女のカップルだぜ。あんなカップル芸能人くらいしかいねぇつーの」
そう言ったあと哲平は、たまらず目を伏せた。
「哲平……」
哲平は、『彩乃と健斗が付き合う』ということを実際に口に出したことで、押さえ込んでいた辛さを押さえ切れなくなったのだ。
「耕太、俺さ」
「うん」
「俺、実は神崎さんのことが好きだったんだ。笑うだろ?」
「なんで笑うんだよ」
「だってさ、あんな美人でしかも性格もイイんだぜ。俺なんかが釣り合う相手じゃないだろ」
「そんなことないよ。哲平だってイイやつだ」
「ありがとな。けど、やっぱ落ち着くとこに落ち着くんだよ。五十嵐さんとなら、お似合いだよな」
「けど、まだ付き合うって決まったわけじゃないよ。神崎さん、まだ返事してないし」
「そりゃ、今日コクられたばっかだしな。しかも、あんないきなりじゃ、すぐに返事もできないだろ」
「だけど、神崎さんがオーケーするって決まったわけじゃない」
「五十嵐さんみたいなイケメンを振るなんてことあるか?」
「ないとは言えないんじゃないの」
「いや、ないね。しかも、五十嵐さん軽音のボーカルだぜ。カッコよすぎるだろ」
「だけど……」
「それにもう、『あやのん』なんて呼んだりしてるしさ」
「……」
耕太は、彩乃は哲平が好きなのかもしれないと思っている。この推測を哲平に話せば、哲平に少しは自信を持たせられるかもしれない。けれど、この推測が外れていた場合、期待させた分哲平の落胆も大きくなる。
しかし耕太は、まったく別の理由で、自分の推測を哲平には話さないでおこうと決めた。
哲平は、野球に関しても勉強に関しても、前向きにがんばれる男だ。悩んだり苦しんだりすることはあっても、いつも前を向くためのものだった。
しかし今の哲平は、耕太が見たこともないくらい後ろ向きだ。何もしない前から、すでにあきらめている。耕太は、そんな哲平でいて欲しくなかった。
神崎さんが哲平を好きかどうかなんて関係ない。五十嵐さんの告白も関係ない。哲平は、自分の気持ちを神崎さんにきちんと伝えるべきなんだ。
「なあ、哲平」
「うん」
「神崎さんのことが好きなら、ぼくはきちんと気持ちを伝えるべきだと思う」
「え? 何言ってんの、耕太。神崎さんは五十嵐さんと……」
「も一回言うけど、まだ付き合うと決まったわけじゃない」
「決まったようなもんだって」
「決まってない」
「けどさ……」
耕太は、哲平の煮え切らない態度にイライラしてきた。
「哲平はそれでいいのか? 自分の気持ちを伝えないままで後悔しないのか?」
「それは……」
健斗の告白劇を見たあとに感じた、心の疼きが蘇る。だけど……
「でも、どうせ振られるだろ」
「だったらさ、潔く振られて来いよ」
きっぱりと言う耕太。哲平は耕太を驚いて見る。耕太に、こんなにはっきり意見されたのはいつ以来だろう。
耕太が帰ったあとも、耕太の言葉が哲平の頭を離れない。耕太の言葉と……そして、彩乃への想いが、哲平の心を占めていた。




