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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
英雄の資格 2
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五話〈リターン:ライオネル=アークライト〉

 鎮事府の外に出た。まるで待ち構えていたかのように、ブラッドフォードが一人で立っていた。その右手でアーサーの背中の服を掴んでいた。ぐったりとしたアーサーはピクリとも動かなかった。


「そこをどけよ」

「どくわけねーだろ。それ、さっさと返してもらいたいんだが」

「コイツか? こんな勇者崩れがそんなに大事か」

「一応仲間なんでな」

「仲間、ねえ。コイツがそんなことを思ってるかどうか……」

「そいつの気持ちなんてどうだっていいさ。俺が仲間だって思ってる。それでいいだろうが」

「くだらない。こんなやつらに負けたのか、エイブラムは」

「それでもお前よりはずっと強かったさ」

「なにを言うかと思えば。エイブラムは俺が殺した。俺が、一番強いんだ」

「思い上がるんじゃねーよ。お前はただ弱ったやつを殺しただけだ。エイブラムに勝ったわけじゃない」

「ならここで証明してやろう。お前を殺せば、俺が最強ってことになる」

「やれるもんならやってみろよ」


 ブラッドフォードがアーサーを横に投げ飛ばした。だが、俺はそれを追うことはできない。優先すべきはブラッドフォードを倒すことだからだ。


 深く息を吐いてから全身を強化した。そして、前へと走り出す。


 魔力はほとんど残っていない。それはきっとブラッドフォードも同じだろう。エイブラムを殺すのだって、実際そう簡単ではなかったはずだ。その後で魔王たちと戦い、アーサーを倒した。


 その証拠に、ブラッドフォードは賜法を使う素振りがない。まあ、それは俺も一緒なのだ。ブラッドフォードもわかっている。だからこそ、拳一つで向かってきている。


 魔力はほとんど感じないけれど、その気迫だけは鬼気迫るものがあった。


 お互いに拳を引いた。先手はブラッドフォード。打ち出される拳を避け、今度は俺がアッパーを放つ。が、左手で受け止められた。


 右拳で鼻、顎、胸と軽く三発殴られた。ほぼ一瞬で三回の攻撃。強烈な痛みはないが、この速度と狙いの正確さは厄介だ。


 ミドルキックで腰元を狙うがバックステップで避けられた。エイブラムは前進しながら耐えるようなタイプだったが、ブラッドフォードはフットワークで翻弄するタイプだろう。


 打ち合いならばそこそこ自信がある。けれど避けられてしまっては意味がない。おそらく、俺が最も苦手とする手合だ。


 それならば張り付いて離れないようにするだけだ。


 接近してワンツー。避けたところに回し蹴り。これもまた避けられる。


 こちらの姿勢が若干崩れた。見逃さないようにとブラッドフォードの拳が左脇腹にめり込んだ。


「クソっ……!」

「足りないな」


 痛みを庇うようにして身体を傾けたせいか、両手で肩を掴まれてしまった。そのまま胸へと膝蹴りされた。鳩尾へと打ち込まれた膝蹴りが俺の呼吸を見出した。


 肩から手が離れたかと思えば今度は頭を掴まれる。そのまま、再度膝蹴りが飛んできた。


 顔面への膝蹴りはさすがにまずい。目に当たっても、鼻に当たっても、顎に当たっても戦闘に支障が出てしまう。


 取れる選択肢など多くない。


 左脚で踏ん張りながら、膝が直撃する前に右足でブラッドフォードの足を払った。膝蹴りをするために片足立ちになったからこそできた。


「このっ!」


 ブラッドフォードが悔しそうな顔で俺の頭を離した。そしてバランスを崩した。


「次は俺の番だぜ」


 左手を広げてヤツの目元を隠す。左拳を引き、手のひらに隠れるようにして止める。


 強化を右拳にだけ集中させて、目一杯拳を振り切った。


 今までの戦闘では最速の一撃。それは確実にブラッドフォードの顔面を捉えた。


 ヤツの顔が徐々に歪んでいく。骨の軋みが拳を伝わってきた。


 一瞬の時を待って、ブラッドフォードの身体が吹っ飛んでいく。まだ勝ちと決まったわけではないが、戦況は大きく変えられたはずだ。


 しかし、今の一撃も無償というわけにもいかなかった。


「吹っ飛んでく直前に顎蹴り上げていきやがった……」


 顎が痛いのは当然だが、なによりも脳が揺さぶられた。


 片膝をついて下を向いた。目蓋を閉じると、暗闇の中でも自分がぐるぐると回っているような気分だった。


 コメカミを何度か揉んでから立ち上がる。まだちょっとフラフラするが、まだ立ち止まるわけにはいかない。


「勝ったのか」


 アーサーが歩み寄ってきた。


「目、覚めるの遅くないか?」

「馬鹿を言うな。俺がアイツと戦ってたから、お前がアイツを倒せたんだぞ。感謝しろ」

「あーはいはい、感謝してるよ、ありがとう」

「お前、ぶっ飛ばされたいらしいな」

「やれるもんならやってみろよ。ちなみに言うが、俺はエイブラムもブラッドフォードも倒したんだぜ? いわば最強の勇者だ。勇者崩れのお前とは違う」

「ほう、この天才とケンカしたいか。いいだろう」

「なんだ、やんのか」

「決着をつけることも必要だろうからな」

「最初に会った時とは真逆だな」

「立場が変わっても関係ない」

「お前のオヤジが俺の両親を殺した」

「俺の父親がお前の両親を殺した」

「ただ、そんなもんはどうだっていい」

「ああ、どうだっていいさ」


 二人で笑いあって、拳を構えた。コイツもきっと魔力が底を尽きかけてるんだろう。


 が、それをよしとしない人間が一人いた。


「なあアーサー」

「なんだボンクラ」

「こんなことしてる場合じゃないらしいぞ」

「みたい、だな」


 視線を向ければ、ボロボロの身体で、よろよろと歩いてくる男がいた。


「許さん……お前らまとめて、俺が殺す……!」

「まだやんのかよ」


 ブラッドフォード。なぜコイツがここまで「最強の勇者」にこだわるのか。それは結局わからないままだ。


「認めさせてやる! 俺が一番だと! 今まで俺をバカにした奴らを見返してやるんだ!」


 コイツにはコイツの事情が、あるんだろうなっていうのはよくわかった。


「手を緩めようだなんて思ってないだろうな」


 アーサーが横に並んだ。


「そんなこと、あるわけねーだろ」

「そうか、ならいい」


 空気感でわかる。アーサーはアイツを仕留めるつもりだ。そして、その手伝いをしろと言っている。


「殺してやる!」


 ブラッドフォードが走り込んできた。もう魔力はないのだろう。あれはプライドとかそういうので動いているだけだ。


 それなら、難しいことはない。


「やれるよな、勇者崩れ」

「誰に言ってるんだボンクラ」


 ブラッドフォードが最後に残った魔力を使い、拳を思い切り振りかぶった。


 俺たちは同時にそれを避けた。


 アーサーが腹に一発拳を打ち込む。よろけたところで俺が顔面を殴った。


 そして、最後に蹴りをかます。二人同時に。


 僅かに宙を舞い、地面に落ちた。


「なんか弱いものイジメみたいになっちまったな」

「構わんだろ。最初に多数でかかってきたのはアイツの方だからな。しかし、これで勇者の方もおとなしくなるだろう」

「だな。んじゃ、鎮事府の中に戻らせてもらうわ。決着はまた今度だな」

「やりあう気も失せたしな。ハリエットには俺が報告しといてやる。早く行け」


 手で「シッシッ」と追い払うようなポーズをした。不器用なヤツだな。


 大きく深呼吸をしてから、鎮事府に向かって歩き出した。


 その時、背後からなにかが飛んできた。


 超高速で飛んできたそれは、俺の脇をすり抜けて、鎮事府へと向かっていく。


 気付いた時にはもう遅く、それは鎮事府へと着弾。数秒を置いて、大きな爆発音が響き渡った。


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