三話
この二つの槍の性質は似たような物だと結論づけた。
遮蔽物を避ける性質と、対象物を追撃する性質。じゃあ次はなんだと、更に思考を巡らせた。
「後二本、ちゃんと避けて見せろよ」
「言ってろクソ野郎」
ブラッドフォードが手を前に出した。
「そうでなきゃただのイジメになるからな」
十本になった光の槍が飛んできた。
今度はどんな性質か。そう考えた時だった。
気がつけば、三本の槍が身体を貫いていた。腕に一本、足に一本、腹に一本。
考えている時間などなかった。残りの槍を左右の手を使って撃ち落とす。しかし、光の槍は思っている以上に多かった。
増えた槍が飛んできているのではない。増えた槍が発射台となり、同じ形をした槍の分身を飛ばしているようだった。
槍の雨が降り注ぐ。光速で打ち出されるそれは、雨というよりも銃弾だった。
すぐに土煙が辺りを包み込む。もくもくと、頭上をゆうに超えるほどまで高くあがっていった。
槍が地面に当たる音がうるさかった。それ以外はなにも聞こえず、けれどその音さえも遮断した。そんなことに気を取られていては、この槍を捌ききれないと判断した。
十本、二十本。百本、二百本。もうどれだけ光の槍を弾き落としたかわからない。どれだけの槍が突き刺さったのかもわからない。どれだけの槍が残っているのかも、想像することさえできなかった。
ようやく、光の槍が止まった。
まだ視界は晴れない。ブラッドフォードがどこにいるのかもさだかではなかった。
「さすがに無理か。お前も所詮この程度ってことだ。わかったか、力の差ってやつだよ」
ブラッドフォードの声が聞こえてきて、奥歯を強く噛み締めた。
「お前は所詮落ちこぼれだよ! なんでも破壊する賜法と、なんでも無効化する賜法なんて実際は弱点だらけだ。なぜか。それは、お前本人が弱いからだ! それももう使えないみたいだがな!」
短く浅く息を吐いた。
両手の盾を消し、代わりに剣を出した。
身体は血だらけ穴だらけ。立っているだけでも力を使う。疲労で腕が悲鳴を上げた。
だが、それこそがいいのだ。苦労や挫折は宝だ。この歳になってようやく理解した。自分より強い相手と戦い、負け、レベルを下げられて。しかしそこから見えてくる物も数多くあった。
考えて戦うということの重要性。新しい賜法を編む方法。自分を、味方を、敵を信用するということ。
「トドメは俺自ら刺してやる」
ジャリッという足音が聞こえた。
その瞬間に剣を薙ぐ。剣からは細く長い衝撃波が放たれた。土煙の壁を突き破り、一直線にブラッドフォードに向かって飛んでいく。それは、ブラッドフォードの頬を掠め、またどこかに飛んでいってしまった。
「わかってないのはお前の方なんじゃないのか」
途切れた土煙の間で、僅かに目が合った。ブラッドフォードが目を見開いていた。
「お前は、誰だ……!」
「言わせるのか?」
両手の剣を振りかぶり、一度地面に突き立てた。
「四光の後継者にして魔王の従者にして最強の天才様だよ」
風を纏って突進していく。それを見て、ブラッドフォードが風の槍を構えた。
その動きに合わせてアーサーが右手の剣を振った。アーサーの剣から風の槍が飛び出し、ブラッドフォードが放とうとした槍とぶつかりあった。
「なぜ……!」
驚愕の表情は消えない。
「さあ、なんでだろうな」
左手の剣を振ると、光の槍が無数に出現し、ブラッドフォードへと襲いかかっていった。ブラッドフォードは自身でも光の槍を出現させて打ち消した。
「貴様、俺の賜法をコピーしたのか!」
距離を取った状態で、二人は槍の撃ち合いをすることになった。しかし攻めているのはアーサーだった。
アーサーが出した槍をブラッドフォードが打ち消して、アーサーが近づこうとしたところをブラッドフォードが逃げる。そういう構図だった。
「全弾くれてやる!」
「受けて立ってや――」
その均衡が崩れた。アーサーの足が止まるという、以外な形で終わってしまった。
「馬鹿はこれだから困る。最後の槍を忘れるとはな」
ブラッドフォードが出した光の槍。その光のせいでアーサーの後ろに伸び、影をなにかが刺していた。正確には、アーサーの影と地面を縫い付けていたのだ。ブラッドフォードが持つ闇の槍だった。
「最後まで使わなくて正解だったな。口を動かすこともできないだろう? そういう賜法だからな」
光の槍を、自ら手で掴む。
「これで、終わりだっ!」
力いっぱい、その槍が投げつけられた。
「いや、まだだ」
心の中で賜法を呼ぶ。その名を〈完全理解リダイレクションシード〉である。
アーサーは相手の賜法を模倣しただけに過ぎない。しかしそれは「賜法をそのままコピーした」わけではない。
アーサーは元々、魔導炉の扱い方が上手くなかった。しかし、セレスティアの従者となり、レベルを落とされ、ようやくそのコツを掴んだ。
より魔導炉を理解するために作ったのが〈完全理解〉だった。
自分が受けた賜法の構成を理解する力。賜法の編み方。そういった物を理解するだけの賜法だった。
だからこそわかることもある。そう、無効化する方法と、その賜法を作る方法だった。
それだけではない。〈完全理解〉がもたらしたのは、元々あった〈完全調律モジュレーションゲート〉をより完璧な形にした。
理解することで「作為的に無効化する」ことができるようになった。
闇の槍を打ち消し、光の槍を避けた。
左手の剣を消し、右手の剣で光の槍を打ち出した。打ち出した光の槍を左手で掴み、ほど一瞬でブラッドフォードの前へとやってきた。
「いつまで馬鹿なガキじゃないんでね」
もう一度左手の剣を出現させた。
「お前の負けだ、ブラッドフォード!」
「俺はまだ……!」
両手の剣でブラッドフォードを切り刻む。
幾度となく繰り返される剣撃に、ブラッドフォードの身体が蹂躙されていく。
そして、勝負は決した。
地面に倒れた敵を見てアーサーは剣を消した。
その場にへたり込み、深く長い息を吐いた。少しずつでいい。少しずつ障害を乗り越えていけば、きっとずっと高みへ行かれる。例え負けたとしても、それを経験にできればいつか乗り越えて、そして勝つべき相手の前に立つ。
「ライオネル、俺はいつかお前を倒すぞ」
彼の敵はライオネルただ一人。自分を倒した男。その男を超えるため、一人の天才が努力を身に着けた瞬間だった。




