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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
英雄の資格 2
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一話

 皆が出ていってから、俺はエレベーターの前に座り込んだ。少しでも魔力を回復させなければいけないからだ。


 たくさんあるモニターには外の様子が映し出されていた。そこから仲間の動きは見える。しかし、助けに行くことはできないだろう。


 無茶をし過ぎた。それは自分でもわかっていた。


 急激な成長、時間の逆行、それを隠すために常に賜法を使い続けてきた。


 カレンとの戦闘も、エイブラムとの戦闘も、時間の逆行を利用して無理矢理捻出したものだ。


 常に魔法を使い続けるということ、常に賜法を使い続けるということ。それは魔力を放出し続けるのと同じこと。当然、魔力が空になっておかしくない。


 今の俺は、普通の人間と同じだ。


 目を閉じると睡魔に襲われた。抗うことも出来ずに泥に浸かる。


 夢は見なかったずっと、深く暗い場所にいた。


 ふと目が覚めて辺りを見渡す。時間はそんなに経っていないようだ。


「なあ、聞こえてるか」

『あー、ボクのこと呼んだかな』

「まだ名前訊いてなかったな」

『ジョッシュだ。これからはそう呼んでくれ』

「そうか。下の様子はどうだよ」

『今散策中って感じだね』

「散策? ちょっとしたら戻って来るって言っただろうがよ」

『キミなら、セレスティアの性格を理解してるんじゃないかな?』

「まあ、そうだが」

『彼女なら大丈夫だ。彼女は強い』

「それもわかってる。だから心配なんだ。強いから無理をするし、強いから人の前に立っちまう。後ろから見てるヤツらはさ、前にいるヤツがどれだけ傷ついてるかわかんねーんだ。だから、魔導結晶だって身体に埋め込んだ」

『キミはそのことを良しとしていないんだね』

「無茶苦茶だろ、異物を身体に埋め込むなんて。それもこれも俺が弱いからだ。でも、強くなってもアイツに無理をさせてる。それが許せないんだ」

『キミが許せなくても、セレスティアは納得してるみたいだけどね』

「納得? なにに納得してんだよ」

『自分に魔導結晶を埋め込んだことだよ。それでいいって思ってるはずだ。そうじゃなきゃ、一人でメイトラに行くとは言わないだろう』

「アイツが一人で行く必要がどこにあるんだ。いいじゃないか、メイトラ人とオルトバ人はそういう関係なんだ。だったら、いいじゃねーかよ」

『それでも証明しようとした。いろんな人間に納得してもらうために』

「うるせーよ。勇者だの魔王だのって、ゆざけたシステム作ったヤツが偉そうに言うんじゃねーよ。だったら今すぐ勇者も魔王もなくしてくれ。そうすりゃ、こんなことしなくてもよくなるだろ」

『それは、できない』

「なんでだよ! 魔法や賜法を使えばエネルギーの供給はできるんだろうが! だったら戦う必要なんてどこにもない!」

『それは、ボクの一存ではどうにもできないんだ。ボクがなにかをしたからって、今更変えることができないんだ。ボクは支配者ではないんだよ。ただの管理人だ』

「クソみたいな世界だよ、ホントに」

『いつかなんとかしてあげたいけどね。それにはキミたちの協力が必要だし、セレスティアの行動も必要だ』

「お前らにとって必要なだけだろ」

『キミたちにとっても必要だよ。なにかを変えようと思ったら、なにかを失うことも必要なんだ』

「お前それって……」

『おっと、ちょっと外がヤバそうだぞ』


 そう言われてモニターを見た。


 ブラッドフォードが暴れまわっているのが目に飛び込んでくる。


 仲間たちが必死に戦っているのだが、ヤツの勢いが止まることはなかった。


「んだよこれ、エイブラムとは違う。でも、強い……」


 戦士の強さではない。人間として、野獣としての強さ。そう表現するのが正しかった。


 敵も味方も関係ない。目に映る者全てをぶちのめす。殴って投げて、蹴って、壊して。


 その繰り返しだった。


 そして少しずつ前進してくる。そう、この鎮事府にだ。


『この勢いなら数分で来るよ』

「わかってるよ、そんなこと」


 立ち上がり、深呼吸をした。


 まだ戦えるような状況ではない。が、動かないわけにもいかなくなった。


『ここで朗報だ。あのブラッドフォードという男、見た目よりもずっと魔力が低いみたいだ』

「どういうことだ?」

『かなり無理をしてるっていうことだよ。あの勇者、割りとレベルが高い魔王や従者を相手にし続けている。見たところまだまだ元気に見えるけど、自分の中の魔力を無理矢理使ってねじ伏せてる感じだ』

「そうかよ。それなら、まだやりようはあるかもな」


 モニターに視線を向けて決心を固めた。


 やれることをやるしかない。魔力はないが、それは相手も一緒なのだから。


「上に上がる。セレスのこと、よろしく頼む」

『頼まれた』

「なんかあればすぐに連絡くれ」

『わかった。それじゃあ、これを』


 ケーブルが伸びて来た。先端には、小型の通信機器のような物が乗っていた。


『常に持ってると壊れちゃうと思うから、戦闘に巻き込まれなさそうなところに置いておくといい。なにかあればそこに連絡を入れる』

「使い方はわかんないけど、まあなんとかなるだろ。んじゃ、行ってくる」

『武運を祈るよ』

「よく言うよ」


 出口へと歩いていく。どうなるかなんて俺にもわからない。


 でも、皆が戦っている中で自分だけが休むなんていうのはやっぱりダメだ。


 俺は俺ができることをする。そう、皆がそうであるように、俺も動きださなきゃいけないんだ。


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