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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
魔女の資格
87/96

四話

『どうしたんだい?』

「ジョッシュ、アナタなにかした?」

『なにか? どういうことだい? なにが起きている?』

「住民が一斉に出てきたわ。しかも、手には必ずなにかを持ってる」


 そう、その町に住んでいるであろう住民たちがセレスティアの前に現れた。上下灰色の洋服は皆同じであった。男も女も同じような背丈、同じ服を来ていた。町の中を抜ける道を塞ぐように、手には掃除用具などを持っていた。


 その理由はわかっている。メイトラには料理という概念が存在しない。調理道具もそう、狩猟道具だってない。武器になりそうなものと言えばそれくらいしかなかったのだろう。


 彼らの目には殺意があった。同時に怯えも見えた。


 元々、彼らはやせ細っている。しかし目がギラついているわけではない。それが今、全員の目がギラギラと輝いていた。獲物を見つけた猛禽類のようで、肉食獣のようでもあった。


『ちょっと待っててくれ。こっちでどうなったのか確認する』

「もし戦闘になったらどうしたらいい? できれば攻撃したくないんだけど」

『できれば攻撃しないで欲しいね。キミが手を出してしまうと処理が面倒くさいんだ。オルトバとメイトラには、お互いに干渉した場合の法律がない』

「そう、でしょうね。なら逃げるしかないわ」

『こっちで情報を集める。それまでは逃げ続けて欲しい』

「わかったわ」


 住民たちに背を向けて走り出した。


「メイトラ人は魔法が使えないのよね?」

『ああそうだ。その代わりに、オルトバにはないような道具を使うよ。それは下等種族も中等種族も変わらないよ』

「でも上級種族以外はお金の概念がないのでしょう?」


 森の中を駆け抜けながら話を続けた。


『お金の概念がないだけだよ。支給されることはある』

「なにを支給するっていうの? 掃除用具くらいしか持ってなかったわ。あれになにが――」


 突如、背後からなにかが飛んできた。飛んできたという言い方は正しくも間違っていた。


 一筋の光。レーザービームのようなものだった。


「ちょっと! こんなの聞いてない!」


 背後から放たれる無數のレーザービーム。後方からくる熱源を感知しながら、右へ左へと避けていく。


『下等種族も中級種族も関係ないんだ。この町自体に自衛のための武器が内蔵されている。それは家の外に出ないと入手できない。だから出て来るまでは掃除用具。外に出てきたら武器を持つ。当然のことだろう?』

「当然とか当然じゃないとかいいわよ!」


 どんどんとエレベーターから遠ざかっていく。そして、彼女の中に内包している魔力が減っていく。


「ジョッシュ、他にエレベーターはないの?」

『残念だが、鎮事府の真下に位置する場所にしかエレベーターはない』

「なんであんな不便な場所に作ったのよ! 普通はアナタたちの本拠地とかに作るでしょう!」

『最初はあそこが本拠地だったんだよ。だったんだけど、海の近くは金属が腐りやすいんだ。それに利便性に欠ける』

「そんなものは作る前に気付きなさいよ!」

『ボクに言わないでくれ。ただ、エレベーターに行くための道を案内することならできる。このまま直進すると道に出るからそれを左へ道なり。新しい町が見えてくるから、町に入らずすぐ左。これでぐるっと一周してエレベーターに戻れる』

「わかってると思うけど、私の魔力はもう残り少ないわ」

『それまでには戻れると思うよ』

「安心できないけど、信用するしかないのよね」

『とりあえず前進に集中してくれ。ビームは避けられるよね?』

「問題ないわ。走ることには集中するけど、その間に町の人が襲ってきた理由を調べて頂戴」

『了解した。すぐに確認させる』


 森の中を走り続け、レーザービームを避け続け、同時に魔力量にも気を付けなければいけなかった。


 四つある魔導結晶のうち、すでに二つを使い切った。魔法を使うということは魔導結晶を使わざるを得ないのだ。本来ならば魔法力を使えば良いはずだが、そうやって供給することができない以上は仕方がなかった。


 だからこそ、魔法や賜法は使いたくなかった。そもそも行って帰ってくるだけのつもりだった。


「まったく、面倒なことになったわ……」


 レーザービームに関しては問題なかった。戦闘に身を投じている身である以上、これくらいの攻撃ならば避けるのも容易い。思考がない攻撃だからだ。相手を騙す、相手を出し抜くという思考がないから普通に避ければいいだけ。


 問題はやはり魔力の問題だ。常に戦闘のことを意識していて、常に魔法力がある場所に住むオルトバ人であることが問題だった。


 無意識で魔法を使うことに慣れてしまっていたのだ。


 走ること。気配を読むこと。風を感じること。熱源感知。視力増加。それが無意識に行われていることに気が付き、即座に魔法を遮断した。だが全てを遮断するわけにはいかない。その調整をするのに、逃げる最中にやるのは難しかった。それでも足を止めるわけにもいかない。


 そこでようやく道路に出た。道路というのかどうなのか。単純に金属製の木がなくなっただけにも見える。


 今もまだレーザービームはいまだにセレスティアを追ってきている。おそらくここだろうと、左に曲がりまた足に魔力を込めた。


「本当に人がいないのね」


 そんなことを言いながら走り続けた。


 レーザービームも収まり、遠くに町が見えてきた。


 ここでまた違和感を覚えた。道が平坦過ぎるのだ。先程も感じたが、非常に歩き易く走りやすい。それなのに人がいない。なんのためにこんなにも平坦なのだろう。なんのために舗装されているんだろう。そんな考えが脳裏によぎった。


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