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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
魔女の資格
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二話

 一応昼間なのか空は明るい。しかし、それが人工物だというのはすぐにわかった。


 空で光を放っているのは無数の電灯である。太陽が一つあって光を生み出しているわけではない。オルトバの下部、メイトラの上部にたくさんの電灯を取り付けているのだ。


 思わず、視線を落としてしまった。


 自分たちを作った者たちが住まう世界。それがこんなにも無理矢理に生きながらえている。生に執着し、生を謳歌している。悲しくもあり、たくましいとも思わされる。けれどどうしても機械的に見えてしまって、この世界を完全に肯定はできなかった。


 地面が固いので、普通に歩くだけでコツコツと靴音が響くようだった。


 魔導結晶から魔法力が失われていくのがわかる。それだけ消費が激しいということだ。


「ねえジョッシュ」

『なんだいセレスティア』

「ここって、一応森っていう扱いでいいの?」

『そうだね、一応森だね。オルトバとはだいぶ違うけど、本来森といえばオルトバにあるようなのが正解だ。木々が生い茂り、茶色い地面が見えて、緑が辺りに散りばめられている。それが、正解なんだ』

「どうしてこうなってしまったの?」

『業、というやつなのかもしれないな。人間は自分を正当化するために争う。武力もそう、政策もそう、なんでもそうだ。自分が正しいんだと誇示するのに力を振るうんだ。その結果、木々はほとんどなくなって、地面は汚染されて、食物が上手く育たなくなった』

「自業自得、か」

『そういうこと。だからボクはオルトバが羨ましかった。しかしボクがオルトバに行っても生活なんてできない。ボクだけじゃない。メイトラ人は結局メイトラでしか生きられない』

「魔法力の関係で?」

『いや違う。オルトバ人は魔法力がないと生きられないけど、メイトラ人は魔法力があろうがなかろうが生活できる。問題はそこじゃないんだ。体のこともある程度は大事だよ。食べ物が合う合わないはあるからね。でも精神面がなによりも問題なんだ。醜い争いしかできないメイトラ人は、絶対にオルトバでは生きていかれない。魔法も使えないしね』

「でもメイトラ人はオルトバ人に干渉してくる。そう、エイブラムの弟を殺したように」

『否定はしない。それが間違っていたのだとも言わない。ボクらはそれが正しいと思ってやったんだ。彼は、危険な存在だったから』

「メイトラにとって?」

『鎮事府にとって、かな。鎮事府の正体がバレれば面倒なことになる。それはキミにもわかっているはずだ。作られた世界の上で作られた人間であり四六時中監視されている。それはキミたちにとって必要のない情報だ。なによりもそれが露呈したあと、オルトバがどうなるかは想像できない』

「言いたいことはわかるわ。多を守るために個を切り捨てるというのは大切なことだと思うし。けれど、それがきっかけで今こういう状況になっている。それはわかっているのよね?」

『わかってるさ。きっとボクらのやり方は間違っていたんだ。違うな、正確にはもっと慎重になるべきだった。エイブラムの弟を殺すのではなく、話をする方向で行動すればまた違ったかもしれない。それでも、いつかはこうなっていただろうと思うけれど』

「そうね、いつかはこうなってた。ただ、憎しみがここまで広がったかどうかは謎だわ。例え結果が同じであっても、それまでの過程によって結果が内包する環境や思惑、その結果の先は同じにはならない」

『それはボクも思っているよ』

「そう、それならいいわ」


 金属製の森を歩き続けると、聞いたことが無いような大きな音が近づいてきた。近づいてきたのではない、セレスティアが近づいているのだ。


 魔法力の関係もあり、足早に鉄柱の中を進んでいく。そして、道がなくなった。


「これは……」


 そこは水の荒野だった。崖の下には黒い水面が広がっている。冷たい風が吹きすさび、水が波を立ててぶつかり合う。初めて見る景色でありながら、壮大で広大な景色でありながら、どうしてか物悲しさを覚えてしまった。


『これが本当の海さ。キミたちが知っている海は本当の海じゃないんだ』

「これが、海」


 ザパンザパンと、波が崖にぶつかってくる。


『正確にはこれも海とは言い難いんだけどね。本当は黒くない。海が黒いのもまた人間の業が原因だ。汚染されて黒くなってしまった。本来は塩水なんだけど、これは塩水と油と化学物質によって作られた極限の毒だ。泳ぐこともできないし魚だって済むことができない』

「昔は泳いでいたし、昔は魚が住んでいたと」

『そう。海っていうのは魚が取れるというのが本来の姿なんだ。しかし今はこの有様さ。住んでいないことはないのだけれど、それを取って食べられるかと言われると、無理だと言わざるをえない』

「毒の中で生まれた生物は結局毒ということね」

『ご名答。だから海であり海ではないのさ。魚が取れないせいで潰れた国だってたくさんある。魚も動物も人もたくさん死んだ。それでようやく人々は争いを辞めた』

「違うでしょう? 辞めたんじゃなくて、辞めざるを得なくなったんでしょう? 食べ物も少なくなって、人も減って、そこでようやくこのままじゃいけないと気付いたんじゃなくて?」

『そうだよ。そこで人々はオルトバを創造したんだ。科学力だけは発達していたからね、空中にもう一つの世界を作り、エネルギーを生成しようとしたんだ。新しいエネルギー、キミたちでいう魔法力というやつだ。そのお陰でボクたちは生きていかれる』

「もしも今それを失ったら?」

『メイトラは滅びるだろうね。でもエネルギーの供給が途切れればオルトバも機能しなくなる。オルトバが宙に浮いていられるのはメイトラがあるからだ。魔法力の供給が絶たれるイコールオルトバがメイトラに落ちてくるということ。魔法力がないメイトラに落ちてオルトバが壊れれば、結果は目に見えているよね?』

「釈然としない共存関係だこと」

『そればっかりは仕方ないね。オルトバとメイトラを総合して世界として成り立っているからね。そうだ、魔法力の方は大丈夫かい?』

「まだ大丈夫。町の方には行かれる?」

『行ってもいいよ。来た道を一旦戻ってから、エレベーターに向かう際の横道に入って一直線だ』

「わかったわ、ありがとう」


 数秒間海を見つめ、それから踵を返した。見るべきところは見た。ライオネルたちに伝えるための情報は充分だと判断した。


 一度戻ってから、ジョッシュが言うとおりに横道に入った。そしてまた森の中を歩き続けた。魔法力はまだ半分以上残っている。あとはこの世界の人たちを観察して帰ろうと思った。


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