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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
英雄の資格 1
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最終話

『おや、帰ってきたみたいだね。エイブラムを退けたのかい?』

「ぶっ倒してやったよ。アンタの話を聞くためにな」

『なるほど、キミは彼よりも話がわかるようだ。自己紹介がまだだったね。ジョッシュ=トライズだ』

「ライオネル=アークライトだ」

『オーケー、じゃあ話を進めようか。キミが聞きたいのは、鎮事府を破壊すると世界が滅びるという部分なんだろう?』

「まあ、そうなるな」

『じゃあこの図を見てくれ』


 モニターの後ろから、二個三個と新しいモニターが出現した。うねうねとケーブルに繋がれたモニターだ。ケーブルに支えられて宙に浮いているが、物理的にはかなり無理があるように見える。魔法ではないとは思うが、ちょっと不思議な感じがした。


 モニターにはこの世界の図形が表示されていた。


『キミたちの世界がオルトバ、ボクたちの世界がメイトラ。球状のメイトラから何千本という柱が伸び、上空に浮かぶオルトバを支えている。この柱を全て破壊されてしまえばオルトバが降ってきてしまうんだ。そしてこの鎮事府は、数少ないオルトバとメイトラを行き来する出入り口でもあるんだ。しかし、この入口はキミたちにとっては毒以外のなにものでもない。オルトバの待機に満ちる魔法力は、オルトバ人の命の源でもある。しかしメイトラには魔法力がない。オルトバの魔法力が薄くなれば、当然オルトバ人は生きていけなくなる』

「それが本当かどうかわからないから困ってるわけなんだけどな……」

『しかし、それを証明するためには誰かが犠牲にならなければいけないぞ? キミたちの誰かがこちらの世界に来る。そして死ねば、証明できると思うが?』

「そりゃ、ちょっと極論過ぎる気はするんだがな……」

「それならば私が行こう」


 そこで、俺の横に誰かが並んだ。


 誰かではない。見なくたってわかるじゃないか。こんなキリッとした表情でとんでもないことを言い出すのは一人しかいないんだから。


「セレス、お前……」

「私ならば魔導結晶に魔法力を溜めておける。マズイと思ったら魔導結晶から魔法力を引き出せばなんとかなるわ。それに、ライならなんとかしてくれるんでしょう?」

「なんとかって、どういうことだよ」

「どういうことだろうね。きっとなんとかしてくれるんじゃないかって、そう思っただけよ」


 彼女が一歩前に出た。


「じゃあジョッシュ。私をメイトラへ」

『話はついてないみたいだけど?』

「他に誰かが行くっていう選択肢はないわ。生きて帰って来られる可能性は私しかないんだから。下では時間停止だって使えないわ。さあ、連れていって」

『ふむ、みんなもそういう顔してるね。わかった。下には下ろすけど、メイトラの地上へは下ろさないからね。一度地上に降りちゃったら、帰ってくるまでに時間かかるし』

「いいわ。ようするに私たちオルトバ人がメイトラで生きていかれないことを証明すればいいんだから」

『そうだね。じゃあ行こうか』


 床がせり上がり、五人くらいが乗れるエレベーターのような箱が出現した。ガラスで作られた扉が左右にスライドし、セレスがその中へと入って行く。


「話したいことがいっぱいあるんだ」

「ええ、私も」

「俺が強くなれたのだってお前のおかげだ」

「私が強くなれたのはアナタのおかげよ」

「だから――」

「その続きは帰ってから聞くわ」

「ちゃんと、帰って来いよ」

「もちろん。私を誰だと思っているの?」

「俺の、幼なじみだよ」

「そう。だからアナタはなにがあっても、私が困っていたらアナタは助けてくれる。大丈夫。私はきっと、なにがあってもアナタが助けてくれる」

「そんな他人任せな……」

「それでこそ私でしょう? それじゃあ、またね」

「ああ、また」


 扉が閉まり、床が徐々に下がっていく。


 彼女が俺に向かって手を振った。俺は彼女に向かって手を上げた。


「ジョッシュ、セレスのこと、頼んだぞ」

『悪いようにはしないさ。ボクだって別にオルトバ人を殺したいわけじゃないんだよ。オルトバとメイトラは、場所は違えど共存関係にあるんだから』

「そうだな。セレスが帰って来るまでここにいさせてもらってもいいか?」

『いいよ。いいけど、それはかなり難しいんじゃないかな』


 右にあるモニターが切り替わった。外部の映像を映し出しているようだ。


 俺たちが戦っていた森が映っている。けれどその光景は、さっきとはまるで違っていた。


「森が燃えてる……?」

「どういうことなの、これ」


 セラとシャロンが口を開けたままモニターを注視していた。いや、彼女たちだけじゃない。ここにいるほぼ全ての人間が開いた口を塞げないままでいた。


 一人だけ、冷静に見ている人物が言葉を発した。


「よく見ろ」


 アーサーだった。


 燃える森から歩いてくる人の群れ。百や二百では済まない。そしてその中央、一番前には見たことがある勇者がいた。


「ブラッドフォード……!」


 彼の手にはエイブラムの首があった。そう、首だけだ。


「あの男、最初からこれが狙いだったようだな」


 そう言いながら、ハリエットが背を向けた。一歩、また一歩と出口へと歩いていく。口には出さないが「承知しました」と言わんばかりにヘレンがあとを追う。


「どこ行くんだよ」

「アイツを、ブラッドフォードを止める。きっとヤツはここを目指しているはずだ。あの森はこことそう離れていないからな」

「アンタ一人でなんとかなる数じゃないぞ」

「それでも行くんだよ」


 冷静に見えた。けれどそうじゃない。あの強く握られた拳は、冷静さを装うためのものだ。


 ああそうかと、合点がいった。


 ハリエットとエイブラムの関係性は、敵でありライバルであり、時に友人だったんだ。そのエイブラムがなんなふうに扱われて、外側に出せないよくわからない感情が彼女を支配しているんだ。今の彼女を止めることは、俺にはできない。


「どうやら、あれをなんとかしないと終わらないみたいだな」

「いつまでも、私はアナタと一緒よ」


 今度はアーサーとヴェロニカが背を向け歩きだす。


「アンタはここでお嬢を待ちなさい」

「私たちが、なんとかする」


 セラとシャロンがアーサーたちの後ろについていった。


「なんとかするって、お前らだけでなんとかできると思ってんのかよ!」


 俺が言うと、入り口の前で全員がこちらに振り向いた。


「さあ、どうだろうな」


 アーサーが笑いながらそう言った。皆、似たような笑顔を浮かべていた。


 そして、俺を残して全員出ていってしまった。


『キミは行かなくていいのかい』

「正直、わかんねーよ」

『じゃあ追っていったら?』

「いや、それはできない」

『なぜだい?』

「それは――」


 それは、みんなを信頼しているから。セレスに信用されているから。俺はここから動くわけにはいかないのだ。


「待ってるって、約束したからだ」

『そうかい。それなら、モニターくらいは外部を映しておこうかな』

「ありがとう」


 四つのモニターが外部を映し出した。


 俺がセレスを待つという目的を、みんなが尊重してくれた。だけどきっと、彼女たちは知っているのだ。


 もうすでに、俺の魔力が尽きかけていることに。

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