二十四話
「最悪の、気分だよ……」
「そりゃよかった」
「お前、なにをしたんだよ」
「なにって、なにがだ」
「急にレベルが上がった」
「上がったんじゃない。上げたんだ。それを隠してお前と一緒にいた。時間を止める能力と、自分の時間だけを進める能力。それと経験値を増加させる能力。それらを全部合わせて、お前やカレンが眠ってる間もレベルを上げ続けた」
「いったいどれだけの時間を費やしたんだか……」
「しらねーよ。でも、長かった。誰とも会話しない時間が増えた。一日が何日、何十日にも感じられた。〈世界掌握〉で時間を止められる時間が伸びれば伸びるほど、一人でいる時間が増えていったよ。一度に止められる時間は限られてるから、時間を止めて、進めて、ちょっと経ってからまた止めて。そうやって誰もいない時間の中でレベルを上げ続けたんだよ」
「孤独は、辛かったか?」
「当たり前だろ。俺は今まで孤独を味わったことがなかった。ずっとセレスがいてくれたからだ。セレスが一人になりそうな時は俺が側にいたからだ。だから、予想以上にキツかった。それでも、アンタを倒す方法がこれしかないって思ったからな」
「それにしちゃ、年が変わってないように見える」
「時間を進め、時間を止められるなら時間を戻すことだってできるはずだ。そう思って、カレンに内緒で賜法を編み出した」
「俺が思ってる以上に食えない男だったか……」
「食えたとしても腹の内側から食い破ってやるよ」
「まさに今その状態なわけだ。はっ、笑えねーな」
「ああ、笑えないな。お前のした行動も、お前の人生も」
「俺の人生? お前になにがわかるってんだよ」
「カレンから聞いた。お前がどうしてこんなことをしようとしたのか」
エイブラムが悔しそうに唇を噛んだ。
「そうか。でも、なんと言われても俺は自分の行いを悔いていない。間違ったとも思っていない。こんなシステムを作っておいて、異分子ができたら排除するなんて間違ってる。だから真実を知りたかった。意図的に弟が殺されたのか、そうじゃないのか」
「違うだろ。お前らは真実を知りたかったわけじゃない。ただ鎮事府を根っこから壊したかっただけじゃないか。真実がどうあれ、お前はきっと鎮事府を破壊しようとしてた。違うか」
「そうかも、しれんな」
「そうかもじゃねーんだよ。お前らの私怨のために、何人の勇者が犠牲になったと思ってるんだ。何人の魔王が犠牲になったと思ってるんだ。家族を失う苦しみを、痛みを知ってるお前らが、なんで家族から家族を取り上げるようなことをするんだよ」
「他人のことを考えて、他人を守っても、俺の痛みは一生消えないんだよ。わかるか、俺の痛みが。俺がどんな気持ちでここまで来たのか。お前にはわからないだろ」
「わかるわけがねーよ。それとハリエットが言ってたな、妻と子供が殺された。それがエイブラムという男の英雄譚だって」
「昔な、魔王に殺された。勇者の中にも下衆なやつがいるように、魔王も例外じゃない。弟のこと、妻のこと、子供のこと。その全てが、俺を鎮事府へと向かわせたんだ。鎮事府も魔王も憎くて仕方がねーよ。鎮事府さえなんとかすれば、全部終わると思ったんだ。なのにこの有様だ」
「気持ちは、わからんでもない」
「お前にわかるってのか? ふざけやがって」
「俺は勇者に両親を殺されてんだよ。少しくらいはわかるさ。でも、それとこれとは話が違う。憎い気持ちだけで、この世界全ての人間を巻き込むのは違うんだよ」
「うっせーな。そんなのはお前の考え方だろ。思考や思想がみんな一緒だったら、逆に怖いだろうが。行動理念なんて、違って当然なんだよ」
「そうだな。だから俺はお前を止めたかった。俺とお前の正義が違うなら、ぶつかり合うのは当然だからな」
「もう、どうだっていいわそんなこと。俺は負けたんだからな。ごちゃごちゃ言ってねーで今すぐ殺せ」
ふーっと、エイブラムが辛そうに息を吐いた。
「お前が勝者だ」
そう言って目を閉じた。
勝とうとは思っていた。勝つつもりで戦った。でも、勝ったあとにどうしようかは考えていなかった。
しかし、俺は自分で言ったじゃないか。ならそれを実行するしかない。
「悪いがお前を殺せない」
「なぜだ」
エイブラムの瞼が開かれた。
「俺はさ、殺さずの魔王、セレスティア=ウォルト=クロムウェルの従者だからだよ」
そう言ってから背を向けた。でも顔だけ横に向けてもう一言。
「でも俺の勝ちだ。もう鎮事府には手を出すなよ。俺は魔王の従者だけど、物理的には勇者だから。今日から俺が勇者の王だ」
セレスたちと合流し「行くぞ」と言って森の中を歩いていった。
ハリエットの元に戻ると、既に立ち上がれるまでに回復していた。あれだけバラバラにされたというのに、いったいなにがあったんだか。
「やったか」
「ああ、なんとか。これで鎮事府をぶっ壊そうってヤツはいなくなった」
「そうだな。それで、お前はどうするつもりだ? お前は鎮事府を野放しにするか?」
「さあ、まだわかんねーよ。とりあえずもう一度地下に戻りたい。ちゃんとした話を聞きたいんだ」
「いいだろう」
そう言いながら、ハリエットが指を鳴らした。次の瞬間、俺たちはまたあの地下にいた。モニターの前。ここに来る前にいた場所だ。




