二十三話
攻撃しても透過能力で避けられる。そんなことはわかっていたが、攻撃しないわけにもいかない。
問題なのは俺の時間操作系の能力がエイブラムに通用しないこと。はっきり言えば、こればっかりはただの殴り合いで勝つしかなさそうだ。
突っ込んでいって、一瞬止まってから拳を撃ち抜く。実直に殴っては、透過能力でただ避けられてしまう。それを回避するためにはタイミングをズラすしか方法がない。透過し続けていたとしても、こちらはその分様子見ができる。消極的ではあるが今はこれが正解だと思う。
案の定、俺の拳が空を切った。
エイブラムが全身を透過させて俺の後ろに回り込む。わかっているからこそ俺も振り向いた。が、振り向くよりも先に殴りつけられてしまう。身体が大きく筋肉もあるせいで一撃がかなり重い。それでもふっとばされるわけにはいかないのだ。
相手の攻撃を避け、相手の身体をすり抜けて、そうやって後ろから殴りつける。これがこいつの戦い方なんだろう。
逆を言えば、たぶんこいつはこれしかできない。この戦い方でレベルを上げて、この戦い方でのし上がってきたんだ。アーサーと似たようなタイプで、少ない賜法でやってきた。
「そんな戦い方で、いつまでもやられると思ってんのかよ!」
殴る蹴るが空振りを繰り返していた。
「その戦い方に翻弄されてるのはどこのどいつだ!」
ヤツの拳が俺を攻撃してくる。その度に両腕でガードするが、あまりにも力が強くて何度も吹き飛ばされそうになった。
一つ一つの技の練度が違うのだ。
しかし、最初からわかっていたことだ。
俺の賜法をこいつに通す方法は一つしかない。
「そらそら! お前もアイツらと同じようにしてやるよ!」
「調子に乗ってると痛い目みるぜ?」
「じゃあ痛い目――」
エイブラムの拳が目の前で止まった。
「みせてみろや!」
防御体勢に入っていた俺だったが、そのせいでミドルキックをもろに食らってしまった。
ミシッと、骨が折れるような音がした。上半身への攻撃に意識をやりすぎた。いつか蹴りが来るってわかっていたのに、その頻度が少ないせいで油断してしまった。
距離を取って仕切り直しを図る。だがそうさせてはもらえないらしい。
エイブラムは力が強いだけでなく体力もバカみたいにある。一対多であっても、コイツなら体力だけで生き残りそうだ。
ここで攻撃に転じる。身体は痛いが動く価値はある。
俺が油断していたということは、コイツが油断していてもおかしくはない。
幾つかのフェイントを混ぜながら、右のリバーブロー。
「それがどうした!」
当然コイツは透過能力を使い、俺の身体をすり抜けようとするだろう。
時間の流れがゆっくりに感じられた。まだだ、まだこのまま。エイブラムが移動して、俺の身体を完全に通過する。その直前、俺は後ろへとバックステップした。最初から攻撃に関して比重を重く置いていない。
一瞬でいい。一瞬だけコイツの身体に触れられればいいのだ。
エイブラムの透過能力が一瞬解けた。俺の身体がエイブラムにめり込む形になった。と言っても、俺の腕がエイブラムの腕にめり込んでいる程度のもの。それだけでも充分だ。
「お前これを……!」
「世界、掌握!」
時間が止まった。
テキトーに使ってもダメならば、コイツの身体に直接叩き込んでやればいい。
賜法として見れば〈世界掌握〉なのだが、本来全世界の時間を止める力を一点に集約させた。だから止まっているのはエイブラムだけ。
コイツはいろんな物を透過する。物質も概念も関係ない。しかしコイツは今、物質を透過するだけの賜法しか使っていなかった。
俺が賜法を使わないであろう。賜法を使っても意味がないから使わないだろう。そう思わせるからこそ成功した作戦である。
大口を開けて止まる大男に一言。
「これからは俺の時間だ」
距離を取った。
拳を強く握り込む。魔力を溜めて、大地を踏み込む。
「〈限界突破〉」
自分の時間を加速。
「〈座標加速〉」
エイブラムの周りに時間を加速させるための球体を配置。
「懺悔もさせてやらねーよ」
一点突破。ただ直進し、ただただ拳を叩き込むだけ。
自分の時間を加速させたことによる鋭い拳。それが〈座標加速〉によって更に速度を上げる。これを数発、数十発、数百発と叩き込む。
攻撃するような賜法は編み出していない。エイブラムが自分の弟の補助をしようとしたように、俺はセレスティアの補助役であるべきだから。俺はアイツのために賜法を編み、アイツのために戦うのだ。
それは今でも変わっていない。
「俺は従者だ!」
魔王になるつもりも、勇者になるつもりもない。
「最初から、最期までな」
エイブラムと俺の間に〈座標加速〉の球体を一直線に並べた。そして、その球体に向かって右ストレートを打ち付けた。
加速する。加速する。加速した次の瞬間に加速し、更にまた次の瞬間には更に加速。加速を続けた拳は光速を超え、エイブラムの脇腹を撃ち抜いた。
そして、エイブラムの時間が通常へと切り替わった。
一瞬で訪れる何百発という痛みと衝撃。その場で留まっていられたのは瞬く間のみ。次の瞬間には吹き飛び、木々をなぎ倒しながら森の中へと消えていった。
エイブラムの後を追い駆ける。体力が回復したであろうセレスたちも後ろからついてきた。
「どうだよ、身体の調子は」
巨木に身体を横たえるエイブラム。頭から血を流し、体も傷だらけだった。意識を失ったせいだろう、透過能力を使えなかったのだ。満身創痍で横になり、最後に殴った右腹部を抑えていた。




