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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
英雄の資格 1
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二十二話〈リターン:ライオネル=アークライト〉

 カレンが新しい賜法を展開した。光の鎧のようだったが、俺はそれを右ストレート一発で砕く。カレンもわかっていたのか防御していたのだが関係ない。


「どうしてっ」


 一度身を引き、もう一度同じように殴った。


 カレンの身体が吹き飛ぶ。


 さすがは師匠と言うべきか威力を殺しているようだ。当たる瞬間に後ろに飛んだのか。


 着地するカレン。しかし、片膝をついてそれきり動かなくなった。


「アナタは、この短期間でなにをしたの……」

「想像にお任せするよ」

「今のアナタはレベル五百を遥かに超えている。エイブラムさまと並んでもおかしくないくらいの圧力。時間を加速させて無理矢理レベルを上げたの……?」

「いい線いってるけど違うぜ。この戦闘が終わったら教えてやるよ」


 動けないカレンの元へと疾駆する。方の鎧、足の鎧、残った光の鎧をすべて砕く。こうなるまでに随分と苦労した。あまりにも苦しすぎて一人で泣いたこともあった。寝ても疲れが取れなくて、へとへとの状態にだって何度もなった。


 それでも、俺は今こうして立ち、戦っている。いや、戦えている。一度は敵わないと思った相手を圧倒しているのだ。


「これでっ」


 左脚を振り上げてカレンの身体を浮かせた。


「終わりだ!」


 右拳を腹にぶつけ、そのまま地面に叩きつけた。


「かはっ……」


 彼女の瞳がブレた。どこを見ているのかもわからない。息は荒く、立つ気力も起きないといった感じだった。


 一歩二歩と後ずさり、彼女を見下ろした。


「負ける、とは、思いません、でしたよ」

「俺は勝つ気しかなかったけどな。そのために今までやってきたんだから」

「なにを、したの」

「お前が教えてくれたんじゃないか。〈世界掌握〉を長く使う方法、燃費良く使う方法、賜法の編み方、経験値を増やす方法。どれもこれもお前に教わった。俺なりに考えて、どうやったら「俺がやりたいことをできるようになるか」を実行したに過ぎない。ここまで言えば、頭がいいお前ならわかるんじゃないか?」

「時間を止めた世界で経験値を……?」

「そうだよ。お前らと同じ世界で同じようにレベルを上げたって絶対に追いつけないと思った。最初はめちゃくちゃ苦労したよ。長く〈世界掌握〉を使えるわけじゃなかったからな。同時にレベルが上がりすぎた場合の対処法も考えなきゃいけなかった。だから俺は「過去の自分のレベル」を貼り付けたのさ。そうすれば他人からはバレないから」

「私たちは偽りのアナタを見せられていたのですね」

「そういうこと。〈世界掌握〉を使いすぎて「もう死ぬんじゃないか」って時もあった。でも考えてみて、時間を進められて、時間を止められて、戻せない理由がどこにあるのかって思った。他人の時間を無理矢理巻き戻すことはできないけど、俺の時間を巻き戻すことはできたよ。そうやってお前に気付かれないように傷を治してた」

「思った以上に狡猾だったのですね。誤算でした」

「いいや、お前はわかってたはずだ。俺がなにかを考えているんだって。想像以上のなにかをするんじゃないかって。それでもお前は止めなかった。その理由を訊きたい」

「そう、ですね。それは否定しません。私は心のどこかで、あの人を止めて欲しいと思っていたのかもしれない」

「お前はエイブラムに危うさを感じていたのか?」

「ええ、おそらく」


 痛むであろう身体を、カレンはゆっくりと起こした。


「エイブラム様は勇者の頂点と呼ばれる人。でも本当は、彼の弟であるギルバート様の方が勇者としては優れていたのです。エイブラム様はギルバート様の補佐をするため、戦闘系ではなく補助系の賜法をたくさん編んでいた。このまま四光と呼ばれる地位へと上り、勇者たちを率いていく。私もエイブラム様もそう思っていた。けれど、鎮事府によってギルバート様が殺されてしまった」

「鎮事府が? 魔王がやったのか?」

「いいえ、船に乗り込んできた異形の生物の仕業です。私たちはすでに徒党を組み、レベルの高低に関わらずさまざまな勇者と旅をしていました。ギルバート様はレベルが低い勇者たちを守り、そして死んだ。それからでした。エイブラム様の様子が少しずつおかしくなっていったのは。でも私はついていくしかなかった。彼を、一人にはできなかったから。そして勇者から勇者へと引き継がれるアイギスの存在を知り、そこに住むようになった。あそこならば異形の生物も侵入して来られませんからね」

「執拗に鎮事府にこだわっていたのはそれが原因か」

「それだけではありませんが、かなりの割合を占めているでしょう。しかし、私はやはり疑問を拭いきれません。本当にこれでいいのか、と。彼の暴走をそのままにしてもいいのか、と」

「いろいろ考えはあるんだな。んじゃ、お前の疑問を解消しに行くか」

「やっぱり、行くのですね」

「俺の主人が待ってるんでね。それにお前を倒して自信がついた」

「そうですか。それでは一つ、頼まれてはもらえませんが?」

「お前が俺に? できることならやるけど」

「あの方を、エイブラム様を止めてあげてください。彼は今自分の行動を自制できない状態なんです。行動というか、感情でしょうか。今のアナタならばできるでしょう?」

「そういうことなら任せな。ちゃんとお前の元に戻してやるよ」

「べ、別に私のことはどうでもいいのです」

「ようやくそういう顔見れたな。やっぱ美人だよお前は」


 カレンに背を向けて走り出した。もちろんセレスたちの元へと向かって。


 魔力の反応を追えばいいだけなので難しくない。魔力だけで人を追えるようになるほど成長したんだなと、改めて自分の成長っぷりを実感してしまった。


 目に魔力を集中させて遠くを見る。エイブラムが拳を引く姿が見えた。


 今度は耳に魔力を集中させた。


「アイツはなにかを隠してる。その隠してるなにかでカレンを倒したとしたらこっちに来るだろう。その前にお前を、お前らを殺す」


 魔力の流れが見える。周囲の風がエイブラムへと集まっていく。あの一撃はまずい。食らったらセレスの身体が細切れになってしまう。


「じゃあな、自信過剰なクソ魔王」


 そう言って、エイブラムが拳を動かそうとした。一層足を動かし、俺はセレスへと手を伸ばす。


「じゃあお前はクソ勇者だな」


 セレスの身体を抱きとめ、エイブラムの手から彼女を攫った。上手くいくとは思わなかったので俺が一番ビックリしている。


 セレスを見下ろすと目が合った。懐かしい、彼女の匂いがした。


「そのレベルでよく頑張ったよ。あとは俺に任せな」


 額に宝石が埋め込まれていたり、別れる前とちょっと変わってしまったようだ。が、それでも彼女が魔王セレスティアであることは変わらない。


 周囲を見渡す。セラ、シャロン、アーサー、ヴェロニカが木陰に身を寄せていた。


 抱きかかえたまま従者たちの元へと連れていく。そして、そっと地面へと降ろした。


 そして、彼女たちに背を向けた。


「やっぱり来ちまったか」と、エイブラムが言った。

「当たり前だろ」と、俺が返す。

「俺に勝てるわけもないのに、か」

「勝てるとか勝てないとか、割りとそんなんどうだっていいよ。俺はここに来るって決めてたんだ。あわよくば倒せればそれでいいって」

「あわよくばもありはしない。さあ来い。俺が直接引導を渡してやる」

「引導を渡されるのはアンタだよ」


 俺が一段階ギアを上げると、周囲の空気に淀みが生まれた。


「お前、今までなにしてきたんだ?」

「驚くのも当然だけど、俺がなにしてきたかは後で教えてやるよ」


 足に力を込めると地面が割れた。お前が見初めた従者の力、今その身に刻め。


 表情が固くなっていくエイブラムに向かって、勢いよく突進した。


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