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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
英雄の資格 1
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十八話

 エイブラムがカウントを始めた。


「三、ニ、一、行け!」

 俺とカレン、エイブラム、それに勇者数人で突っ込んでいく。レベル五百を超えるこのメンツであれば難しいことなど何一つないだろう。俺のレベルも五百五十。充分上級の勇者と言ってもいいはずだ。


 勇者と魔王の間を抜けて、鎮事府の入り口へと突っ込んでいった。


 いくら速く突っ込んでも、同じくらいのレベルの魔王が俺たちの行く手を阻む。しかしそれはエイブラムの側近が排除してくれた。それだけ俺の存在が有益であると判断されているんだろう。


 そして、ドアを突き破った。


 純白の壁と床。中央には円形の太い柱が伸びていた。


「ライオネル!」

「〈世界掌握(ワールドリンケージ)〉!」


 エイブラムの言葉の後で賜法を発動させた。これで他の勇者や魔王は数分間身動きが取れない。この世界で身動きが取れるのは、俺と、エイブラムと――。


「遅かったな。ライオネル」


 柱の後ろから一人の男が姿を現した。いや違う。一人の男女だった。


「お前ら……」


 そこにいたのはアーサーとセレスだった。


「時間が止まった世界で動けるのはお前だけじゃない。それは知っていたはずだろう?」

「ああ、こうなることもなんとなくわかってたさ。でもセレスはなんでだ?」

「私はね、まあ、いろいろあったのよ」


 別れた時と変わらない。気丈な笑顔がそこにはあった。


 笑顔は変わらない。けれど、どこかなにかが違うような気がした。


「他の三人は外か」

「〈世界掌握〉に対応できるのが私とアーサーだけだったからね。ちょっと時間稼ぎに」

「賜法の時間を切らせるのが目的か」

「そういうこと。一つ訊いてもいい?」

「おう、なんでもどうぞ」

「もうアナタは勇者なの?」

「正直俺にもわかんねーよ。真実を知ってから決めようと思ってた」

「そう。でもこの先に行かせるわけにはいかないわ。「魔王として」ね」

「こうなる可能性も考えてたんだけどな。悪いけど俺はこの先に行かせてもらう。真実を暴くんだ。この世界を知るために」

「じゃあ話すことはなにもないわ。魔王と勇者の、ただの戦いを始めなければいけないのだから」

「お前は世界の真理を知りたくないのか?」

「知りたくないと言えば嘘になる。でも私たちは勇者と戦わなければいけない」

「魔王デバイスが爆発でもすんのか?」

「魔王デバイスに仕込まれた毒が注入される。ってハリエットが言ってた。その毒は一日かけて体内を周り、一定以上の毒が心臓を満たすと心臓発作で死に至る。魔法や賜法では解除できない。ワクチンもない」

「つまりそれがなくなればいいんだろ?」

「その機能を止めるって? 無理よ、そんなの」

「やってみなきゃわからんだろ? ちなみに、うちのトップはそのために動いてるぜ」

「トップって、エイブラム?」

「そういうこと。もうアイツは地下に行った」

「どうやって? 私たちはずっとここにいたはずなのに……」


 そう言いながら、中央の柱を見やった。


「アイツは今日のこの日のために賜法を作ってきたと言っていた。気配や魔力を遮断する賜法、物体を透過する賜法、そんなんだ」

「じゃあもう下に……!」

「心配いらん。そろそろ魔王を使役するための機能も失われるだろうしな」

「失われるって、そんなことしてなんの意味があるの?」

「エイブラムはバカじゃない。バカっぽいだけだ。真実を知るために動いていただけだ。アイツは勇者だが魔王も勇者も関係ないって考えていた。きっと昔ハリエットと戦ったのだって、そうしなきゃならなかったからだ。腕を見てみろよ」


 セレスが自分の魔王デバイスを見た。赤く光っていたデバイスは、緑色へと変化していた。


「俺は下にいって真実を見る。お前たちはどうする?」


 セレスは俯き、ため息を一つ。


「行くわ。それが私の役目でもあるから」

「よくわからんが、戦闘は一時中断だ」

「連れてきましたよ、止まったままのハリエットさん」


 そこでカレンがやってきた。小脇には灰色のハリエットを抱えていた。


「よし、これで役者は揃ったな」


 一度〈世界掌握〉を解いた。ハリエットは僅かに驚き、腑に落ちたと笑顔を浮かべた。


「アンタがハリエットだな。俺はライオネル、こっちはカレンだ。エイブラムが下で待ってる。一緒に来てくれるな?」

「ふむ、魔王デバイスの緊急服従システムを止めたか。それならば、行かない理由がないな。ヘレン、そこにいるな」


 ハリエットがそ言うと幼女が現れた。


「はい、ハリエット様」

「魔王には「一時停戦だ」と伝えろ」

「わかりました」


 そしてすぐに消えてしまった。煙のように消える、というのは初めて見た気がする。


「こちらも勇者たちに停戦命令を出しました。しばらくの間は大丈夫でしょう」


 カレンのことだ。ここに来るよりも前に、エイブラムの側近にでも伝えてあったんだろう。


「行くぞ」


 真ん中にある柱の裏側から、俺たちは地下へと降りていった。


 エレベーターに乗り込むと、数分と掛からずに二十五階に到着した。エレベーターはここまでしか通っていないからだ。


 エレベーターを降りるとエイブラムが待っていた。


「よし、予定通りだな」

「こんなに上手く運ぶわけないと思ってたけど、アンタら二人ともツルんでたのか?」

「そういうわけじゃないが、それに近いものがある。真実の探求という意味では利害が一致していたからな」

「ただし、その真実を知ってどういう行動に出るかは個々の意思による。それが、私とエイブラムの間で交わされた約束事だ」

「なるほど、な。面倒な関係だこと」

「とにかく今は先を急ぐぞ。俺たちはおしゃべりをするためにここに来たわけじゃないんだからな」


 エイブラムが顎で合図した。そして、俺たちは歩き出した。


 今までと建物の構造は違っていた。左の方に廊下があって、その廊下を歩いて行く。


 真っ白な壁と床。廊下もまた純白だった。怖いくらいに白く、人の気配が一切ない。


 生活感のなさが妙な不安を掻き立てた。


 廊下の突き当たりに階段があり、それを下って階下に降りる。二十六階、二十七階と進んでも人の気配はなかった。建物内に汚れた様子もない。人がいないのに小奇麗で、なんというか不思議な気分にさせられる。


「鎮事府は無人だ。それはずっと前からわかっていた」


 俺の思考を読んだかのごとく、エイブラムが話を始めた。


「だからこそ気になる。無人であるにも関わらず、新しい勇者や魔王にデバイスが供給される。魔王が鎮事府に反抗できないように毒を仕込む機構が作動する。それが全自動で行われているとしたら、俺たちは一体なにに使役されてるんだろうな」


 コイツが真実を知りたい理由を俺は知らない。けれど、なにかあるんだろうな、くらいはわかった。コイツの過去には興味がない。興味はないが、気がかりではあった。

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