十七話
このどこかにアイツらもいるのだろうか。いるとしたらどこだ。アイギスとの戦闘でどっかいっちまったりしてねーだろうな。
「キョロキョロしすぎですよロウ。少しは落ち着いてください」
「お、おう。すまない」
「お仲間の居所が気になるのは仕方ないですけどね」
「今は勇者だ。そういう言い方すんなよ」
「それもそうですね」
フフッと、カレンが笑った。
しかし、なんだこの違和感は。カレンから感じる違和感か。でもどこからだ。俺はカレンのなにを違和感だと思ったんだ。
「久しぶりだな、ハリエット」
エイブラムが腕を組んだままそう言った。ヤツの前には白衣を着た少女がいる。でもその威圧感、眼光の鋭さ、魔導力の高さから少女とは形容し難い。見た目以上に年を食ってる、という感じがした。
「本当に久しぶりだな。二十年くらいぶりか。お前に受けた傷が疼いて仕方ない」
「俺もだ。腹に大きな穴開けてくれやがって、治すのに何年かかったと思ってやがる」
上着をまくり上げたエイブラム。後ろにいる俺たちにも傷がよく見える。なにせ、背中いっぱいに傷が広がっているんだから。
「バカを言うなよ。私なんかお前に片方の乳もってかれてんだぞ。お陰で女としての魅力だだ下がりだ」
今度はハリエットと呼ばれた少女が上着をまくった。そこそこな大きさを持つ右の胸とは反対に、左の胸には本来あるはずの乳房がなかった。代わりに、機械のようなものが取り付けられていた。
「だからあの時言っただろうが。俺がもらってやろうか、ってな」
「誰がお前みたいなヤツの嫁になんかなるかよ。苦労するだけってのが目に見えてる」
「俺は自分の女は大事にする男だぞ? どうだ、今からでも遅くはねーと思うがな」
「身体は小さいがもうババアだ。それでも口説くつもりか? 酔狂甚だしいな」
「俺はお前一筋なんでな」
「狂人かお前は」
「お前も似たようなもんだろうがよ」
「かも、しれんな」
突如、二人の空気感が一変した。会話するムードが、一瞬にして切り替わったのだ。
「結局こうなっちまうんだよな、俺たちはさ」
「魔王と勇者の宿命だ。まあ、私も真実には興味がある。しかしながら魔王は鎮事府を守る役目がある。そうでなければ魔王は生きていかれない。鎮事府の命に逆らった魔王は、魔王としては生きて行かれないからな」
「魔王の制約。それを知っている者も少なくなったな」
「ここにいる魔王には全員説明してある。だからわかった上でお前と敵対している。それでも来るか?」
「俺は勇者だ。四光に一番近く、勇者を統べる者だ。魔王は全て倒すし、鎮事府だって滅ぼしてやる」
「そこに未来がなくても、か」
「未来は俺の手で作るんだ。お前ら! 準備はいいか!」
周囲から雄叫びが上がった。そしてその雄叫びが開戦の合図でもあった。
勇者と魔王の群れがぶつかりあう。エイブラムが後ろに下がるのと同時に、エイブラムと話していた女も消えた。
「呆けている暇はありませんよ。こちらへ」
カレンに腕を捕まれて勇者の群れから脱した。さっきやってきたはずの森にもう一度姿を隠す。
「おいおい、俺たちも戦わなきゃダメなんじゃねーのか?」
「大丈夫です。今は魔王たちとの戦闘ではなく、アナタの役目のことを考えてください」
「時間止めて一気に攻め入るやつか。いつやるんだ?」
「戦える魔王が減ったら、です。こちらの戦力も消耗しているでしょうけれど、そうなれば視界が拓けます。勇者たちの人数を揃えたのは戦力として、というよりは魔王や従者の露払いですから」
「物量を物量で潰すため、か」
「そういうことです。魔王の数と勇者の数が拮抗していなければ、戦闘だけで手一杯になってしまう。私も、アナタも、エイブラム様も。それを避けるための人海戦術という考えがより的確でしょう」
「よく考えるよな、そんなこと。普通は攻め込むため、単純に数が必要だったって思うだろうさ」
「それもこちらの狙いです。が、ハリエット様にはバレていそうな気はしますが……」
「ハリエットってさっきの少女か」
「そうです、背が小さい白衣の」
「小さかったけど可愛かったな」
「でも少女ではありませんよ。年齢的にはエイブラム様の数倍だと聞いてます」
「あの見た目で?!」
「はい。ずっと魔王で、ずっと少女です。勇者の中には「魔女」と呼ぶ者もいるそうですよ」
「魔女、か。確かに魔王って感じじゃねーよな」
「おそらくですが、エイブラム様はハリエット様がこちらの思惑を知っている、と思っています。私もそう思っています。あの二人は生きてきた時間の長さも、ここに至るまでの過程も、立ち位置でさえまったく違う。けれどどこかで通じ合うなにかがあったのでしょう。エイブラム様はハリエット様の思考を、ハリエット様はエイブラム様の思考を理解している。その上で今の状況があるのです」
「めんどくせーことだな。わかってんならお互いに話し合えばいいのに」
「先程の話、ちゃんと聞いていましたか……?」
「そういや魔王は鎮事府の言うこと利かなきゃいけないんだっけか」
「はい。だから勇者と魔王は結託できないのです。逆を言えば、結託をするために今戦っている」
「全ての元凶が鎮事府であるのなら、鎮事府を叩くことでどうにかできる。でもそのためには魔王を倒さなきゃいけない。ホント、めんどくせーな」
「全部終わった後で、こんな面倒なことがあったな。でも面倒なことがなかったら今がないんだなって、そう思えるといいですね」
「思えるわけねーだろ。そもそもその面倒なことがなきゃいい話なんだから」
「よくわかっていますね。撫でてあげます」
「あわよくば抱きしめてくれるとなお良し」
「調子に乗らないでくださいね?」
「目が笑ってねーよ」
「ふふっ、こういうのも嫌いじゃないでしょう?」
「人をマゾみたいに言うなよ。と、そんなこと言ってる間に結構人数が減ってきたぞ」
目に見えて人数が減っている。勇者も魔王も、半数近くがいなくなっていた。あまりにも短時間過ぎるような気もするが、ここで進まなきゃいつまで経っても進めなさそうだ。
「ようお前ら、準備はできてるか?」
エイブラムが数人の勇者をつれてきた。俺やカレンと同じ側近だ。
「準備もクソもねーだろ。視界が拓けたらダッシュする。ただそれだけだ」
「ああそうだ。ただし時間を止めるのは鎮事府のドアをぶち破ったらだぞ。わかってるな?」
「わかってるよ。んで一気に鎮事府を潰す、と」
「鎮事府の内部構造は地下三十階までしか確認できていない。時間を止めている間に制圧する。お前ら、行くぞ」
全員が小さく頷いた。




