十六話
二人で部屋を出て甲板へ。他の勇者たちも動こうとはしてるんだろうけど、この急加速には上手く対応できていないらしい。
レベルが四百だが五百だか知らないが、これくらい対応できるようにしておいてくれよ。
「言っておきますが。今この場で対応できる者はかなり少ないと思いますよ。なにせ、速度を上げるために勇者たちから魔力を搾取しているので」
「それで若干気怠いのか。もう手当たり次第って感じだ」
「嫌いじゃないでしょう?」
「まあ、そこそこ」
そんな会話をしているうちに甲板に到着した。〈滅却結界〉はところどころ剥がれていた。こんなんだから壊されるんだよ。って今度エイブラムに会ったら言ってやる。
甲板には他の勇者たちもいた。たぶん、エイブラム選りすぐりの勇者なんだろう。その辺の勇者じゃあここまでたどり着けない。
異形の生物たちも乗り込んできている。一時間も経たないうちにこのアイギスも沈む。
甲板の端にたどり着く。高く、高くそびえ立つ塔が見えてきた。
白い白い高い塔。あれが鎮事府か。実物を見るのは初めてだが、きっとここにいる誰もがそうだ。
「あと三十分もありません。なんとか耐えてください」
異形の生物たちが甲板に上がってきた。五体とか十体じゃない。見る限りでも三十はいる。
「頭が痛くなる。俺たちは精鋭なのに」
「はい、自分でそういうことは言わない方がいいですよ。さあ仕事です」
「あいよ、任せとけ」
先程の戦いで敵の強さはよくわかった。これくらいならば何体だっていける。
推測レベルは四百弱。ただし動きは魔獣に近いので思考の有無はほとんど考えなくていい。ものすごく反応が速くて、ものすごく攻撃的で、それでいてコンビネーションが抜群にいい。けれどそのコンビネーションも攻撃のみに特化している。異形の生物同士が守り合う、なんてことはないわけだ。
それならば一体一体確実に倒していけば問題ない。
個々の能力はそれほどでもないが、ワラワラと湧いてくるものだから疲労も溜まる。俺はそれほどでもないが、他の勇者が結構ヤバそうだ。五百以下の勇者はそれが顕著で、数人でディフェンスとオフェンスを切り替えながらでないと戦えない。たぶん全員で同じ行動を取っていたら体力は空っぽ。あの戦法で耐えてもらうしかない。
甲板から見える鎮事府がどんどんと近づいてきた。
「いやちょっと待て! 近すぎだろ! このままだとぶつかっちまうぞ!」
「ライこっちへ」
差し出された手を握った。
「一、ニの三で飛び降りますよ」
「飛び降りるって、この高さを……?」
「はい、行きますよ。一、ニの、三っ」
「急すぎる! 急過ぎるからああああああああああ!」
軽く数百メートルはある。脚部を強化してもノーダメージってわけにはいかないだろう。
アイギスの高度が更に落ち、底が地面にぶつかった。その衝撃と同時に甲板から飛び降りた。
「こっからどうすんだよ!」
「私の賜法で着地の衝撃を吸収するので大丈夫ですよ。アナタは私の手を離さないようにだけしてください」
「ほんっっっっっとうに大丈夫なんだな!」
「大丈夫です」
よし、いつもの笑顔だ。これなら疑う必要もない。
風切音と、アイギスが壊れる音がかなりうるさい。いろんな音が入ってきてどういう状況かわからなくなる。
周囲を見れば、他の勇者たちもなんとか脱出したみたいだ。その中にはエイブラムもいる。
「なに親指立てていい笑顔してんだよ。対抗心かよ」
アイツの笑顔を見てもなんの得もない。
「〈聖光錬布〉」
カレンがそう言って、地面に向かって手を伸ばした。
彼女の手からたくさんの光の粒が飛び出して地面へと向かっていく。そして、光の粒は一枚の布に変わっていった。
俺とカレンはその布に包まれ、ゆっくりと地面に落ちていく。これがカレンの賜法か。たぶん、本来はこういう使い方をしないのだろう。
実のところ、カレンの賜法を見るのはこれが初めてだ。今まで一度も見せてくれなかった。カレンがいくつ賜法を持っているのかも知らない。どれだけ問い詰めても教えてくれないのだ。
どうしてなのか、なんて考えるまでもない。彼女はおそらく、まだ俺のことを完全に信じていないからだ。俺も同じだから文句は言えない。俺と彼女はパートナーでありながらお互いのことを信じていない。きっとそれがいいのだ。この関係を崩さないことは非常に大事なことだから。
地面に降り立つと、ここぞとばかりに異形の生物が襲いかかってきた。木々が生い茂る森の中、鎮事府は目と鼻の先だ。
「相手はしないでください。鎮事府に向かって一気に走り抜けます」
「おうけい、先導は任せた」
戦闘は極力避けて森の中を駆けていく。
進行を妨げるヤツだけを撃退。横にいるヤツは全て無視して足を動かし続けた。
それにしても数が多い。前も後ろも右も左も敵が襲ってきやがる。
「おい、ちょっとおかしくねーか?」
「なにがですか?」
「魔王たちの姿が見えないぞ。今まで散々攻撃してきたのに」
「私も思いましたが今はそれどころではありません。一刻も早く鎮事府に行かなければ」
「ホントに忠実な部下なんだな、お前は」
「エイブラム様の補佐は私の役割ですから」
「はいはい、わかりましたよ」
その役目に付き合わされる俺の身にもなって欲しいんだがな。
鎮事府が近付くにつれて敵の数も多くなっていく。わらわらとまどろっこしい。
「一気に道を拓きます。道ができたら更に加速してくださいね」
先程の賜法〈聖光錬布〉を前方に向かって発動させた。光の粒が道となり、その道に足を踏み入れた敵は例外なく溶けていく。最初からこれやってくれればいいのでは、と思ったがそうもいかない理由でもあるのだろうか。
光の道をひた走り、数分後には森の外だった。
森を抜けた先は拓けた場所だった。茶色い地面のその奥に大きな建物が鎮座している。あれが鎮事府か。
だが、やすやすと鎮事府にはたどり着けない。建物の前には数え切れないほどの魔王や従者がいるからだ。ざっと見ても千人以上はいるだろう。そしてその魔王たちの前に立つのはエイブラムとその他勇者だった。




