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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
英雄の資格 1
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十五話

 異形の生物の動きは非常に速く、目で追うだけで精一杯だった。


 今までの俺ならば、だけど。


 一瞬にして挟み撃ちにされた。右から剣が振り下ろされた。まずコイツの腕を横からの衝撃で砕く。左のヤツも同じように剣を振る。これも砕く。やられっぱなしは癪なので、今度はこっちから仕掛けることにした。


 片方の脚を掴んで高速で引き抜いた。本来ならば物凄い固いんだろうと思うけど、俺が全力でやれば、ヤツの身体を動かすことなく腕や脚を引き抜ける。


 時間は止めない。〈世界掌握〉での負担はこの一ヶ月でかなり減った。けれど、身体に負担がかかるのは間違いない。


「今はまだ使えねーよな」


 使えないが、使えなくても問題ない。


 自分だけを加速させ、敵の身体を局所的に遅くする。たった一部であっても、身体の一部が遅くなれば誰だって戸惑うに決まっている。それはコイツらも一緒みたいだ。


 戸惑っているところ、一気に頭を蹴飛ばした。


「戦い方がだいぶ様になってますね」

「くっそ、まだお前には追いつけそうもねーな」


 俺が倒し終わる前に倒した。だからこうやって涼しい顔してこっちを見てる。でもカレンには悪気はないんだ。誰かの上に立って見下しているわけじゃない。単純にこちらの成長を楽しんでいる、という感じだった。


「よーしお前ら一旦引き上げろ! 準備が整ったぞ!」


 エイブラムがそう叫んだ。


「準備ってなんの? カレンはなんか聞いてる?」

「ええ、アイギスに備えられたとある兵器の準備ですね。ライは寝ていたので知らないだけです」

「あー、それは申し訳ない。で、その兵器が作動するとどうなんの?」

「元々は〈滅却結界ディストラクションフィールド〉という名の賜法なのです。先代の四光が持っていたもの、と聞いていますよ。その結界内に入ろうとした者は自動的に消滅させられるのだとか。特定の大きさを持った物体がダメみたいですね」

「それさえ張れれば数時間大丈夫ってことか」

「範囲の拡大と能力の強化のため、あの賜法はチャージが必要なのです」

「チャージまでの時間は?」

「二時間ですね」

「なげーよ!」


 光の壁がアイギスを包み込んだ。球体だろうか、外界の景色もちゃんと見えるし敵も入ってこない。快適この上ない仕様だ。


 これが人の死の上に成り立ってるとさえ考えなければ、だが。


 しかしこの結界、無理矢理大きくしたせいなのか割りとテキトーな作りだった。基本的には敵は入ってこない。だが、ちょいちょい攻撃が飛んでくる。これが俺の部屋の近くだからまた困ったもんだ。アイギス自体は頑丈だから問題はない。問題は音や光だ。光が強いせいで眠れない。カーテンを閉めても光が漏れるから困ったものだ。


 逆に、眠れなくてよかったかもしれない。


「どうかしましたか?」


 テーブルを挟んだ反対側には、カレンがお茶を片手に微笑んでいた。


「いや、眩しいなと思って」

「仕方ないと思いますよ。魔王の方々も命がけだと思いますし」


 ふと、その言葉に違和感を覚えた。


「命がけって、なんか知ってる口ぶりだな」

「えっと、もしかしてライは知らないのですか?」

「知らないって、なにをだ」

「魔王とは、徹頭徹尾鎮事府の犬なのですよ。魔王デバイスは今、鎮事府の配下にあると言ってもいいのです」

「なんだよそれ、操られてるってのか」

「その可能性は充分にあります。操られているか脅されているかのどちらかでしょう」

「それを信じろって? 信じる材料がない」

「しかし現状を見てもそれが言えますか? なんのために魔王はこちらに攻撃を? なぜこんなにも躍起になっているのですか? 逆に、アナタにはこの状況が説明できるのですか?」

「いっぺんにいろいろ聞きすぎだろ……くそっ」


 頭の中を整理する。


 カレンが言うことはもっともだ。魔王たちがこちらに攻撃してくる理由はない。今までの関係性を考えると確かにおかしい。


 本来は討伐するという名目で勇者たちが魔王に挑む。それなのに今はどうだ、立場が逆転してしまっている。


 もしも操られているとしたら、もし脅されているとしたら。セレスたちが心配でならない。


「アナタはやはり、魔王の側に立つのですか?」

「わからない。まだわからないんだ。でもハッキリ言う。俺はセレスたちのことはいつでも考えてたし、それに真実だって知りたいんだ。そのためなら、俺はお前の下にだって、エイブラムの下にだってついてやるよ」

「がむしゃらですね。若い証拠です」

「若くて結構だ。到着までどれくらいかかる? それと、魔王たちが今どうなってるかを知るすべはあるか?」

「到着まではあと四時間程度あります。魔王の件は、今はどうすることもできません。一応エイブラム様には確認してみます。ですが、詳細は降りてみなければわからないと思います」

「そういうこと、エイブラムは知らないのか? 鎮事府の件だって知ってただろ」

「エイブラム様の知識は、結局は今までの四光たちの積み重ねを反芻しているだけに過ぎません。先代たちが知らないことはエイブラム様も知らない。そう思ってくれても構いません」


 俺が顔を伏せた瞬間、アイギスが大きく揺れた。イスに縛り付けられるような感覚があった。アイギスが急速に速度を上げたのだ。


「ちょちょちょ! おいカレンどうなってんだよ!」

「急加速ですか。おそらく、アイギスのどこかが故障したのでしょう」

「故障してこうなるかよ普通!」

「機能を失ったとかいうわけじゃないと思います。どこかに異常をきたし、このままの速度では何時間も航行していられないと踏んだ。だから加速したのです」

「もっと速く移動できるんじゃねーか! どうしてやらなかった!」

「大きなものが速く動くには燃料が必要です。でもそれだけじゃないのですよ。応力、というものがあります。衝撃に耐えたりとか、そういう強度できな力ですね。大きな物になればなるほど応力は必要になる。けれど、このアイギスは速く動くための応力を得られなかった。そこまでの時間がなかったのです」

「賜法は?」

「アイギスに搭載されている賜法だけではどうにも」

「それでよく一ヶ月後とか言えたな、あのおっさん」

「いえ、物事のタイミングを考えれば最適かと」

「最適ってなにがだよ」

「エイブラム様には口止めされていましたが、本来、セントラルレリックは特殊なバリアが張られています。一定周期でそのバリアが弱くなる時がきます」

「それが今ってことか」

「ええ、新しいバリアが完成するまでには最低でも三日はかかります。ここでアイギスが墜落すると、時間に間に合わない可能性がでてくる」

「でもアイギスを急加速させるとアイギス自体が保たない」

「ようやく時がきたのです。あの人が、どちらを取るかわかるでしょう?」

「ああそうだな。で、この速度での到達予想時間は?」

「一時間もすれば」

「んじゃ、そろそろ甲板に出るか」

「この速度で甲板で出られますか?」

「大丈夫だよ。弟子を信じろ」

「私の話は信じてくれないのに? 勝手な人ですね」

「うるせー、お互い様だろうがよ」


 カレンの顔を見て、どちらともなく笑った。

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