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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
英雄の資格 1
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十四話

 大きな音で目を覚ました。


 目を開けて起き上がると、そこにカレンはいなかった。窓からたくさんの、色とりどりの光が見えた。


「派手にやってんなー」


 というのが最初の感想だった。


 外を見ているとカレンが入ってきた。いつもと変わらないのがなんというか不思議な感じだ。


「いいのかよ。俺もお前も行かなくて」

「ええ、迎撃は他の人達がやってくれているので問題はありません。私たちは鎮事府についたあとでのお仕事になるので」

「なんとかなるのか? 俺たちよりもレベル低いんだろ?」

「鎮事府からの兵はゼロ。外は魔王や従者たちでいっぱいです。鎮事府ならなにをされるかわかりませんが、相手が魔王ならば普通の戦闘にしかならない。それならばレベル三百や四百もあればこと足りるでしょう」

「のんびりし過ぎじゃねーかなとも思うけど、それがエイブラムの方針なんだろうなとも思ってるよ」

「正解です。だからアナタはここで寝ていていいんですよ」

「戦闘が始まったら起こすみたいなこと言ってなかったっけ?」

「なにかあったら、ですよ。これはなにかあったの範疇には入りませんから」

「基準がお前の脳内にしかねーからわかんねーよ……」


 とかなんとか言いながらももう一度ベッドに寝る。二度寝最高。


「アナタは、どうしてそんなふうに振る舞えるのですか?」


 寝返りを打って壁の方を向いた。


「さあな、どうしてだろうな」

「言う気はないのですね」

「言う気もなにも、俺にもわかんねーよ」


 嘘だ。俺は今、誰よりも自分のことを知っている。わかっている。だって、わからなきゃこんなことはできないんだから。


 辛くて、苦しくて、何度も頭を抱えて、それでもこれが俺のやり方なんだって納得させたんだ。


 そう、自分自身を、自分で納得させたんだ。


「アナタはいろんなことを隠している。心の中もそう、言葉もそう、表情さえも。どこで身につけた技術なのかはわからないけれど、アナタはここ一ヶ月で心身ともにかなり成長したように見えます。しかし、あまりにも速すぎるのです。全てにおいて早すぎるのです」

「んなことねーよ。勤勉なだけだし、俺が凄いだけだ」

「言いますね。そこまで自信過剰だとは思いませんでしたよ」

「お前が言ったんだ。成長したってな」

「成長が早すぎる、とも言いました。でも、なにをしたのかと訊いても答えてはくれないのでしょうね」

「言うことが一つもねーからな。じゃあ俺は眠るから、着いたら起こしてくれよ」

「そういうわけにもいかねーんだなこれが」


 太くて低い声が会話に割り込んできた。


 布団を剥いで急いで起き上がった。


「なんでお前がここにいんだよ。指揮官として表に出てろよ、エイブラム」

「お前、自分が何時間寝てたか自分でわかってんのか?」


 そう言われて時計を見た。


「十二時間」

「お前は生まれたてのガキか? 寝すぎだバカ者」

「でもまだ着かないんだろ? だったら寝かせてくれたっていいじゃんか」

「魔王と従者だけだったらな」

「鎮事府からの刺客か? それでうろたえるよな人間だとは思えないんだが」

「戦力的にはまあ、問題はない。ただしこれ以上向こうの戦力が増えると厄介だ。増えてもいいように、お前もカレンも甲板に立て」

「横暴だなぁ」

「うるせー! さっさと行けよ!」

「わかったよ。大声出すなって」


 脱ぎ捨てた服をもう一度着直した。


 でもこの服は嫌いじゃない。ピチッとしてるのはまだ慣れないけど、汗をかいても蒸れないし、なによりも動きやすい。


 エイブラム、カレンと一緒に甲板に出た。


「おーおー、こりゃひでぇ……」


 綺麗だったアイギスもあちこち焦げてしまっていた。それだけじゃない、手すりとかが曲がったり取れたりしている。


「思った以上にヤバイんじゃないか、これ」

「だから出ろって言ったんだ。魔王よりも鎮事府の連中が相当キテる」

「キテるって、強いってことか」

「自分でやってみろよ。あれだよ」


 甲板の奥の方をエイブラムが親指で指差した。


「なんだよ、アレ……」


 剣のように伸びた腕が四つ、昆虫のような脚が六つ。甲殻類みたいな肌の艶。身体は人と同じくらいだが、頭は人の三倍くらいで目は八つ。数は四体だが、一体一体がかなりヤバそうだ。勇者たちが苦戦している様子が見える。


「アレが鎮事府からの刺客? あんな魔獣は今までみたことないぞ」

「魔獣とは少し違うような気がする。悪意とか殺意とか、そういうのが全く感じられん。出会ったことがない、戦ったこともない。けれどレベル四百程度じゃ相手にならないようなヤツだ。心してかかれよ」

「さっきと言ってること違うじゃねーかよ!」

「本当のこと言ったら来なかっただろうがよ。嘘も時には必要なんだよ」

「すごく胡散臭い」

「でもやらないとやられますよ。行きます」


 カレンが駆け出した。俺はと言えば、エイブラムに背中を押されて仕方なく歩き出した。


「私が右の二体を」

「んじゃ俺が左ね。わかったよ」


 カレンらしいやり取りだな、と思いながらも左の方へと方向転換した。


 こうして対峙してみてわかった。エイブラムが言う通り、こいつらからは殺意が感じられない。それでも、端っこの方で悶え苦しむ勇者たちを見れば、こっちを攻撃してくるのは明らかだ。


 魔王たちは、この異形の生物のことを知っているのだろうか。そして鎮事府はどうやって魔王たちを動かしているのか。その二つが気になった。


 考えたって始まらない。それくらいわかっているから、俺はこの異形の生物と戦うことにした。


 あと数時間で俺は鎮事府に降り立つ。きっとそこにはセレスもいる。セレスたちのレベルじゃ、ここにいる勇者たちを相手になんてできない。そんなことは彼女たちもわかっている。わかっているから行動を起こしているはずなんだ。


 今はそれを信じる。信じて戦うんだ。

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