十三話
木々をなぎ倒すことも、地面を抉ることもなかった。巨大戦艦アイギスは空飛ぶ要塞。地上を離れて空を飛ぶ。
「すげーな、こりゃ」
「そうだろうそうだろう。これが勇者、いや四光の最終兵器だからな。まあ亡くなってしまった勇者たちの力がなければこうすることもできなかった。何年も何年もかけて作り上げた。俺は勝ちしか見ていない」
エイブラムは腕を組んで、誇らしげにそう言った。
「鎮事府までどれくらいだ?」
「丸一日だ」
「結構かかるな」
「バカ言うな。こんな大きな物が動いてるんだぞ、これ以上の速度が出せるわけないだろ。これでも普通の飛行船なんかよりもずっと速いんだぞ」
「はーん、俺は飛行船とか乗ったことないからわかんないけど。じゃあ俺寝るから。ついたら起こして」
「お前はどこまでバカなんだ? 寝てるだぁ? これから戦争が始まるってのになに悠長なこと言ってやがる」
「いやだって鎮事府まで一日あるんだろ? だったら暇じゃん」
「鎮事府からの刺客とか魔王とかが来たらどうすんだよ。迎撃せにゃいかんだろうが」
「それは他の勇者にやらせとけばいいだろ。ここ最近ずっと訓練訓練でめちゃくちゃ疲れてんだよ。正直一日二日じゃ疲れなんて取れねーよ」
「はぁ……お前ってやつは……」
「大丈夫ですよ、エイブラム様。なにかあったら私がちゃんと起こしますから」
「あー、うん。わかった。カレンがそう言うなら許してやろう」
「いやっほーう! さすがカレン! んじゃおやすみー!」
さすがパートナー。頼れるな。
早足で自室へと行き、服を脱いでベッドに飛び込んだ。正直眠くて仕方がなかった。ちょっと前までは緊張感で眠気はなかったが、アイギスが浮上したことでなぜか安心してしまったのだ。
ふかふかのベッドは幸せの感触だ。
と、思っていたら誰か部屋に入ってきた。視線を出入り口に向けると、カレンがこちらに歩いてくるところだった。
「勝手に入ってくるなよ。で、どうしたんだ」
「眠るんでしょう? それなら一緒にいなくては起こせないではないですか」
「起きるまでずっとこの部屋にいる気かよ」
「それはもう。可愛い寝顔を見ながら本でも読んでますよ」
「本だけ見てろや」
「ほらほら、眠っていいんですよ。お腹トントンってやりましょうか? それとも頭でも撫でますか?」
「すっげー魅力的だけどやめとくわ。なんかそういう気分じゃないしな」
ゴロンとベッドの上で寝返りを打った。
本当は添い寝とかもしてもらいたい。そんな気持ちが溢れてしまっているのか、思わず布団を噛んでいた。
「そうですか。それではおやすみなさい」
「おう。おやすみ」
小さい声で「悔しい……!」と言ってしまった。聞こえていなければいいのだが。
カレンの太もも、カレンの太もも。膝枕してもらって頭なでてもらいながら眠りたい。しかしその衝動を抑えて俺は普通に眠る。こんな誘惑に負けるわけにはいかないのだ。
目を閉じ、暗闇に落ちていく。
本当はこれ以上彼女に情を移したくなかった。俺がどういう選択肢を取るのかは俺にさえわからない。
それならば彼女とこれ以上意思疎通をするべきではないのだ。
最悪は彼女を殺さなきゃいけない時が来るかもしれないのだから。
眠れ、眠れ。力を蓄えるのだと、俺は自分に言い聞かせながら眠りに落ちていく。起きたら鎮事府に着いていればいいなと心から思っていた。余計な力を使いたくない。余計な被害を広げたくない。きっと、後者の方が俺の気持ちとしては正しいんだ。




