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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
英雄の資格 1
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十二話

 こうして、修行に次ぐ修行の末に一ヶ月経った。見た目とは正反対に教師がスパルタなのでかなり苦労した。


 最初は「美人で優しくて穏やかなスタイルが良い美人に次ぐ美人」という評価だったのだが、これまた一緒に過ごしていくうちに「美人」という言葉よりも「厳しい」という評価の方が上になっていく。基本的には優しいので「優しい」という評価は変わらないのだが。


「行きますよ、ロウ」

「おう、準備はできてるよ」


 アイギスのメンバーは皆同じ服装だ。それは俺もカレンも変わらない。


 女性が着ると身体の凹凸が強調されるので目に毒、もとい目の保養になる。きっとエイブラムはムッツリなんだろうな、なんて思いながらカレンを見ていた。


「こら、そういう視線で女の人を見てはダメですよ? 特に慣れていない人もいるんですからね?」

「じゃあ慣れてるカレンみたいな人ならいいと」

「そうですね、慣れていない人を凝視するよりはいいかもしれません。でも、その、私も少しだけ恥ずかしいので、極力普通にしてもらえるとありがたいですかね」


 頬を染めて若干俯くカレン。こういう可愛い部分があるから憎めない。


 部屋を出てカレンの隣を歩く。


「緊張してますか?」

「そこそこ」

「それだけ高レベルになってもダメですか」

「レベル関係ないんだよな、これが。おかしいだろ。帰ってきたらいきなり「お前を側近に加える」って。俺は元従者だぞ。いつ寝首かかれてもおかしくないって、そうは思わないのかね」


 そう、山から帰ってからエイブラムに呼び出され、俺はヤツの側近にまでなった。あまりにも急すぎて実感がない。


 なぜ俺を側に置きたがるのかと疑問に思ったのは一瞬で、そもそもアイツは俺の賜法が欲しくて勧誘したんだな。ほぼ一ヶ月間山にいたせいで忘れかけてた。


「しかし、俺は一回もお前に勝ってないんだよなぁ……」

「レベル差もありますからね。なによりもアナタを育てたのは私ですよ? そう簡単には負けませんよ」

「師は弟子に負けるものだぞ」

「そうですね、楽しみにしてますよ」


 口元に人差し指を当てて「ふふっ」と微笑んでいた。


「いつか見てろよ。割りと早く来るかもしんねーからな」

「簡単にはやらせませんけどね」

「簡単じゃねーのはわかってる。でも、そうだな。もしも俺が勝ったら俺のいうこと一つだけきいてくれよ」

「またいきなりですね。まあいいでしょう。その代わりに、私が勝ったら私の言うこともきいてもらいますよ?」

「おい、なんでそうなるんだよ」

「等価交換です」

「これはちゃんとタイミングを見ないと奴隷にされてしまう」

「あ、それいいですね。一生私の面倒を見てもらいましょう」

「嬉しいんだが悲しいんだか……」


 山ごもり中は俺が料理を作っていたのだが、帰って来てカレンに料理を作ってもらった。が、その料理がまた酷いのなんの。火が通っていないとかそういうレベルを明らかに超えていた。


 野菜は切らずにまるごとぶち込む。かと思えばすりおろした果物を肉の上にかけて煮込んでみたり。いや、確かにそういう料理もあるのだが、果物の種類も関係ない、手順もめちゃくちゃ、しまいには火力が高すぎて肉が丸焦げ。煮込んでいたはずなのに丸焦げというどういうことなのか。


 料理もそうだが洗濯や掃除もほとんどできないようだった。


 料理を振る舞ってもらう時にカレンの部屋に行ったが、その時は綺麗だと思った。しかしその実、無理矢理クローゼットに荷物を押し込んであるだけだったのだ。結局俺が全部片付けたし、料理も俺が作り直した。カレンには優秀な旦那が必要になるのだろう。


 完全に戦闘にのみ特化しているのだとため息を吐いた。が、こういう部分を可愛らしいと少しでも思ってしまった自分が恥ずかしい。


「お前ならもっといい旦那が見つかるだろうに」

「うーん、でも自分よりも弱い人はちょっとって感じですね」

「辛辣。生活能力皆無なのに辛辣。とんでもなく高望みでしょそれ。お前より強くて生活能力に優れる男ってそうそういないだろうが」

「でもライが私を倒してくれれば、私より強くて生活能力がある旦那様が出来上がるではありませんか」

「俺は生活能力がある女の方がいいから。いくら美人でもある程度自分で自分のことやってくれる女じゃないと無理だから」

「あら、美人だって認めてくれてるだけでも側に置いておく価値はあるんじゃないですか? 年齢による劣化は、それまでに培ってきた愛情でカバーしましょう」

「すげー自信だな、おい。お前らしいけど」

「だから、頑張って私を倒してみせてくださいね」


 ここにきて若干の矛盾に気がついた。カレンが俺を倒すことでカレンの奴隷になるって話なんだか、俺がカレンを倒してしまったら意味がないのでは、と。


 たぶん彼女も気が付いている。気が付いていてなお話を発展させたという部分には触れない方がいいのだろう。


 アイギスの本部を出ると、向こう側が見えなくなるほどの勇者がひしめき合っていた。


 勇者の群れの先頭にはエイブラムがいた。俺とカレンを見てほくそ笑み、こっちへ来いと手で合図をした。


 カレンの先導で、俺はエイブラムの横に立つことになった。


「聞け! これよりセントラルレリック、鎮事府を制圧する! 基本的には全員一丸となって行動するが、魔王や鎮事府の動き方によってはこちらも動きを変える! 行動の変更に関しては事前に伝えたとおりだ! グループを九つに分け、グループごとに行動してもらう! 指示はグループリーダーに任せてある! 各自、自分の職務を全うせよ!」


 エイブラムが拳を天高く突き上げると、勇者たちは「おー!」と大きな声を上げた。こんな大勢で大声を上げているところに遭遇することはない。気圧されたし、圧倒された。


 俺はコイツらの一部にはなれない。なろうと思えばなれるかもしれないけど、今のところそのつもりはない。


 ただ、こんな数の勇者を相手にするつもりもない。正直、自分がどうしたいのか、どうすればいいのかがわからなくなった。


 エイブラムが指を鳴らす。次の瞬間、アイギスそのものが大きく揺れた。かと思えば浮上し、数分で訓練をしていた山が下に見えるまでになった。


「なんじゃこりゃ……」

「巨大戦艦アイギスだ」


 エイブラムがドヤ顔で親指を立てた。豪快すぎて言葉が出てこない。


 そういえば、アイギスの旧幹部たちは皆アイギスの一部になると言っていた。きっと、こういう装置を作動させるためにアイギスの一部にしているんだろう。


 縦長の「巨大戦艦アイギス」がゆっくりと動き出した。確かにこのまま突っ込めば、間違いなく鎮事府だってひとたまりもない。それが狙いなのか、ただの移動手段なのか。そこまでは俺にはわからなかった。


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