十一話
レベル四百の魔獣に安定して勝てるようになったら、今度はレベル五百の魔獣を。それが安定したらもっと上へ。そうやって、ようやく山の頂上まで到着した。
俺のレベルも五百近くなって、レベル六百を超える魔獣と戦うまでになった。エイブラムが鎮事府を襲撃するまではあと五日。それまでに頂上の魔獣も倒して、レベル五百を超えなきゃいけない。
魔獣を倒して、反省会をして、カレン先生の魔法講座があって、少し身体を休めてからカレンとの模擬戦をして。そういう生活にももう慣れた。次の日に筋肉痛でキツイこともあるが、それでもなんとかなってるってことは俺が強くなってるってことだ。
なによりもカレンと一緒に寝ても少しだけドキドキしなくなった。少しだけ。
朝も昼も夜も動きっぱなし。その合間には頭も使う。でもそのお陰で新しい賜法を編み出せた。やりたいこと、やらなきゃいけないこともちゃんと見えるようになった。
今日もまた、魔獣を倒してレベルを上げた。残りの時間を最大限に活かすためには、魔獣ばかりにかまってばかりはいられない。しかしカレンとだけ戦っていてもレベルはあまり上がらない。
「なんだか焦っているみたいですね」
「わかるか?」
「ええ、生き急いでいるように見えます。約束の時間まではまだ五日間あります。少しずつ強くなっていますし、このままならば私やエイブラム様の横に並ぶこともできましょう」
エイブラムの隣に並ぶつもりはない。けれど、ヤツの隣に並べればそれだけ成長したと認められたということになる。
ここで、俺は彼女に質問することにした。
「横に、ね。カレンは今レベルいくつだ?」
「六百くらいですかね」
「この数週間でどれくらい上がった?」
「九十くらい上がってますよ」
「レベル五百くらいから始めても、この山でなら一ヶ月かからずにレベルを百も上げられるのか」
「そういうことになります。だからエイブラム様はここを拠点にしたのです。レベルを上げられるように。強者との戦闘にも臆さぬ精神を身につけられるように」
「でも他の勇者を見たことがない。アイツらはレベルをあげようと思わないのか?」
「たまに来ますけどね。この山も広いので遭遇していないだけですよ」
「でも全員じゃないんだろ? 招待された勇者の中で、俺はどれくらいの位置にいるんだ?」
「レベル的に見れば割りと上の方にいますよ。これだけレベル上げにだけ精を出せば当然の結果とも言えます」
「それならなおさらだろ。なんで他の勇者はレベルをあげようとしないんだ?」
「そうですね、難しい質問です。端的に言ってしまえば、今現在の自分に満足してしまっているからでしょう。レベル三百や四百を超えた勇者たちはたくさんいます。けれど、もうそれで充分だと考えているのです」
「上には上がいるのに?」
「ではこちらから聞きますが、レベルを上げて上を目指すことになんの意味があると思いますか?」
「そりゃ、強い敵を倒せるようになる」
「強い敵、とは?」
「まあ、魔王とか、魔獣とか?」
「魔王を倒すこと、魔獣を倒すことに意味はありますか?」
「そりゃ勇者として生活するには必要だろうよ」
「確かに、魔王と戦うことや魔獣を倒すことは勇者の義務です。でも、それならば確実に倒せる魔獣を倒せばいい。無理に魔王を倒さずとも、適度に戦って適度に切り上げればいい。生きるため、生活するためにレベルを上げるのは少し違うのです。アナタのように、野心や矜持を持っているものは少ないのです」
「野心? 矜持? 俺にはそんなものはないぜ」
「いいえ、隠しても無駄ですよ。アナタの瞳には力がある。アナタの言葉には意志がある。アナタの原動力はアナタの心。アナタの行先はアナタが選んだ道。例え勇者になったとしても、アナタはきっと、アナタでしかない」
「隠しても無駄って言うなら、俺がどうしたいかもわかってるってことか」
「まあ、それなりにですが」
「それなのにどうして俺に付き合った? 後ろから羽交い締めにして、エイブラムの元に連れて帰ることもできただろうが」
「そうですね。アナタの成長っぷりが目醒しすぎた、というところでしょうか。見ていてハラハラしますが、ドキドキもしましたよ。目の前で他人が成長、もとい進化をしていく姿というのは、とても胸が高鳴るものです。それが自分の手によってもたらされたとしたら、それは素晴らしく、嬉しいものなのです」
「わかんねーな、お前の性格は……」
「わからなくても良いのです。いえ、正確には『今は』わからなくてもいい。そのうちわかるようになりますよ。例えば、本気で拳を交えた時とか、ですかね」
カレンは柔和に微笑んだ。
本気で敵わないなと思った。
俺のやりたいことがわかっていて、それでいて野放しにしているのならば、彼女は今現在でも「俺に勝つ自信がある」ということだ。
「見てろよ。そのうち度肝抜かしてやるからな」
「そのことば、よーく覚えておきますよ。それでは、今日の『カレン先生の魔法講座』を始めましょうか」
「うーい」
時間は確実に過ぎていく。だが、夜になればまた俺の時間だ。そこでまた、カレンが寝ている間にレベルを上げる。
見てろよ。いつかお前と戦った時に、俺は絶対にお前を倒す。その笑顔を崩したくはないけれど、お前が言うように俺には意志があるんだ。
だから、できるなら、そのまま見ているだけでいて欲しいと、そう願うのだった。




