九話
こうして、何日も何日も同じことを繰り返した。
カレンは寝るのが非常に早いので、カレンが寝たあとならば自由時間が得られる。自分がどういう自分を目指しているのか。どうなりたくて、そのためになにをしたらいいのかを考えながら、カレンがいない間にも魔獣と戦ったりした。
まあ、次の日はかなりキツイんだが、やらないわけにもいかなかった。
昼間はカレンにしごかれて、魔法講座が起きて、魔獣にしごかれて。
夜間はいろんなことを考えながら魔獣と戦って、時間停止や時間加速の能力を向上させる。そういう毎日だったが、そこまでイヤじゃなかった。
自分でもまだ成長できるのだと実感できた。やるべきことも見つかった。目的のために突き進み、その上でしっかりと成長を感じられる。そういう感覚はいいものだった。
が、かなり時間が長く感じたのも事実だった。
気が遠くなるような、そんな時間だった。
どうすればいいかがわかっても、確実な成長を実感しても、理想があまりにも遠ければそれだけ時間がかかってしまうのだ。
「起きてください、ライ」
「ああ、起きてるよ」
テントから出て朝日を浴びる。昨日もかなり長い時間外にいたもんだから眠くて仕方がない。
すでに朝食が用意してあり、それもここ最近では見慣れた光景だった。
「どうですか? 二週間ほどここにいますが、停止させる時間は伸びましたか?」
「ああ、カレンのおかげで一時間くらいまで停止できるようになったよ」
「レベルは?」
「三百を超えたな」
「素晴らしい。やはりアナタは才能がありますよ」
「いや、カレンの教え方がいいんだよ」
「いいえ、短期間でこれだけレベルを上げ、時間停止能力も向上させた。やはりエイブラム様の目は確かだった、とも言えるでしょう」
「ホント、カレンってエイブラム好きだよな」
「そうですね、エイブラム様のことは好きですよ。もちろんライのことも」
「なんだろうな、どうやったらお前の尻尾を捕まえられるのか、本気でわからねーわ」
「尻尾ですか? いやですね、私は普通の人間ですよ。尻尾はありません」
「そういうところも含めてわかんねーんだよなぁ、これが」
カレンの赤面する姿とか、一度は見てみたいもんだ。相手があまりにも上手すぎて俺じゃあ無理そうだけど。
朝食を食べ終えて立ち上がる。今日からは山の頂上を目指して進行する。今までも少しずつ前進してはいたが、これからは進行速度を早める。
最初はレベル三百程度の魔獣。日を追うごとに魔獣のレベルを上げ、今はレベル四百以上の魔獣と戦っている。
頂上付近には六百を超えるモンスターも多いらしい。カレンであっても苦労する魔獣もいると聞き、俺はため息をつかざるを得なかった。
しかし、これも必要なことだ。いつまでも弱い魔獣と戦っては、俺のレベルはこのままだ。魔獣のレベルが高ければ高いほど、得られる経験値も多くなる。
最初の方はカレンに助けてもらえばいい。レベルが四百を超えれば、その時には魔法も賜法も強くなってるはずだ。レベル六百近い魔獣の相手もできるだろう。つっても、一体相手にして一時間でようやく倒せるみたいな、途方もない話ではあるんだけど。
今の俺のレベルは三百ちょっと。その状態でレベルを一つ上げるためには、レベル四百程度の魔獣が三体必要になる。レベル百程度上回った相手を三体倒すというのは、それこそ難しく、なによりも時間がかかる。だが時間をかければ倒せる。俺には時間停止と時間加速が可能だ。時間を巻き戻すことはできないけど、その場に時間を固定させることだけはできる。時間を止めている間に、俺が速く動けばいいだけの話だ。
山の中を歩きながら魔獣を倒し続けた。カレンと二人で戦ったとしても、レベル百の差があればかなり速くレベルを上げられる。が、そのうちカレンもキツくなってくることを考えれば、今よりもレベルを上げる速度は落ちていく。
レベルが上がれば上がるほど、次のレベルまでに時間をかけなきゃいけない。その点もまた悩ましいところだった。
この二週間で新しい賜法をいくつか編み出した。
一つは〈時層切断〉だ。触れた相手の時間を停止させる賜法。自分よりも魔導力が高い相手に対しては、コンマ数秒も止めていられない。一度カレンに試したことがあった。が、本当に止まったのかというくらいの短い時間だった。魔獣には効くからいいか、というところだ。
もう一つは〈座標停止〉。特定の空間のみの時間を止められる。これならば〈世界掌握〉の何倍もの時間を止められる。その逆で〈座標加速〉も身につけた。特定の空間のみ加速させる賜法だ。空間は大体半径五十メートル程度までという制限を設けているので、魔導力の消費もかなり少ない。
そもそも〈世界掌握〉の燃費が悪すぎた。こうやって特定の空間のみの時間を止めれば、戦闘においてはそれで充分だったのだ。
だが、俺は加減の特性を持っていない。なので時間を停止させる分には簡単なのだが、加速や減速となるとなかなか難しくなってしまう。普通は逆だと思うのだが、それは特性によるものなので仕方がなかった。
頂上の一キロ程度前で荷物を下ろした。魔獣のレベルは五百程度。この位置でも、俺にとっては高レベルの魔獣ばかりだ。
「さてやるか」
「そう言いながらも目が死んでいますよ?」
「当たり前だろうが! この山に入ってからずっと高レベルの魔獣としか戦ってないんだよ! 疲れるんだよ! 一歩間違えれば確実に死ぬしな!」
「その時は私が助けますから」
「お前がいないときはどうすればいいんだよ……ってそれはいいか。じゃあサポート頼む」
「ええ、私もレベルを上げられますので。それにしても、最近は体捌きがかなり機敏になってきましたね」
「え、そう? そう言ってもらえると嬉しいけど」
「なんというか、慣れてきたという感じでもあり、単純に無駄も無理もなくなってきたというか。おそらく、今のライであれば自分よりもレベルが高い勇者や魔王であっても充分に戦えるのではないでしょうか」
「過大評価だけど大丈夫? 俺そこまで強くないよ? レベル三百だし」
「いいえ、過大評価ではありませんよ。不思議な感じですが、レベル以上の危機感のようなものを感じます」
「危機感……?」
「日に日にその危機感が増している。アナタの戦い方に対しての危機感ではない。この人ならば自分を倒しかねないという危機感です」
「俺がカレンを倒すとか、考えるまでもなくありえないけどな」
「本当にそうでしょうか?」
顎に指を当て、彼女が斜め上を見た。
「私はそうは思いませんが」
今度は視線を合わせてくる。物腰といい、彼女が考えていることはわからない。
けれど、そう思ってくれるというのは、俺がそれだけ成長したということなんだろう。




