八話
こちらの攻撃が防御された際のフォロー、ないし相手から攻撃をされた時のフォローはいいと言われた。けれどカレンは言ってくれなかった。俺のなにが良い部分なのか。俺はなにを伸ばしていけばいいのか。
しかしそんなことを考えている時間なんてない。それはこれから見つけていかなきゃいけないことで、今やるべきことではないのだ。
一匹の魔獣が先頭。他二匹はその後ろで横並び。前の魔獣を倒そうとすれば後ろの二匹に食い殺される。後ろの二匹に気を取られれば、前の一匹を生かすことになる。コイツら、思いの外頭が回る。
実直な突進であるにも関わらず、俺はただただ避けることしかできなかった。
いや、避けたつもりだった。
後方にいる一匹が素早くこちらを追ってくる。追ってくるなんていう生易しいものじゃない。まるで俺が避けることを前提としていたような。知っていて動いたような、そんな挙動だった。
〈世界掌握〉で時間を停止、その間に何発か食らわしてからその場を離脱。〈世界掌握〉を元に戻したが、魔獣にはまったくダメージが入っていない。
「おいおい、ホントにどうしたらいいかわからんぞ……」
先頭のやつを避ければ、後ろの二匹のどっちかが付いてくる。そいつの相手をしている間に、他の二匹が合流する。そんなことを何度か繰り返しているうちに、どんどんと森の中へと追い詰められていった。
いつしか、魔獣たちは突進攻撃をやめていた。木々の陰に身を潜め、息を殺して狙っている。
どこだ、どこからくる。
右を見て左を見て後ろを振り返って、また前を見て。けれど襲ってくる様子はない。
待っているのだ。俺の緊張が解けるのを。伺っているのだ。俺が息をつく瞬間を。
魔獣に攻撃が通らない理由は、少しだけわかってきていた。ヤツらは魔獣であるのに身体強化のようなものをかけている。俺にはその強化を貫通するだけの攻撃力がない。ただ、それだけの話だった。
喉が鳴る。
短めに息を吐いた。
次の瞬間、三匹が同時に襲いかかってきた。
上に二匹、横から一匹。上から来るヤツの片方は、俺を直接狙っているわけじゃない。退路に逃げ込んだところを狙うつもりだろう。
もしも俺に力があれば、これくらいは強引に切り抜けられるんだろう。
そう、もしも、力があれば。
「少し早すぎたかもしれませんね」
凛とした声が俺の耳元で囁いた。カレンだった。
「よいしょっと」
地を駆ける魔獣を蹴り飛ばした。威力はわからないがとんでもない切れ味で、一撃で魔獣の胴体が真っ二つになった。次に空中の魔獣の首を掴んだ。一瞬にして燃え盛る魔獣。そして掴んだ魔獣を、空中にいるもう一匹の魔獣に投げつけた。二匹の魔獣がぶつかった。その瞬間、二匹の魔獣が炎に包まれた。落下した頃には既に息はなく、脚をピクリとも動かさなかった。
「すげーな、おい……」
「これくらいはできなければ困りますよ」
彼女はパンパンと手を叩きながらこちらへと歩いてきた。
俺を見上げ、ニコリと笑う。
「さて、今回ライが魔獣たちに勝てなかったのはなぜでしょう?」
「そりゃお前、レベルが足りないからだろ?」
「そういうのではなく、根本的な問題です」
「レベルが低いっていうのは根本的な問題ではないのかと」
「ええ、違いますね。ライのレベルであっても、あの魔獣三体くらいならば倒せるはずなのです」
「あの魔獣、身体強化っぽい魔法使ってたぞ。そんな頭が回るようなヤツらに勝てって? 無茶苦茶だよ……」
「頭が回るわけではないのですよ。そもそも、あれは身体強化をしているわけではありません。あの魔獣が持つ魔導力が皮膚を覆っているだけに過ぎません。アナタは、それを分析しようとはしませんでしたね?」
「あー……なるほど、根本ってそういう」
「そういうことです。まずは相手を知ることから始めましょう。アナタは決して無能ではないし、勇者の秘術のお陰で不器用なわけでもない。攻撃をしてダメでした、賜法を使っても上手くいきません。それで終わりでは、一体なんのためにここにいるのかわからないではありませんか。よく視るのです。よく考えるのです。そして分析して、分解して、なにが有効なのかを探すのです。ただ攻撃するだけが能ではないでしょう?」
「まあ、確かに。でもどうすりゃいいんだ?」
「そうですね。何度も攻撃は当たっていました。あれは〈世界掌握〉を使ったのですよね?」
「そうしなきゃ攻撃できなかったからな」
「ならば相手の身体に触れている。あとは簡単ですよ。魔法を使って、できる限り分析すればいい。一回でダメならば二回、三回と繰り返す。できるまでやれとは言いませんが、やらなければ始まりませんからね」
「それかなり難しいんじゃないか? 分析するような賜法でもあればいいけど、効果が薄い魔法でそれをやれって」
「でも身体強化はただの魔法ですよね? 言ったでしょう? やってみなければ始まらない。難しいということは、決してできないわけじゃないのです。アナタがそう言ったのです。アナタは「そんなのはできない」とは言わなかった。「難しい」と言ったのです。難しいのなら、研鑽を重ねるのです。それができる人だと、私はそう思っていますよ」
彼女は俺の手を取り、両手で包み込んだ。
「おま、ちょっと」
「うん、大丈夫。できますよ、アナタなら」
微笑み。性格も顔立ちも違うのに、なぜかセレスと重なって見えた。
「そこまで言われちゃ引き下がれないな」
「ふふっ、顔が真っ赤ですね」
「うーん、耐性がないわけじゃないのに、なんだろうな。お前は卑怯だ」
「卑怯、ですか? よくわかりませんが……」
「そういうところが卑怯なんだよ、まったく」
半ば強引に手を離し、頭を掻いた。
「ちょっとコツを教えてくれ。次から意識してやってみる」
「ええ、それではカレンさんの魔法講座、いってみましょうか」
「第三回くらいかな」
「そんなところですね」
そんなこんなで、カレンにアドバイスを受けながら、日が暮れるまで魔獣と戦い続けた。
結局上手くいったのは一度きりだったし、計三十匹という魔獣と戦ったのに一匹しか倒せなかった。が、上手くいった時に一匹倒せたのだ。相手を分析するということ、そして有効な手を考えるということ。これが上手くいけば格上の相手とも戦える。
利用するようで悪いが、カレンにはこれからもいろいろと教えてもらうとしよう。
いつか、セレスたちの元に帰るために。




