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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
英雄の資格 1
61/96

三話

 次の日は施設内を案内してもらった。簡単な説明ではなく、二時間くらいかけてカレンが歩きながら説明してくれた。


 この建物が大きいのは知っていたが、そもそもの敷地が広い。建物の周り数キロに渡ってエイブラムが所持しているようだ。


 外も整備されており、芝生の中に綺麗な道があった。ランニングをしたりする勇者用だとカレンは言っていた。


 大型の遊具なども多く、訓練には事欠かない。室内にも訓練場があるというのに、外にでても訓練ができる。それどころかそれで遊べるってんだから、エイブラムのヤツはどういう考えでここを作ったのかわからなくなった。


 自動車も貸し出してくれる。敷地内であれば基本的に自由。なんというか、これから鎮事府とやりあうっていう雰囲気には思えなかった。


 建物の中も案内してもらった。


 食堂ではタダで飯が食える。しかも料理の種類が半端ない。町一個分持ってきたんじゃないかというくらいにレパートリーが豊富だった。


 訓練場では射撃訓練や、ダミーを使った仮想対人訓練、魔導力を高めるための特殊な部屋など様々だ。普通対人戦闘をするための部屋も多くあり、部屋の内面には抗魔導物質が使われ、魔法や賜法を使ってもなんら問題はない。例外となる人物以外は自由に使ってもいいとのこと。


 行く先々で他の勇者たちの視線が痛かった。どうやら「従者から勇者に転身した」という情報がダダ漏れらしい。


「あれがそうなの?」

「弱そうじゃん」

「どんなコネで入ったんだか……」

「もしかしたら凄い賜法を持ってるのかも」


 なんて会話が耳に飛び込んできた。やはり、あまりよく思われていないんだろう。


 しかし以外なことに、そこまでピリピリギラギラしていなかった。アットホームな感じで、たぶん気軽に声を掛けられると思う。


 美人とデートなんてラッキーだ。と、思わないこともないが、そもそもここが自陣なのか敵陣なのかさえも定かではない。今は勇者である以上こっち側なんだろうけど。


 エイブラムに対してはあまりいい感情は持っていない。なにせ目の前でセレスをふっ飛ばしたのだ。怒り心頭である。


 が、あの無駄に柔らかく明るい雰囲気は嫌いじゃない。たぶん他の勇者にも好かれていることだろう。惹きつけられる物を持っていて、もしも勇者と従者として出会っていなかったら、俺もエイブラムを盲信していた可能性がある。


 一通り見回ったあとでエイブラムの部屋に連れていかれた。


 部屋の中で、昨日と同じようにソファーにどっかりと腰を下ろしていた。偉そうだなと思いつつ、そりゃ偉いんだろうなと腑に落ちた。


 向かいのソファーに俺が座る。なぜかカレンは立っているのだが「私は結構です」と頑なだった。


「アイギスシェルターはどうだった」

「ああ、ここアイギスシェルターって言うのか。いや、凄い場所だと思うよ。実際なんでもあるしな」

「そうだろうそうだろう。お前も好きに使ってくれていいんだぜ?」

「好きに使わせてもらうのはありがたいんだが、そんなに自由ばっかりで大丈夫なのかよ。ちゃんとした合同訓練とかは?」

「週二でやってるよ。多対多の戦闘を想定した訓練をな。ここにいる勇者を無作為に二つにわけてな」

「そりゃ大掛かりすぎんだろ……どこでやんだよ……」

「外だよ。このアイギスシェルターはな、生きてるのさ。生きてるって言い方はちょっと違うんだが、俺の元同胞たちが地形を変えたり、外に魔導力を漏らさないようにしてくれる。だから屋外でドンパチやってもだいたいは大丈夫だ」

「元同胞って、どういう意味だ?」

「そうだな。俺もそうなんだが、主要メンバーはみなある契約をする。それが、自分の身体をアイギスシェルターに組み込むというものだ。シェルターに組み込んで、賜法を使えるようにする。そういう装置がある」

「死んでもなお生かす。それは、道徳的に看過できねーんだが」

「お前の気持ちはわかる。だから主要メンバーだけの契約なんだ。普通の勇者にはそんなことはさせん。鎮事府を討つと始めて立ち上がったメンバーだけだから安心しな」

「安心ってお前……」

「俺も覚悟はしてる。今シェルターに取り込まれてるヤツも、覚悟して俺についてきた。倫理的、道徳的にはちょっとヤバイとこまでいってるよな。だがそれだけに俺たちは賭けてきたのさ」

「そこまでして鎮事府を暴きたいのか?」

「鎮事府は世界の中心だ。中心であり陰だ。これをどうにかしなきゃ、たぶん俺たちは幸せに暮らせない。いつまで経ってもヤツらのいいなりだ。姿形がないヤツらの、な」

「お前の覚悟はわかったよ。その上でいくつか質問したい」

「ああいいぜ。どんとこい」

「アイギスに所属する勇者ってのはお前が引き抜いてきたのか?」

「俺だけじゃないな。俺やブラッドフォード、その他主要メンバーだ。もちろん誰かが連れてくれば、そいつを他の主要メンバーたちで精査する」

「なるほど。じゃあ俺はこれからその精査を受けるわけだ」

「いいや、必要ない。お前はすでにブラッドフォードと対峙している。もう認められてるから安心しな」

「安心できないが、まあそういうことにしとくか」


 あの男が俺を認めたとは思えないが、今はコイツの言うことを信じておこう。


「次に俺の扱いだ。俺は一般勇者の方なのか、主要メンバー側なのか」

「そうだな、中間ってとこだ。一般勇者でありながらも俺に体よく使われる立場だと思ってくれ」

「劣悪労働じゃねーかよ」

「ちゃんと報酬はくれてやるよ、心配すんな」

「割りとなんでもかんでも有耶無耶だな、お前。それが性格なんだろうけどさ。じゃあ次。鎮事府にはいつ攻め込むつもりだ?」

「一ヶ月後だ。だからそれまでに、お前には賜方のコントロールをしてもらわなきゃいけない。他の勇者たちに混ざっての訓練。自主的な戦闘訓練。こちらが強制する賜方訓練。お前の一日はそれで潰れる」

「劣悪すぎんだろ……」

「一ヶ月くらい我慢せんか。一日十万くれてやる。それで頑張れ」

「なんだよめちゃくちゃ高待遇じゃねーか」

「掌返しがはえーな、お前は。まあそんなとこだ。一日のスケジュールはカレンに任せてあるから、彼女に詳細を聞くといい。他にはなにかあるか?」

「今んとこはそれくらいだな。また思いついたら訊きにくるさ。俺はこれからどうすればいい?」

「カレンと一緒に訓練だ。訓練と言うか、なんというかだな。とりあえず室内の訓練場にいけ。カレンと一対一で戦うんだ。その後は彼女が決めてくれる」

「わかった。言うとおりにしよう。行こうかカレン」


 立ち上がると、カレンがエイブラムにお辞儀をしていた。彼女が律儀というのもあるだろうが、彼女にとってエイブラムというのがそれだけ目上であるということだろう。

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