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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
英雄の資格 1
59/96

一話

「だから、俺の賜法が必要だって?」

「そういうことだ。俺達が狙うのはあくまで鎮事府。お前の時間停止能力があれば、ほぼ無傷で鎮事府を抑えられる」


 だだっ広く小綺麗な部屋の中で、俺とエイブラムが向き合って座っていた。ヤツまでの距離は五メートルほど。攻撃できない距離じゃないけど、エイブラムの左右には勇者が立っている。右が男で左が女。両方とも顔立ちが整っている。男の方は灰色の短髪、身長は俺より少し高いくらいか。女の方は濃紺の長髪で、一つにまとめたものを後頭部で留めていた。


 ソファーはふかふかで座り心地が良い。けれど、居心地は相反して悪すぎる。


「アンタの目的はなんだ? なにがしたいんだ?」

「何度も説明してるだろ? 鎮事府を乗っ取るんだよ。まあそうだな、正確には違う。この話をするには共通する解釈がいくつか必要なんだが、お前は誰がなんの目的で勇者システムを作ったか知ってるか?」

「働かない若者を働かせるためだろ? 鎮事府がそのために作った」

「そうだ。では魔王システムは?」

「勇者が自分勝手に振る舞い初めて、それを抑えるために作られた」

「誰が?」

「鎮事府だ」

「鎮事府の誰が?」

「そんなの知るかよ」

「つまりお前が知ってる知識なんてそんなもんだ。で、ここからが本題になる。正直な話をするとな、若者を働かせるためだけを理由にして、こんな大仰な装置を作るもんかね? 勇者たちが暴走する可能性を考慮しないやつが、こんなすごい機構を積んだ物を作ると思うか?」

「それは、たしかに言われてみればそうだな」

「もしも鎮事府がすべてを想定していたとしたら、お前が言った「勇者システムと魔王システムの成り立ち」がおかしくなるとは思わんか?」

「魔王システムは、勇者システムを抑えるために作られたわけじゃない……?」

「それどころか、勇者システムのあり方だって疑問が出てくる。両方のシステム、両方のデバイスがコミコミで考えられているのだとしたら、なぜ一緒に出さなかった? なぜ反乱を予知していながらこんな物を作って人々に与えた? 鎮事府とは、一体なんなんだ?」

「そんなの、俺に訊かれたってわかるわけねーだろ」

「そうだろそうだろ、ちなみに俺だってわからない。だから鎮事府に行くんだよ。あそこには誰がいて、なにをしているのか。この世界を操ってるヤツを暴いて、贖罪をくれてやるんだよ」

「それがアンタの狙いか」

「そういうことだ。お前も俺の話を聞いて気になることができたろ?」

「否定はしない。でもそれなら、魔王と協力する道だってあるんじゃないのか?」

「この世界の理において、勇者と魔王は対極の存在だ。魔王が話を聞くとは思えない。どんだけ正論を説こうとも、俺の手元には証拠がない。まあつまるところ、その証拠を集めに行くってのが最終的な狙いなわけだが。それに魔王ってのは、勇者から鎮事府を守るためにある。と、思ってるヤツらも一定数いる」

「それって、下手すれば魔王と戦うってことじゃないのかよ」

「可能性の話さ。それに戦うつっても、俺たちが鎮事府で証拠を見つければ戦いだって止まるさ」


 ヤツは指を足を組み、ソファーの背もたれに体重をかけた。


「質問は?」


 俺は指を組み、床を見た。


 ヤツの言葉には正当性がある。証拠はないが、確かに勇者システムと魔王システムはこの世界においての疑問だ。


「俺が、協力しないと言ったら?」

「そういう選択肢もあるわな。やりたくはないが、お前の友人たちを人質に取らせてもらう。恐喝とかそういうのは趣味じゃないんだがね」

「確実な方法ではある、か。じゃあもう一つ。俺がここにいることのメリットは、魔王や眷属たちを守るためだけか?」

「そうだな、強くなれるぞ。今よりもずっと、セレスティアという魔王より、アーサーという元勇者より、ブラッドフォードよりも。このまま頑張っても俺には届かないがね」

「強く、か」


 俺がずっと願っていたもの。手が届く範囲だけでいい。手が届く範囲だけを守れる、強い力が欲しかった。


「セレスティアたちの命は保証してくれるか?」

「ああ、戦ったとしても捕縛する。極力五体満足でな」

「一般人を巻き込まないで、魔王や従者を殺さないで、それで任務を遂行できるか?」

「無論そのつもりだ。俺は人殺しをしたいわけじゃないんでな。他に要望は?」

「監視とかはやめて欲しい」

「おーけー」

「協力する勇者の数は?」

「約三百」

「個室をくれ」

「全員個室だよ」

「……ふう、わかった。やろう。どこまでやれるかはわからないけど」

「決めてくれたか。最優先すべきは、お前の賜法の安定だ。より安定して、より長く、より身体の負担を減らして賜法を使えるようにする」

「できるのかよ、そんなこと」

「そもそも、自分の命を削って賜法の使用時間を伸ばせるなんてヤツは稀なんだ。特にお前以外の時間停止の能力は、皆五秒とか十秒が限界で、それ以上停止時間を伸ばせない。だがお前は無理をすれば伸ばせる。これは俺の勘でしか無いが、お前の能力は強化できるはずだ。流血もなく五分や十分の時間停止を目安にしてもらうかな」

「無茶苦茶だな。そんなことホントにできるんかね……」

「さあ? やってみなきゃわからんだろ?」

「行き当たりばったりじゃねーか。テキトーだなアンタ」

「それが俺の良いところでもある。じゃあ、早速部屋に案内してやる」


 エイブラムが左にいた女性に耳打ちをした。女性が小さく頷き、俺の方を向いた。


「私はカレン=アクロイド。これからアナタのパートナーとして付き添わせてもらいます」

「俺は、って知ってるか。つーかそれって監視みたいなもんじゃねーのか?」

「いいえ。アナタがいるこの施設はエイブラム様が造ったもので、エイブラム様を中心とした組織、勇者盟友団体アイギスの本拠地となります。アイギスにおいて、勇者は必ずペアで行動します。アナタのパートナーは私。それだけの話です」


 少し冷たそうなイメージだったが、話してみると物腰が柔らかい。今だって笑顔を向けてくれている。それに美人だ。


「では私のあとについてきてください。お部屋に案内いたします」

「わかった。そうだ、なあエイブラム」


 立ち上がってからヤツに振り向いた。


「なんだ? まだなんかあるのか?」

「アンタと連絡を取りたい場合はどうしたらいい?」

「部屋に連絡用のデバイスがある。そこに俺の名前が登録されてるさ」

「なるほどな、了解した。んじゃ部屋に連れてってもらうかな。えーっと、カレンさん?」

「カレンでいいですよ。私もライオネルと呼ばせてもらいますから」

「おお、そりゃありがたい」


 カレンに連れられて部屋を出た。廊下は人が十人くらい横に並べそうなくらい広い。右側にはドアが並び、左側には窓がある。窓も大きく、ベランダのようになっていた。

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