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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
【魔王の資格】〈セレスティア=ウォルト=クロムウェル〉
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最終話

 しかし、戦闘は起こらなかった。リンドヴルムの瞳が青に変わっていたからだ。


「すまんな、人の子よ」


 ヘレン以外が、口を開けて制止した。当然だ、ドラゴンが完璧に人語を操っているのだ。


「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。緊急とはいえこのようなことを……」


 さも当たり前のように、ヘレンが会話を続けた。ここは任せておこうと、セレスティアたちは口を噤んだ。


「いや、いいのだ。むしろありがたい。周囲に影響が出る前に止めてくれた。私にお前たちを責める権利はない」

「ありがとうございます。でも、どうしてこのようなことに? リンドヴルムさまはなにをされたのですか?」

「私にもわからぬのだ。ただ間違いなく勇者の仕業でも、魔王の仕業でもない。おそらくは鎮事府の連中だろう。お前たちも気をつけた方がいい。ヤツら、なにかを企んでいる」

「心に留めておきましょう。それでリンドヴルムさま、血液を少しばかりもらえますか?」

「よかろう、いつものアレは持ってきているんだろう?」

「はい、大丈夫です」


 ヘレンがサイクロプスの瞳を差し出し、代わりにリンドヴルムの皮膚を少し裂いて血液を採取した。


「それでは私たちはこれで失礼しますね」

「ああ、気をつけて帰るのだぞ」


 なぜだか、リンドヴルムが笑っているように見えた。


 微笑んだセレスティアだが、急に我に返った。


「ちょっと待って。少しリンドヴルムと話があるの」

「ん、お前は私を蹴りつけたヤツか。なかなかきいたぞ。これからが楽しみだ」


 皮肉にも聞こえるが、ここは素直に「すいませんでした」と頭を下げた。


「グランゼニアの方でも魔獣が暴れまわっているらしい。それをなんとかできなだろうか」

「ふむ、よかろう。私よりも隠したの魔獣ならば一声でいい。耳を塞いでいろ」


 大きく息を吸ったリンドヴルム。そしてまた大きく咆哮した。


 耳を塞いでいても頭が痛くなるほどに大きな声。それが五秒ほど続き、ようやく収まった。


 耳から手をどかしても、まだ耳元で咆哮が聞こえるようだ。


「これで、魔獣たちもおとなしくなったはずだ。お前たちも集落が心配だろう。ハリエットの元へ帰るといい」

「はい、ありがとうございます。それではまた」

「ああ、壮健であれ」


 こうしてリンドヴルムの元をあとにした。


 グランゼニアに戻ると、リンドヴルムが言っていたように魔獣たちはいなくなっていた。グランゼニアに戻る際にも魔獣と遭遇しなかった。本当に、魔獣たちの暴走が収まったのだ。


「戻ってきたな。よくやってくれた。リンドヴルムの咆哮はやはりすごい」

「そうですね。四大神獣は私たちでは到達できない領域にいますし」


 ハリエットがセレスティアに視線を向けた。


「どうだ。使えそうか?」

「なんとかなりそう。もうちょっと使い慣れないとダメかもしれないけど」

「言葉の棘が取れたな。それでいい。お前にこれをやろう」


 ハリエットが瓶を放り投げてきた。それを右手で掴む。手に収まる大きさではあるがそこそこに大きい。透明な瓶の中には白い錠剤が敷き詰められていた。


「これは?」

「魔導結晶の汚染を抑制する薬だ。使う前と使った後に飲むといい。ほぼノーリスクで力が使えるはずだ。なくなったらまた作ってやる」

「なにからなにまでありがとう。それじゃあ、私たちはセレスティア城に戻るわ。これから勇者との戦いに備えないといけないし」

「なにを言っている? お前たちはここで暮らすんだよ。魔王として、従者としてのスキルアップを図るためにな」


 ハリエットがニヤリと笑う。反面、セレスティアを含めた彼女の眷属たちは口を開けたまま固まっていた。


「反論は受け付けない。お前たちは私の元で強くなるんだ。四光と対等に戦えるように、な」


 驚いたのも事実で、なにを言っているのだと言いたい気持ちもある。が、自信に満ちたその笑みが心強いのも間違いない。


「わかったわ。よろしくお願いするわ、ハリエット」

「グランゼニアにようこそ、セレスティア=ウォルト=クロムウェル」


 差し出された手を握った。


 最終的な目的はライオネルの奪還である。けれど、そのためにエイブラムと戦わなければいけないのであればそうせざるを得ない。


 それならば、選択肢は一つしかないのだ。


 従者たちの顔を見た。皆笑っている。今はそれだけで十分だった。


 信頼できる仲間と、ここから更に上へと向かう。胸が熱くなっていくようで、今までにない嬉しさを感じていた。


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