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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
【魔王の資格】〈セレスティア=ウォルト=クロムウェル〉
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十六話

「わかんねーな、お前。ちなみに魔導結晶を埋め込んだヤツのことを、私は魔人や魔女って呼ぶことにしてる。そう呼べばわかりやすいからな」

「なるほど、それはいい」


 ハリエットに背を向けて、一歩、また一歩と歩き出した。


「魔女セレスティアか、悪くない」


 部屋の入口にはアーサーが立っていた。入り口にもたれかかり、無表情でセレスティアを見ていた。


 だが、睥睨しているというふうではない。彼の目は、今までとは少し違っていた。


「ようやく覚悟を決めたか」

「今まで悪かったわね。行きましょうか、アーサー」

「そうだ、そうでなくちゃ。ボクの主人になるならこれくらいできなきゃ困る」

「言ってなさい」


 コツコツと、廊下に靴音が響いた。


 歩きながら魔導結晶に特性を割り当てていく。生まれつき持つ魔導炉とは違い、魔導結晶は全ての特性に対して適正があるようだった。それに危険なだけあって付け替えもできる。それならば今必要な物をつけ、ネデット山岳登頂までまでに賜法を組み立てる。


 屋敷の入り口にいたメイドにネデット山岳の場所を聞いた。


 二人はグランゼニアを出てから野を駆けた。そこまで多くなく、特に今のセレスティアならばかなりの時間を短縮できる。


 途中で遭遇する魔獣は一撃で屠った。けれど魔獣には一瞥もくれず、目端に映ったのを確認してから剣を振るう。ただ単純にそれを繰り返しただけに過ぎない。


 ネデット山岳の麓に到着した。見上げると、上空でドラゴンの姿が見える。と言ってもかなり小さい。


「あれがリンドヴルムか」


 リンドヴルムは頂上に向かって降下、また浮上を繰り返していた。


「まだ大丈夫そうだな」

「そうとも言い切れないがな。ここからはペースを上げるぞ」

「問題ない、付き合ってやるさ」


 ペースを上げる。それは速度だけではなかった。


 目の前にある道など、人が歩くためのものでしかない。大きく跳躍して岸壁に着地、岸壁に対しての抵抗力を極限まであげて、地属性と風属性を使いながら一直線に壁面を上っていく。


 ほぼ九十度の岸壁を物ともせずに駆け抜けた。


 アーサーの動きは気にならなかった。彼ならばついてくるだろう、という信頼があったわけではない。ついてくるのが当然、ついてこなければそれまでの関係で、ついてこられないのならば所詮そこまでの人間と考えていた。


 リンドヴルムが浮上するのが見えた。急げば、次の攻撃ならばきっと間に合うはずだ。


 脳内で、銃のリボルバーを思い浮かべた。


 四つしか弾が入らない銃。その四つは魔導結晶だ。弾丸は沢山ある。元々自分が持っていない特性が弾の代わり。弾丸を手に取り、リボルバーに差し込む。


 そして、引き金を引く。


「時間、加減、光輝、伸縮を新規設定。持っている空間を追加して賜法を生成」


 彼女は光となって空間を切り裂く。ほぼ一瞬で、リンドヴルムへと到達した。しかし、まだ少し距離がある。それも織り込み済みだった。


 もう一つ、賜法を練った。電雷、光輝、収縮、加減、追跡を使って杭がついた雷の鎖を作り上げた。光の速さでリンドヴルムへと杭を打ち込む。少し力を入れて引くと、セレスティアの身体がリンドヴルムへと吸い寄せられた。


 今は名前をつけている暇などない。


 リンドヴルムへと近づき、こう叫んだ。


「【疾風迅雷ブローニングミョルニル】!」


 奥歯を強く噛み締め、電撃を帯びた槍を顔面に打ち付けた。


 本来自分が持っていた賜法。雷の槍を飛ばす賜法ではあるが、今は接近攻撃として使った。


 持っていなかった特性を使えるようになった。きっと前よりも強い賜法を生成することもできる。それなのにどうして、今まで使っていた賜法を使ったのか。その意味は一つしかない。


 私がここに来た。お前らの主が、助けにやってきたぞ。それだけが理由だった。


 一度は怯んだリンドヴルムだが、空中で体勢を立て直していた。


 セレスティアが地面に着地した。けれど、誰もセレスティアの名前を呼ぶことはなかった。


 周囲を見れば、誰一人として立っていなかった。かろうじてヴェロニカだけ、膝立ちだった。


 ヴェロニカ以外もまだ息がある。すぐに【複数回復(ラウンドキュア)】で傷を癒やした。リンドヴルムの方は、あとから来たアーサーが相手をしていた。が、長くは保たないとわかっている。


「お嬢様……」

「しゃべらなくていいわ。あとは私が引き受けるから。今は身体を休めなさい」


 セレスティアの【複数回復】は傷を治せても体力までは元に戻せない。無理をして動かれるよりも、体力の回復に専念してもらう方がいい。


「でもお嬢、相当強いぞ。正直、私たちも防御で精一杯だった。アイツ、ドラゴンなのに魔法を使うんだ」

「叡龍リンドヴルム。人よりも多くの経験を持ち、人よりも多くの魔導炉を持ち、人よりも多くの知識を有する。昔文献で見たことがあるけど、まさかここで戦うことになるとはね」


 サウスレリックの叡龍リンドヴルム、ウェストレリックの幻狼フェンリル、イーストレリックの奏蛇ヨルムンガンド、ノースレリックの豊精イピリア。各地域で有名な四匹の魔獣。四大神獣と呼ばれていた。その一匹が、このリンドヴルムだ。


 できることならば戦いたくはない。四大神獣が強いことなど当たり前だ。神獣は戦闘に向かないとは言われているが、誰かに、なにかに倒されたなどという話を聞いたことがない。当然、古い文献にも載っていない。


 魔獣の暴走と関係があるにせよ、ないにせよ、最低でも気絶させなければならない。


「お嬢、逃げよう。ヘレンも私たちを守ってたせいでいっぱいいっぱいだ」

「逃げ切れるならばそれでもいい。でもね」


 セレスティアはシャロンへと顔を向けた。


 その顔は、笑顔だった。


「私がここに来たのは、アナタたちを確実に助けるためだから。だから、私はリンドヴルムを倒すの」


 魔王モードはなかった。けれど通常モードともまた違う。その中間。魔王モードであることを諦め、通常モードで居続けることを放棄した。それが今の彼女の姿だった。


 身体を屈め、脚に力を溜めた。そして、一瞬で解き放つ。


 セレスティアが飛ぶ代わりにアーサーが降って来た。すれ違い際に「ありがとう」と言うが、彼の耳には届いていないだろう。


「聞こえるかリンドヴルム」


 新しく特性をセットして宙に浮く。剣を構えた状態で、リンドヴルムに向かってそう言った。


 しかし、リンドヴルムは荒い息を吐くばかりだった。赤い瞳が爛々と輝き、目標をセレスティアに定めた。


 強力な竜巻が巻き起こる。リンドヴルムのレベルが高いため、理解や分解の特性を使っても竜巻は払えない。


 単純な魔導力であれば勝ち目はない。ぶつかり合っても餌になるだけ。それがわかっているから、効果的な戦い方を考えるしかなかった。

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