十三話
「おーけー。それじゃあ魔導炉を修復するための準備をしよう。セレスティアは私と一緒に地下へ。他の連中はネデット山岳に行ってあるものを取ってきてくれ。そうだな、男一人ってのもなんだ、お前は残れ」
「お前、とは俺のことか?」
「そうだ。元勇者、アーサー=バートレットに言っている」
「まあ別にいいが。山に登るなど面倒くさいしな。で、俺はどこにいればいい?」
「メイドに案内させる。客室で終わるのを待つといい」
「アーサー様、こちらへ」
「わかった。じゃあな、先に休ませてもらう。俺はお守りで疲れてるんでな」
メイドに案内され、アーサーが部屋から出ていった。最後にセレスティアを一瞥したが、その目は従者の目ではなかった。あざ笑うかのような、蔑むような目だった。
「少しいいか」とセレスティアが言った。「なんだ?」とハリエットから返ってくる。
「先程から気になっていたけれど、そこの少女は何者なの?」
セラの隣に座る少女を指差す。
「彼女はヘレン=グルーシュ、私の眷属であり、私の血を引いている。けれど娘というわけでもなければ孫というわけでもない。そうだな、クローンという言い方が正しい」
「影武者というわけでもなさそうね」
「私と同じ能力を持った者が近くにいれば、もしも私が死んでも問題ないだろう? ヘレンには私が生きてきた軌跡を詰め込んである。いずれは私に代わる存在にもなり得るだろうな。ちなみに、セラとヴェロニカの案内人でもある。シャロンの案内は知り合いの勇者にさせた。セレスティアとアーサーの案内人がいなかったのは、ちょっとした手違いがあったからだ」
「その手違いを聞いても?」
「最初はヘレンにだけ頼んだ。それが飛行機で飛んできたものだから、早急になんとかせねばと思ったのだ。結果的に飛行機を落とすという形になり、お前たちを三つに分断することになってしまった。シャロンを案内した勇者たちには、お前たちがちゃんとグランゼニアに来られるようにと隠れて警護してもらっていたのだ。三つに分かれてしまったから、ヘレンと勇者たちを割り当てると、セレスティアとアーサーの二人を案内する者がいなかった」
「これで私たちがたどり着けなかったら問題ね」
「なんだかんだ言ってもアーサーがいるのだ。戦力的には問題ないと思った。質問は以上でいいか? よければ早速行動に移そう」
「わかった。お前たち、よろしく頼む」
従者たちに向かって、セレスティアは深く頭を下げた。
「任せなよ、お嬢。私たちがなんとかしてやる」
「お嬢様はお疲れでしょう。私たちが帰ってくるまで、どうぞおやすみください」
「アーサーはああ言っていたけれど、なにかあれば守ってくれると思うわ。セラが言う通り、ゆっくり休むといい」
「それでは行きましょうか、ネデット山岳へは私が案内しましょう」
ヘレンが三人を連れて部屋を出ていった。残ったのはセレスティアとハリエットのみ。
「ネデット山岳にはなにがあるの?」
「まあ、いろいろだな。途中の洞窟にはシルファネイトがある。山の頂きに咲く花、山岳の由来となったネデットの花がある。そして、最後はネデットの花を守るドラゴンの血が必要だ。おそらくこの辺では最強のドラゴン、リンドヴルムの血がな」
「聞いたことがあるわ。山の頂きで宝を守るドラゴン。様々な勇者を食い、たくさんの魔王を退けてきたと言われている」
「今となっては老化してしまって、昔のような力はない。それに人語がわかるから、ちゃんと話せば血くらいはわけてくれるはずだ」
「そう、それならいいけど」
「じゃあ、アイツらが戻ってくるまでに準備を済ませておかなきゃな。ついてこい」
「ええ、よろしくお願いするわ」
立ち上がり、ハリエットの後ろについて歩いていく。
立ち上がってみて、彼女の服が白衣であることに気がついた。ハリエットの背丈は低く、頭はセレスティアの顎よりも低い位置にある。頭も背中も小さい。これが、長く生きてきた魔王なのかと首を傾げた。
廊下を歩き、階段を降り、地下四階にやってきた。通路の左右にあるドアにには目もくれずに歩みを進め、突き当りの大きなドアまでやってきた。ハリエットはドアを開けてその中に入っていった。
部屋の中はいろんな物が置かれていた。目を引いたのは、中央に設置されているイスであった。背もたれを倒せるタイプのイスで、高級感と重圧感がある。重圧感の正体はイスの横に設置されている、よくわからない機械の箱のせいだろう。イスを上から照らすためのライト、なにかを置くための台もあった。
たくさんの物が置かれているが、散らかっているわけではない。綺麗に整理され、地面に本が広げられているということもない。広さはそこまででもないが、大人三十人くらいなら入れるだろう。右と正面の壁際には本棚が敷き詰められている。右側にはガラス棚。薬品や機材が入っているようだった。
「そこに横になれ。アイツらが戻ってくるまで寝ているといいさ。その間に準備を済ませておく」
言われるがままにイスに座った。すでに背もたれが倒されているため、座るというよりは寝るという表現が正しい。
横になり、天井を見上げた。高すぎない天井に設置されている白い電球が、なぜかとてもまぶしく見えた。
ああ、疲れているんだな、とようやく気がついた。気を張りすぎた。知らない人間の前で、ここまで長時間魔王モードを継続したことはない。今まで、どこかに出かけても当日には城に帰っていたからだ。
目蓋を閉じると暗闇に引き込まれそうになった。なにかに身体を引っ張られるような、そんな感覚を感じながら、彼女の意識は暗闇へと落ちていった。




