十二話
「私は【魔導完結】を使い、魔導炉が二つになってしまった。だから、魔導炉を復活させたい。魔導結晶が魔導炉の代わりになると聞いたの」
「まあ知っていたが、本気だったとはね」
「知っていた、とはどういうこと?」
「私のことを嗅ぎ回っていただろう? そういえばまだ名前を言ってなかったな。私の名前はハリエット=グランヴィル。グランゼニアの長にして魔王。そして、魔王ネットワークを作った張本人だ」
「魔王ネットワークを……?」
「私は賜法によって長い時間生きてきた。誰が魔王ネットワークを使用し、魔王ネットワークでどんな情報を集めようとしているのかくらいはわかるんだよ。だから知っている。だから、飛行機でここまで来ようとしていたのも知っている」
「申し訳ありませんハリエット様。新しいお客様がいらっしゃいました」
後ろを振り向くと、ドアの前にメイドが立っていた。そのドアは開け放たれており、四人の女性が入ってきた。
「お嬢様……!」
セラが駆け寄ってきた。一目散にセレスティアに駆け寄り、抱きしめた。そのぬくもりに、セレスティアは少なからず安堵した。
見知らぬ少女が一人、残りの三人はセレスティアの眷属だった。
「感動の再会は後にしてくれるか? とりあえず、皆座ってくれ」
ハリエットに促され、シャロン、セラ、ヴェロニカ、見知らぬ少女がソファーに座った。
「まず最初に言っておかなければいけないことがある。あの飛行機を落としたのは私だ。飛行機なんかを使って上空を飛ばれると迷惑だったのでな」
「迷惑とは引っかかる言い方ね」
「お前らがエイブラムと接触したことは知っている。飛行機なんかで移動したら、それこそ目をつけられてしまう。お前らの不穏な動きを感知して、エイブラムが勇者を使ってお前らを殺すかもしれない。まあ、一番は鎮事府に感付かれたくない」
「なぜそこで鎮事府が?」
「そうか、まずはそこから話さなきゃならないな」
彼女はそう言い、膝の上で指を組んだ。
「最初にエイブラムの目的を話そう。ヤツが戦おうとしている相手は魔王ではない。魔王よりも向こうにいる相手だ」
「向こう? 魔王は魔王、勇者は勇者でしょう?」
「じゃあ魔王と勇者を作ったのは誰だ? 魔王システムと勇者システムを作り、人々に与えたのはいったい誰だ?」
「鎮事府、だと思うけれど」
「そういうことだ。エイブラムは魔王になんか興味はないんだよ。アイツは最初から鎮事府にしか興味がない。というか、四光は最初から鎮事府しか狙っていないというのが正解だ。勇者システムができてから、勇者の中で強力な力を持つ四人のことを四光と呼んだ。四光は自分たちが頂点に立つために鎮事府を攻撃し始めた。そして魔王システムが作られた。つまり、徹頭徹尾四光の考えは変わっていない」
「ちょっと待って、エイブラムは四光なの? 私はてっきりまだ後継者なのかと思っていたのだけれど」
「そもそも四光というのは誰かに言われてなるものではない。自分たちで名乗るものだ。エイブラムは四光という存在に頓着していない。けれど四光の後継者を集めていた。それは鎮事府への攻撃をする際、強い勇者がいた方がいいからだ。ただ強いだけではダメだ。鎮事府に対抗するための強力な賜法を持つ者を集めていた。例えばそう、ライオネル=アークライトのような、な」
その名を聞き、セレスティアは机に手をつき身を乗り出した。
「どうしてそのことを!」
「私の情報を舐めるな。ちなみに、魔王ネットワーク同様、勇者ネットワークというのもある。もちろん私が作った。ちゃんと情報は入ってくる。エイブラムは、ライオネルが持つ時間停止の能力が欲しかったのだろう」
「そこまでして欲しい賜法なの? 時間を止められる人間など、この世には何人もいるでしょうに」
「当然だ。が、数秒が限界だろう。ライオネルのように数分も、しかも自分で調整できる者はまずいない。だから欲したのだ。エイブラムはライオネルに目をかけている。お前たちが取り返そうとしても、そう簡単にはいかないだろうな」
「そんな……じゃあもう二度と……」
「簡単にはいかないと言ってるだけだ。方法はいくつかある。一番確率が高いのは、エイブラムが動き、鎮事府に攻撃をしかける時だ。その時に取り返すくらいだろうな。私たちが鎮事府を守ってやらなきゃいけない義理もないし、ライオネルの奪還に全力を注いでもいいだろう」
「ライオネルは救出したい。けれど、鎮事府は守らなくてもいいの?」
「問題はそこにある。勇者の狙いはわかった。じゃあ、勇者を押さえるために作られた魔王は鎮事府を守らなければいけないのか、というところだ。私は守る気はないけどな」
「鎮事府を守るのは魔王の役目では?」
「私はな、勇者にも鎮事府にも協力するつもりはない。言ってしまえば、魔王とは鎮事府が自分の身可愛さに作った番人なんだ。が、それを強制されているわけでもない」
「確かに。鎮事府が防波堤として作ったはずの魔王なのに、私たちはそういう命令をされた覚えがないわ」
「当然だろうな。鎮事府には誰一人として住んでいないのだから」
「誰、一人として……?」
「鎮事府に人がいるとでも思ったか? 残念だな、あそこは無人だ。無人で動かすために、中央の島いっぱいを使って建物が造られている。建物の中には魔王システムや勇者システムを作るための機構でも敷かれているんだろう。つまり機械の塊だ、あれは。私たちの世界は機械によって制御されていると言ってもいい」
「そんなバカな話があってたまるか! 大体なんでお前がそれを知っている!」
「年の功ってやつだと思え。何百年と生きてきて、情報を集め続けてきた成果だ。だからなにをしたいというわけではない。だが、私は真理にたどり着きたいと思っている。この世界の真理にな」
「そのために長生きをしたというの? そんなことのために」
「お前にとってはそんなことのためかもしれない。けれど私には重要なことだ。探究心と野心だけで生きてきたようなものだ。そうでなきゃネットワークなど作ったりしない。ただの酔狂だ」
セレスティアは顎に指を当て、少しだけ考えた。
自分たちを待っていた。ライオネルを助け出すには鎮事府が攻撃された際が一番確率が高い。そしてハリエットは真理を知りたがっている。それが一本の線に繋がったのだ。
「私たちはライオネルを助けるために、かならずエイブラムに近づかなければいけない。しかも鎮事府攻撃の時に。鎮事府が攻撃されるということは、エイブラムが、お前の言う真実を暴いてくれる時よ」
「ご明察。察しが良いな。そうだよ、エイブラムに手を貸すつもりはない。しかしヤツが私の求める真実を明かしてくれるのであれば、私はその場に赴いて真理を暴こうと思っている」
「私たちに協力しろ、ないしお前に利用されろと言いたいのね」
「つまるところ、そういうことだな。ライオネルを取り返す際に私の指示に従うという約束をするのならば、私はお前の魔導炉を復活させてやろう。魔導結晶を使わずにな」
「魔導結晶を使わなくてもできる、と?」
「そもそも、魔導結晶では魔導炉を復活させることはできない。あれは魔導結晶を身体に埋め込み、魔導炉の代替品として使う強引な方法だ。今は魔導炉そのものを復活させることができる。もちろん、魔導結晶を組み込んで、擬似的に魔導炉を増やすこともできるがな。どうだ、魔導炉、戻してほしくはないか?」
悪い話ではない。どちらにせよライオネルは助けるつもりだ。それにはエイブラムやその他の勇者と戦う必要があり、そのためには魔導炉を復活させなければいけない。
しかし彼女の言い分を一方的に信じるのか、と言われるとまた難しい。鎮事府が無人で、しかもこの世界が機械によって保たれているなど信じられるような話ではない。
「その話、ありがたく受けさせてもらいましょう」
セレスティアの言葉に、誰も逆らうことはなかった。最初から魔導炉を戻すことが目的であり、最終的にライオネルを奪還できるのであれば一石二鳥だからだ。セレスティアも眷属たちもそれを望んでいる。それならば文句など出るはずがない。




