十一話
小規模集落を転々としながら、二人はグランゼニアへとたどり着いた。口を開けばケンカになるとわかっているから、どちらも会話をしようとしなかった。泊まる宿や食事はアーサーが全て決めた。口にはしなかったが、彼は間違いなくこう思っていただろう。「早く仲間を見つけよう。そしてセレスティアを早く渡そう」と。荷物をなんとかしたくて仕方がない。この荷物が厭わしくて仕方がない。そんな顔を見ていられず、セレスティアは目を背けることしかできなかった。できないままで、グランゼニアまで来てしまった。
五日かかった。見つけた集落へと寄り、情報を集めてここまでやってきた。魔導結晶を生成できる、グランゼニアに住んでいる、という二つの情報を提示しただけで、集落の人間たちは「ハリエット=グランヴィルさまだ」と口を揃えて言った。
たどり着くまでに五日を使ったのは、情報を集めながら、慎重に慎重を重ねて動いたからだ。飛行機を落とした者の正体がわからない以上、迂闊に動くことは死を意味する。周囲を気にしながら、神経を少しずつすり減らしながら、ようやくグランゼニアにたどり着いた。
「目的の場所には着いた。さっさとハリエットを探すぞ」
「……うん」
「またウジウジと……お前の従者たちはお前のためにここまで来たんだぞ。俺だって飛行機を壊された」
「わかってる、ごめんなさい」
アーサーは奥歯を強く噛み、何度か地団駄を踏む。その行動の意味はセレスティアにもわかっていた。でも今の彼女は「ごめんなさい」しか言えなかった。
グランゼニアは小中規模集落の集落四つが集まってできた場所。大規模集落ほどの大きさと経済力がありながらも、大規模集落としては認定されていない。あくまで集落群であり、グランゼニア国境集落というのが正式な呼び方になる。
グランゼニアに入っている集落は五つあるが、そのどれも集落に名前がない。それも踏まえ、ここ数年で出来た集落群であることがうかがえる。
五つの集落を囲う、背の高い鉄の壁。入り口の門は非常に強固であり、中に入るのも証明証がいる。その証明とは勇者の証や魔王の証、つまり勇者の腕輪であったり魔王の指輪であったりする。普通の民衆は、魔導力制御装置である首輪で認証を行う。門番が持つ太い警棒のようなもので腕輪や指輪に触れる。するとパーソナルデータが表示される。その技術にも感嘆するが、グランゼニア内部に入ってまた驚く。
小中規模の集落が集まっているはずなのに家は木造ではない。正確には、木造なのかもしれないが、外壁に壁紙を張っているようだ。白や灰色が多い。中には赤や青という壁もあるが、やはり淡色が目につく。
馬車よりも魔導車がたくさん走っている。地面はコールタール、大規模集落にしかない信号なども目を引く。近代化が進み、機械や科学が浸透して時間が経っていた。
集落の人間から話を聞き、中央にある一番大きな集落、その南にある大きな屋敷に住んでいるということがわかった。グランゼニアを回る魔導バスに乗り、二人は近くのバス停で降りた。
爆発の中でも残った荷物、リュック二つを持ってハリエットの屋敷を目指した。
無言で歩き続け、その間にもハリエットの屋敷がどこなのかを聞きながら足を動かし続けた。そして二十分ほどして、屋敷の前に到着した。
大きな門構え。見上げるほどに高い鉄格子に囲まれた大きな屋敷が向こう側に見えた。
門に備え付けられたチャイムのボタンを押す。カメラがついているようで、内部でレンズが動いていた。
『はい、こちらグランヴィルさまの屋敷でございます』
「ハリエットに会いたい。お前はメイドか? それなら言伝を頼む」
『承りましょう』
「俺はアーサー、こっちがセレスティアだ。ウェストレリックからやってきた。魔導結晶についての話を訊きたい」
『わかりました。少々お待ちくださいませ』
アーサーに任せたのは間違いだった。そう思いながらも、自分ならばもっとダメなんだろうとも思った。上手く会話出来ない。上手く思考をまとめられない。だから、ぶっきらぼうであっても彼に任せるしかなかった。
けれど、そんなアーサーの言葉にも丁寧に対応するメイドは、こういう展開に慣れているのかもしれない。
「ゴゴゴッ」と音をさせて門が開く。
『お入りくださいませ。屋敷の入り口で待っております』
客人への対応ではないが、これもまたハリエットの指示なのだろう。
舌打ちをして「納得がいかん」というアーサー。しかし今はメイドに従うしかない。
敷地の中に足を踏み入れる。左右に木々が生えている、曲がりくねった通路を進んだ。
普通の人間一人二人では運べないであろうクリスタルがたくさん転がっている。小さな池や、キレイな模様が描かれた砂利の砂場などもあった。
「金持ちがやることはよくわからんな」
と、アーサーがまた舌打ちをした。
進み続けて五分後、屋敷の入り口が見えてきた。メイドが直立し、入り口に着くまで微動だにせず二人を待っていた。
「ようこそいらっしゃいました、セレスティア様、アーサー様」
「こちらこそ、アポイントもなく押しかけた形になって申し訳ありません」
「問題ありませんよ。ハリエット様は寛大であらせられますから。それではどうぞ」
ここだけは、魔王として対応しなければならないと思った。歩いている最中に考えたセリフがちゃんと口から出た。胸をなでおろしながらも、案内されるままに屋敷に入った。
大きな屋敷の中を進んでいく。沢山のドアを横目に、メイドのあとについて歩く。そして、突き当りの大きなドアの前で立ち止まった。
「こちらです」
メイドがドアを開き、セレスティアたちはその中へと入った。
ガランとした大きな部屋。中央にはテーブルがあり、テーブルを囲うようにして四つのソファーが並んでいた。
「ようこそ、セレスティア=ウォルト=クロムウェル」
正面のソファーに座っている少女がそう言った。顔立ちは幼く、体つきも、おそらくは大人のそれとは言い難いだろう。けれど腕を組むその姿は堂々としていて、少女と形容していいのかわからなかった。
「どうした、こっちに来い。話したいことがある」
彼女の言葉に、少しばかりの引っかかりを感じた。しかし今はそんなことを言ってはいられない。
最初に動き出したのはアーサーだった。また、彼の後ろを追うようにして歩き出した。
「そこに座れ」
向かいのソファーに腰掛けた。
少女は脚を組み直した。頭の天辺から脚のつま先までをまじまじと見つめられた。
少女はとても美しく、白銀の長い髪と赤い瞳。幼い顔立ちに似合わぬ鋭い目付きが特徴的だった。
「まず、お前たちの要件を聞こうか」
若干だが、間が空いた。態度が大きいだけではない、その態度に見合うだけの威圧感があったからだ。




