八話〈クロスオーバー:セラ=ブラウニング〉
シャロンが落ちていくのは目視していた。しかし彼女を追うだけの余裕などなく、セレスティアを守るだけで精一杯だった。
セレスティアを連れて飛行機の前方へと移動するも、途中で機体が折れてセレスティアは前方へ、自分は後方へ。
機体は砂山へとぶつかり、そのまま身体が投げ出されてしまった。セレスティアがいる機体の半分は遠くへと行ってしまった。セラが持っている魔導炉では、こういった状況に対処できるような魔法は使えなかった。
歯がゆい思いをしながらも、けれど今は自分の身をなんとかしなければいけない。
それを助けたのがヴェロニカだった。〈地盤創成〉で地面を隆起させて強引に着地させたのだ。正確には空中でセラを引き寄せ、ヴェロニカが着地したのだ。
着地した先は森の中。〈地盤創成〉のせいで若干地形は歪んだが、右も左も木々が生い茂っていた。
「お嬢様は?」
ヴェロニカに下ろしてもらったあとの最初の言葉がそれだった。自分の身体の心配でもなければ、でもヴェロニカの身体の心配でもない。それがセラらしいと思ったのか、ヴェロニカは微笑みながら腰に手を当てた。
「わからないわ。砂山にぶつかってから、結構前方にふっ飛ばされたみたいだし。一応アーサーがいると思うから無事だと思いたいけど」
「そう、なら大丈夫……だと思いたいですね」
あのアーサーとセレスティアが一緒、という部分には不安しかない。けれど今は信じる以外の道がない。
「こちらはこちらで目的地を目指すしかなさそうね。目的地なら間違いなく合流できる」
「そうですね。念話も通じませんし、予想外に離れてしまったようですし。ケガはありませんでしたか?」
「私は大丈夫。セラは?」
「私もです。そう言えばこの組み合わせは珍しいですね」
「確かに。でも私は悪い気分はしないわ」
「命をかけて戦ったから、ですかね」
「そうかも。でもセレスティアの眷属の中で、私はアナタを一番評価してるから」
「私を? 眷属の中では弱い方ですし、特徴という特徴もないと思うのですが……」
「頭がいい。冷静でいられる。一番年下なのに、一番しっかりしてる。だからこその危うさがある。そこもまた味がある」
「なんか、少し気恥ずかしいですね。こういう話も嫌いではありませんが、今は先を急ぎましょうか」
「そうね。まずは集落を探しましょう。地図はある?」
「はい、こちらに」
はぐれてしまったが、物事を俯瞰できる二人だからこそ冷静に立ち回れる。二人で地図を見ながら、飛行機からの景色などを思いだして現在地を割り出す。そして、集落を求めて森の中を歩き出した。
日差しが強く、地面からの照りつけもかなり強い。セラの特性を上手く使い、二人の周りを冷気で覆う。
「それ、結構便利よね」
「こんな時くらいにしか使えませんよ。でも使える特性でよかったとは思います」
「確かにね」
会話は少なかった。けれど空気感は悪くない。お互いに無口であるのをわかっているから、理解した上での沈黙だった。
三十分ほど歩き、集落が見えてきた。近くて助かったと安堵の息を漏らした。
「あのお……」
どこからともなく声がした。声色は幼く甲高い。後ろを振り返ると、自分と同じくらいの背丈の少女がいた。声の主だろう、声色と同じように見た目も幼い。小さな顔、ツンと上を向いた鼻や大きな目、誰が見ても美少女だ。が、顔色はあまりよくない。眉はハの字になり、具合が良くないのだとひと目でわかった。
白と青のフリフリの洋服、けれどスカートなどはあまり膨らんでいない。
セラは「動きやすそうだな」と素直に思った。戦闘向けかと言われると微妙だが、歩いたりするぶんには問題はなさそうに見える。
「なんでしょうか、私たちに用事ですか?」
「はい、あの集落まで連れていってはもらえないでしょうか……」
「集落はすぐそこですが?」
「お腹が減って、これ以上歩けません……」
そう言いながら彼女がへたり込んでしまった。
唖然とするセラとは対称に、ヴェロニカは口を抑えてクスクスと笑っている。気がつけば「いいよ、行こうか」と彼女の手を取っていた。
ヴェロニカが少女を背負い、再度歩き出した。
彼女の名前はヘレン=グルーシュ。グランゼニア国境集落の出身であり、叔父の家に行った帰りだと言う。
彼女の名前を聞いた時、セラが顔を曇らせた。ヘレンにもヴェロニカにも心配されたが「問題ない」と一蹴した。
いろいろと話を聞いていくうちに、そのグランゼニア国境集落が目的地だということもわかった。飛行機に異常が起きる直前まで情報を収集していたのだが、グランゼニア国境集落という場所に目的の人物がいることを知らなかった。サウスレリックの最南端という情報しか得られなかったからだ。魔導結晶自体が過去の遺物のような扱いを受けているため、魔導結晶を主軸にして情報を集めようと思ってもなかなか集まらないというのが原因だった。
「グランゼニアに魔導結晶を作れる人がいると聞いたのですが知っていますか? 確かハリエット=グランヴィルという名だと思うのですが」
「はい、知ってますよ。それならば案内もできるでしょう」
「それならグランゼニアまでは私たちが護衛をします。その代わりに貴女が私たちに案内をする。これでよろしいでしょうか?」
「問題ありません。よろしくお願いしますね」
ヘレンが微笑む。屈託のないその笑顔は、どことなく育ちの良さをうかがわせた。
ハリエットの名前は、あの飛行機に乗っていた全員が知っている。事故が起きる直前に見つけ、セラが全員に教えていた。この名前も魔王ネットワークの過去ログを漁った結果で、飛行機の中で見つけた名前だった。
しかし、ハリエットがどんな功績をあげていたのか。なぜ魔導結晶を作れるのが彼女だけなのかはわからなかった。
集落に到着して宿をとった。宿代はヘレンが払ってくれた。
宿泊するのは小規模集落で、牧畜を中心にして生計を立てている。集落を中心として柔らかな草が生える広大な草原が広がっていた。
セラは部屋の窓から、ぼーっと外を眺めていた。そして風に揺られる草を見て物思いに耽っていた。
彼女が生まれた小規模集落もまた牧畜を中心にしていたからだ。懐かしさを覚えるのも一つ、しかし憎い気持ちもまた一つ。姉と自分と妹を売った両親がいた場所に似ている。それがなによりの理由だった。




