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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
【魔王の資格】〈セレスティア=ウォルト=クロムウェル〉
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七話

 朝には中規模集落アーグルを離れて目的地に向かう。身体も回復し、魔獣たちを倒すのも、食糧を探すのにも参加した。この周辺は魔獣が多いらしく、魔導車で数分走れば魔獣に遭遇する。ガルムやガーゴイルのような下級からキマイラやラミアなどの中級まで。強さはそれほどでもないが数が多い。


 数日ではあったが、ノーム盗賊団にはだいぶ溶け込んだ。レベル的に大差がないのもあるだろう。ヘラヘラと勇者生活を送っていたわけではないのはすぐにわかったが、ここまで手練が揃っているものなのかという驚きさえあった。


 ノーム盗賊団は盗賊団としては少数人数だ。その少数全員が強い。けれど、回復や治療をするような者が一人もいない。


「ねえゲレオン」

「どうした? なんか見つけたか?」

「そういうんじゃないんだけど、ちょっと訊きたいことがあったから」

「おう、なんでも訊いてくれ」

「私が落ちて来た時って、落ちてきてそのまま地面にぶつかったの?」

「まあそうだな。森の中だったから木に何回もぶつかったんだろうよ、骨折もなくかすり傷程度で済んでたぞ。お前の魔導力もすげーんだな」

「あ、あははは、身体だけは頑丈だから、私」

「頑丈そうに見えるわな。俺らが介抱しなくても自分でなんとかしそうだ」

「そんなことはないわ。アナタたちがいてくれてありがたかった。仲間たちとも離れちゃったし心細かったの。こうみえてナイーブなのよ?」

「ナイーブ……?」


 ガレオンが顔をしかめた。周囲で話を聞いていた団員たちも「嘘だろ……?」みたいな顔でシャロンを見ていた。


「おい! 私のことなんだと思ってんだ! 散れ散れ!」


 手で団員たちを追い払う。ガレオンは「がーっはっはっはっ」といつものように豪快に笑っていた。


「面白くねーから!」


 なんて言いながらも魔導車に乗り込んだ。すぐにガレオンが運転席に乗り込んでくる。


「いやー悪かった。そうむくれるなよ」

「別にむくれてないけど。私はどこに行っても女扱いされないから慣れてるし」

「そんなこたぁねーよ。みんな「美人が来た!」って喜んでたんだぜ。最初は」

「その最後のいらないんだよなぁ……」


 なんて言いながら腕を組む。


 が、悪い気はしなかった。


 魔導車はグランゼニアに向けて走り続けた。


 直行はせず、近くの中規模集落の周辺にテントを張る。いつも通りだな、とシャロンも手伝うことにした。


 いい空気だ。雰囲気がよく、この集団の中にいればさぞ居心地がいいだろう。このままここにいることはないだろうが、皆で楽しく話しをして、皆で楽しく食事をとるのは悪くない。


 だからこそ、どこかでこの気持ちを断ち切らねばならなかった。


 一夜明けて皆が起き上がってくる。ゲレオンもまた、眠気眼をこすりながらテントから出てくる。


「おうシャロン、今日ははえぇな」


 後ろを振り返ってゲレオンを見た。シャロンは身支度を整え、いつでも出発できるような装いだ。


「ええ、そろそろ傷も癒えたから。ありがとうね、いろいろと」

「礼なんぞいらん。困った時はお互い様ってな」

「違うでしょ? それが、アナタたちの仕事だからやったんでしょ?」


 彼の頬が若干引きつる。が、それでも笑顔は絶やさなかった。


「仕事? 俺たちには決まった仕事なんてねーんだぜ? そりゃお前だって知ってるだろうが」

「そうじゃない。決まった仕事がないから、こういう仕事も引き受ける。アナタだけじゃない。他のみんなもね」


 ゲレオンは目を閉じ、深く息を吐いた。


「いつからだ」

「正直、二日目からちょっと気にはなってた。全員が戦う姿を見たし、全員の得意な魔法なんかもよくわかった。でもね、回復や治療がメインの勇者が一人もいない。私が上空から落ちてきて地面に激突した場合、私の身体はただじゃすまない。私が最後に受けた攻撃は魔導力を打ち消すタイプの攻撃だったから強化もほぼ無効化される。つまりあの高さから落ちたら骨折の一つや二つじゃ済まないのよ」

「それは木がクッションになって……」

「あの森の木は背が低い。あの木々がクッションになったところで衝撃吸収材にはならないわ。私は地面に激突、でも傷は浅い。治療に秀でた人もいない。たぶん、アナタたちが私を受け止めたんでしょう」

「それだけの状況証拠でよくもまあ、断言できたものだな」

「本当にそれだけだと思う?」

「まだなんかあるのか?」

「私は自分の仲間が何人か話してない。なのに「大所帯じゃないんだから」ってアナタは言ったの。なんで私の仲間の人数を知ってるの?」

「それは、その、あれだ。人数が多けりゃこんなことにもなってねーだろ?」

「飛行機で飛行中に攻撃されて落ちた、としか話してない。飛行機で移動せざるを得ないという部分から見れば人数が多くてもおかしくはないでしょう? 私は急いでいる理由も話してないわけだし。そもそも私たちは急いでいない。単純に時間がかかるから飛行機で移動しただけ。早く移動することが目的なんじゃなくて、時間がかかるのが嫌だから飛行機をつかったの。そこまで話してないから、ゲレオンの話は憶測によるもの。でも憶測にしては断言しているようにも見える。つまるところ、アナタは私が知らないなにかを知っている、可能性があるのではと思ったの」

「お前、良く見て良く聞いてるんだな」

「情報なんてのは本人の心持ち次第でどうにでもなるのよ。それを世間話と捉えるのか、または情報として捉えるのかは人次第、心持ち次第。アナタたちが優しかったのは間違いないけど、今まで住んでいた土地と違う場所に来たんだから、気を張っていろいろと考えるのも当然でしょ?」

「お前を従える魔王ってのはさぞすげーヤツなんだろうな」

「いろんな意味で凄い人だとは思うわ。今はその、なんとも言えないけど。で、誰の差し金なの? アナタたちに立場から考えると上級の勇者?」

「答える義理はねーんだが?」

「そう? なら、口を割らせるだけなんだけど」


 背中に携えたハンマーに手をかけた。同時に重心を下げる。


「やめろって、ちゃんと言うから」

「あら、予想以上に口が軽い」

「言うな、とは言われてない。バレなきゃそのままだし、バレたら言うしかねーだろ。ほら、敵意をしまえよ」


 納得はしていないが仕方ない。ハンマーの柄から手を離して姿勢を正す。


「俺というか、俺たちは元々盗賊団じゃない。一人ひとりがただの勇者でしかなかったんだ。俺たちの元にある人が来てな、金を払うから雑務を引き受けてくれって言われたんだ。勘違いしねーで欲しいんだが、それは今に始まったことじゃない。五年前くらいの出来事だ」

「その人が私のことを依頼したって?」

「そういうことだ」

「悪いけど、たくさんの人を雇えるような裕福な知り合いはいない。特にサウスレリックになんてなおさらよ」

「一人だけいるんだよ。お前らがその人のことを知っていて、その人もお前らのことを知っている。その人の名前は――」


 名前を聞き、目を見開いた。聞いたことがあるだけではない。なぜ、どうしてこうなったのか。それが理解できなかった。

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