六話
盗賊たちはシャロンの素性について、深く突っ込んでくることはなかった。指を見れば魔王の従者だとわかるし、なによりもシャロンの性格が明るく大らかだったためだ。特に深い話をしなくても「人同士の会話」は成立する。それ以上に気遣われていることに、シャロン自身が気付いていた。とてもありがたく、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
初日にはわからなかったが、盗賊たちは皆勇者のようだった。これもまた、昔世話になった盗賊団と重なる。そう、シャロンは一時期勇者であった。だからこそわかることも多い。
そんなゲレオンたち盗賊団だが、一つだけ訊かれたことがある。それは「どこに向かっているのか」というところだった。隠しても仕方がないと「グランゼニア国境集落」であると話した。正確にはグランゼニア、とは言わなかった。それは、その集落がグランゼニアと呼ばれていることを知らなかったからだ。「この場所だ」と言って始めて、ゲレオンから教えられた。
グランゼニア国境集落。規模は中規模集落であるが、魔法研究者が集まる特殊な集落。しかし鎮事府の管轄ではなく、あくまで個人が集まってできた。だからこそ特殊なのだ。
そこからはすんなりと話が進んだ。盗賊団はシャロンに協力してくれた。グランゼニアに向かうと言ってくれたのだ。
最初は拒否したものの、傷が完治するまでは俺たちが守ってやると言われた。こういうお人好しを何人も知っている。だから「ありがとう、よろしく」としか言えなかった。こういう輩は得てして引き際を知らない。
ノーム盗賊団の団員たちには、自分がウェストレリックから来たこと、魔王の従者であること、そして魔王たちとはぐれてしまったことなどを伝えた。さすがに事情を話さないわけにはいかない。
盗賊団の皆は勇者であったがあまり気にしてはいないらしい。これはどこに行っても同じようだ。勇者と魔王は敵対する存在のように見えて実はそうではない。確かに敵対する者同士もいるが、それは「個人同士の諍い」の延長線である場合が多い。そのためまったく知らない勇者と魔王ならば「どうも」と挨拶をする程度でしかない。当然、勇者は月一回の魔王討伐には向かうだろうし、魔王はそれを待ち受ける。だがそこに憎しみや諍いは存在しない。すること自体がまれだった。それをわかっているからこそ、盗賊団もシャロンも普通に接することができる。
森を抜け、草原を抜け、中規模集落にやってきた。サウスレリックでも弱い魔獣ばかりの場所なのでかなりのどかな場所だった。大きさは中規模なのだが、半分は酪農がメインで、もう半分は工業がメインだ。チグハグに見えるような構成だが上手くやれているようだ。工業独特の廃棄物も、酪農に影響が出ないようにと遠方で処理される。
中規模集落アーグル。その付近にテントを張り、必要な食べ物などは買いに行く。ノーム盗賊団は、紛うことなき義賊だった。
周辺にテントを張らせてもらい、他の盗賊や魔獣から集落を守る。サウスレリックでは当たり前の光景だと教えてもらった。
ウェストレリックでも同じようなことをしていたが、ウェストレリックではそれが異端だった。だからなおのこと、それが普通であることに驚いた。
「ねえ、グランゼニアにはあとどれくらいで着きそう?」
酒場でゲレオンと向かい合う。男としては見られないが、父や保護者としてならばとても頼りになるとここ数日でよくわかった。
「このままのペースでいけばあと二日ってとこだな。うちの魔導車はボロだが頑丈だ。本来なら走りっぱなしでも大丈夫。でも大所帯だからそれはできないって感じだ」
「走りっぱなしなら?」
「一日日で着く」
「じゃあ結構近くまで来てるんだ」
「そうだな。距離はよくわからんが」
「地図から逆算するとかあるでしょうに……」
「俺がそんなことすると思うか?」
「いや、しなさそう」
ゲレオンが「がーっはっはっはっ!」と豪快に笑った。
ぐいっと、彼が木製のジョッキの中身を飲み干した。すぐに新しい物を注文するあたりがまた彼らしい。
「お前、すぐ眉をハの字にするな」
「私? うーん、意識はしてないんだけどね」
「やっぱり仲間のことか」
「でしょうね。心のどこかで不安に思ってるのよね、きっと。ノームの連中が嫌いだとか、そういうわけじゃないんだ。むしろ居心地がいい。昔を思い出す。逆に昔を思い出すから辛いのかもしれないけど」
ここ数日の間で、仲間たちのことや自分の過去を少しだけ語った。ノーム盗賊団全員がシャロンが盗賊だったことを知っている。
「心の傷はそう簡単には癒えねーよな。それは仕方ねぇさ。だがな、ここはお前がいた盗賊団とは違う。その辺を飲み込めるようになれば一人前だ。できないようじゃまだまだガキだ。ま、仲間と合流するまでは一緒にいてやるさ。そんなに大所帯じゃねーんだ、すぐに集まるさ」
「ええ、ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわ」
その時、少しだけ違和感を覚えた。なにに対しての違和感なのかまではわからず、気のせいだということで落ち着いた。本当に、そこに落ち着いて良かったのか、という疑問はある。しかし、今のシャロンには「自分に対しての疑問」を精査するだけの余裕はなかった。




