三話〈ビューポイント:シャロン=カーティス〉
「お前らをぞろぞろ連れて歩くなど考えられん」と言うアーサーの言葉もあり、魔導飛行機はアーサーとヴェロニカが二人で城まで持ってきた。当然のようにシャロンは「ふざけんな」と吠えたものの「アーサーの協力がなければ魔導結晶を作れない」などとセラに言われてしまえば、それもまた当然のように引き下がるしかなかった。
城の屋上に飛行機が着陸した。大きさはそこそこ。十人乗りということもあり、五人で旅をするには十分。簡易ベッドもなどもあるので機体が大きくなってしまったのかなとセレスティアは思った。
「さっさと乗れ。荷物も一緒にな」
偉そうなアーサーを尻目に、女性陣がどんどんと荷物を積み込んでいく。着替え、ティッシュや洗剤などの消耗品、多めに用意したお金、布団に枕、書物に食材に水に。
「おいおい! そんなに積み込むのか!」
「大きいんだからいいでしょ? 使う物なんだから」
一度手を止め、シャロンが反撃に出た。
「金を持っていくなら消耗品など町に寄って買えばいいだろう」
「飛行機の中で使うだろ? それに着陸できる場所があるとも限らないわ。だったら事前に用意しておくのは当然」
アーサーとヴェロニカが飛行機を取りに行っている間、セラとシャロンが買い物に走った。そしてこの大荷物になった。
アーサーとシャロンが言い合っている間もセレスティアは俯いたままだった。
飛行機に乗り込み、アーサーがとヴェロニカが運転席に座った。アーサーがメインで操縦、ヴェロニカが副操縦士としてサポートする。他の三人は後ろの方の席に座った。
セラとシャロンがテーブルを挟んで作戦会議をし始めた。が、セレスティアは窓の外ばかりを見つめていた。
「なあ、どうするよ、あれ」
少し離れた場所で、シャロンがセラにそう言った。親指でセレスティアを差している。
「どうするもこうするもありませんよ。時間が解決してくれるのを待つしかありません」
「時間が解決すると思うか? 私たちはお嬢の魔導炉を復活させるために飛行機に乗ったんだぞ? お嬢がやる気になってくれなきゃどうしようもないだろ」
「それは正論です。でも、今はそっとしておいた方がいいでしょう」
「そっとしとくってお前なぁ……」
「ただただ見守るわけではありません。様々な方法でアプローチするつもりではいますよ。その時ではないだけで」
「様々な方法って具体的にはなによ?」
「そうですね、お嬢様は今単純にやる気がないだけなんだと思います。悲壮感ではなく喪失感が大きい。悲壮感がなかったわけではありませんが、きっと最初だけでしょう。だから無表情でずっと外ばかり見ているのです。なにも考えたくないであろう今の状況ではなにを言っても意味がない。もう少ししたら、ライについての情報を徐々に出していきます」
「そんな情報あるならさっさと寄越せや」
「正確にはライの情報ではないのです。あまり同士を作ろうとしなかったブラッドフォードが、なぜこのタイミングで従者を増やしていたのかが引っかかっていました。それもきっとエイブラムの指示によるものです。ではエイブラムが勇者を増やした理由はなんでしょう。ライのような魔王の従者を勇者にまでしてなにをしようとしているのでしょう」
「そんなことわかんないわよ。わかったら苦労なんてない」
「でしょうね。私も正確なことまでは掴めてはいません。でも魔王ネットワークにはその情報がいくつも上がっています。エイブラムがなにかを企んでいると。そしてその相手が魔王ではないということも」
「待て待て、なにかを企んでいるのはいい。でも相手が魔王じゃないってどういうことだよ。勇者は魔王が邪魔なんだ。魔王なんていなければ、勇者はずっと悠々自適な暮らしができたんだから。じゃあなにかを企むとすれば魔王に対してだろ?」
「逆に聞きますが、その魔王と勇者の関係やシステムを成形したのは一体どこのだれでしょう」
「そりゃ鎮事府の連中だ。鎮事府が作って、勇者、魔王、民衆の三つに人々を分けた」
「つまり、そういうことなんですよ」
ハッとして、思わず前のめりになった。
「ヤツらの狙いは鎮事府か……!」
「まだ推測の域を出ません。魔王ネットワークも完璧でなく、情報の中には眉唾なものも多い。でも「勇者が鎮事府を狙っている」という情報が多数見られます」
「勇者が鎮事府を狙う、それ自体は不思議じゃない。じゃあなんで今までやらなかったんだ? 四光の後継者なんて今まで何人もいたはずだ。なぜ、どうしてこのタイミングなんだ」
「そこまではわかりません。しかし、推測をすることならばできます。なんらかの条件が揃うのを待っていたと考えればかなり自然。元々四光は鎮事府に歯向かう際に、勇者の頂点四人に与えられた称号のようなものです。与えられたというか名乗ったと言う方が正しいかとは思いますが。一番最初に四光が誕生した時は、鎮事府が新たに用意した魔王システムによって防がれてしまった。そこからは勇者と魔王の関係により、勇者は常に戦闘を強いられることになったのです。レベルを上げなければいけない、魔王と戦わなければいけないなどですね」
「あー、なるほど。一週間で一レベル上げろってのはそういう意味があったのか」
「おそらくですけどね。レベルが上がればそれだけ次のレベルまでの経験値が多くなるため、そう簡単にレベルを上げるのが難しくなる。自分に適したレベルの魔獣を狩り、レベルを上げていかなければ勇者としてはやっていかれない。それならば戦い続けるしかない。必然的に鎮事府へ攻撃を仕掛けるだけの余力がなくなります」
「それを聞くと、私たちもそうやって使われてきたんだなって、なんだかイヤな気持ちになるわね……」
「正解かどうかはわかりませんよ? 私は今まで見てきた情報や古い書物からの情報から推論を立てているだけですから。ただし、そう考えるのが自然なのでは、とは考えています。勇者たちはそういう経緯があった上で、行動を起こすに値する「なにか」を得た」
「それをいつお嬢に言うんだ? その「なにか」を奪う、ないしぶっ壊すために立ち上がれーって感じにもってきたいんだよな? かなり難しそうなんだけど?」
「私もそれは思いました。でもこれしかないんですよね。その「なにか」がライであった場合なのですが」
「はあ? お前、マジで言ってんの?」
「正確にはライの賜法です。というか、あの流れだとそうとしか考えられない」
「ブラッドフォードがたくさんの同士を従えてて、エイブラムが直々に出向いてライをスカウトした。確かに、なぁ……」
「時間を止める能力自体はたくさんの勇者や魔王が使えるでしょう。でも、ライの時間を止める能力はたぶん、ちょっと違うんですよ」
「ちょっと違う……?」
「ええ。いや、これはもう少しだけ私の中で固めてから話します。それまでは放っておいてください」
「おま、その言い方さぁ……」
「私らしい、とは思いませんか?」
人差し指の第二関節を下唇に当て、セラが穏やかに微笑んだ。それを見たシャロンは「アホか」と言いながら苦笑いを浮かべた。




