十話
セラが調べた情報によると従者の数は六人。アーサーの前に現れたのが四人で、アナベラは簀巻にして置いてきた。なので残り二人の存在がかなり怖い。が、自分より強い人間を同志にするとは思えないのでブラッドフォードさえなんとかなれば問題なさそうだと結論付けた。
ブラッドフォードの魔導炉は十、賜法は三つ。
〈光源改修〉は半径ニキロの光の屈折を自在に変化させられる。魔導特性は光輝、空間、照射、従属、加減。
〈敵影複製〉は戦いの中で得られた情報を元にして相手を複製する。魔導特性は光輝、照射、理解、従属、精神、投影、模倣。
〈自尊空間〉は自分を中心にして二十立方メートルの空間を生成し、自分以外の人間の性能を五分の一にする。制限時間は十分とのこと。魔導特性は理解、精神、照射、衰退、加減、空間。
同志の情報は少なかったが、いずれも賜法は一つだけだという書き込みがあった。
それらを踏まえた上での作戦を立て、俺とセレスが最初に突っ込むことになった。
アルメンテとは目と鼻の先、目測百メートルのところまで近付いた。辺りはまだ明るいが、俺たちは森の中なので視覚的にバレることはないはずだ。北側に俺とセレス、東側にセラとシャロン、南側にアーサーとヴェルというふうにして配置についた。
なぜ俺が先陣を切るのかと言うと、そりゃ俺が時間を止められるからだ。時間を止めてブラッドフォードと同志を引き剥がす。あとはアーサーたちに任せるという簡単な作業。簡単ではあるのだが、これが上手くいくかはわからない。
「どうだ、他のヤツらは」
「大丈夫、準備もできてるみたい。十秒後に行くわ」
「おーけー」
念話を終了させたセレスが身をかがめる。先頭が俺、後ろからセレスがついてくる形をとる。俺がブラッドフォードを抑え、セレスが周囲の人間をなぎ倒すというのが理想だ。セレスは時間を止められないので、俺とは距離を取ってもらうことになっている。
「三、ニ、一、行きなさい」
「イエス、マイマスター」
返事はしなかった。俺が全力で突っ込めば、彼女は勝手についてくるだろう。
百メートルならば全力でも最速で一秒、ただし初速が遅くなってしまうので二秒近くはかかるだろう。
木々を避けなくてもいい位置を選んでいたため、走るのに苦労はなかった。
アルメンテへと突入。即座に〈世界掌握ワールドリンケージ〉を発動させる。ブラッドフォードはアーサーのように時間停止を返せない。でも一度暴れ始めれば、間違いなくアルメンテの住人は被害を被るだろう。そのためにブラッドフォードだけを町の外に連れ出す。ヤツを連れ出した後は、時間停止を小出しにしながら同志たちを倒す。
「どこだ、どこにいる……!」
ブラッドフォードの位置は探っていない。逆に気づかれてしまうと困るからだ。
酒場か宿屋が定石だと思うけど、ブラッドフォードの性格からしてそんなところにいるとは思えない。性格を理解できるほど近くにいたわけでもないし直接話をしたわけでもない。高慢でひねくれ者、というのが魔王ネットワークの情報だ。それくらいの情報しかなかったがないだけましだ。
なんて考えながらも酒場と宿屋は一応見てみる。
「いねーな」
あまり大きくはないがアルメンテは中規模集落だ。全力疾走でも三分くらいは必要になる。なので四分の一ほど見終わったあたりで一度〈世界掌握〉を解除。二秒ほど経ってからまた発動というのを繰り返す。
「どこだ、どこだよ」
いない。
「どこいった……」
民家の中にもいない。
「早くしないと」
武器屋も防具屋も見たがいない。
少しずつ頭が痛くなってきた。
「本当に」
ここにいるのかと、アーサーの言葉を疑いたくなった。
そして、集落の反対側に到達してしまった。集落の向こうは草も生えないただの荒野。広く、広く、なにもない。茶色い地面だけが広がっている。
後ろを振り返ってもなにもない。膝をついて三度深呼吸をした。
「苦労したみたいだな、ライオネル=アークライトよ」
前方、つまり荒野の方から聞こえた声に顔を上げた。
時間を解いて数秒しか経ってない。それなのに、目の前にブラッドフォードが現れた。どうやって出てきたかはわかってる。光源改修で自分の姿を隠していたんだ。でも、それがわかってるから時間を止めながら進んできたんだ。
「不思議そうな顔をしてるな。この状況が理解できないか。それもそうだよな、時間を止めれば光源改修を「ほぼ」無効化できるはずだったんだもんな」
「なんでそれを知ってんだよ……」
「そういう作戦だろうって読んでたからだよ」
「読んでたっていつ来るかわかんなきゃ無理だろ。いくら勇者でもずっと賜法を使い続けるなんてできないはずだ」
「そうさ、だからいつ来るかわかってたんだ。アーサーとヴェロニカの二人から、お前たち従者が来て五人になった。その後魔王が来て六人になって、それからいろんな話をしてからここに来たな。たしか、十分で情報を集めるとかなんとか?」
「なんでそんなことまで知ってんだよ……! お前、なにしやがった!」
「なにをしたって、当然話を聞いてただけさ。俺の同志たちが、な」
「同志たちって、アナベラを含めて六人いる同志か」
「お前たちは浅はかだな。その情報はちょっと古い。今俺の同志は――」
ブラッドフォードが右手を上げると、彼の後ろの景色が歪んでいく。
「すでに七十を超えてるんだ」
俺の視界を埋めるたくさんの人々。鎧を着ている者、ローブを羽織る者、露出が高い者、顔を仮面で隠している者。その他、大勢。
「なんだよ、それ」
「ちなみにここにいるのは三十人くらいだ。町の住人に何人か忍ばせておいたからな。ほら見ろよ、お前の後ろからも俺の同志たちが歩いてくる」
顔だけで後ろを見れば、何人かの勇者たちが歩いてきていた。村人と同じ格好をしているから勇者かどうかはわからない。でもこのタイミングで出てくるのはブラッドフォードの同志しかいない。
「アナベラが捕まったのはわざとだ。アナベラの他にも何人もの勇者をあそこに置いてきた。そう、お前たちを追いかけていたわけではない。森の中に置いてきて、お前らがこちらに来る時に連絡を入れさせた。だからわかった」
ヤツは鼻を鳴らし、腕を組んだ。
「さて、魔王と従者三人で同志を引き受けるんだったな。で、アーサーとヴェロニカで俺を倒す、と。無理だな。同志を引き受けることも、俺を倒すことも無理だ。お前たちは自分の弱さをわかっていない」
「や、やってみなきゃわかんねーだろ!」
「本当にそう思ってるか? 奇襲しなければ七人の勇者も倒せないのに?」
「うっせーよ……」
「まあ、強がりを言っていられるのも今のうちだな。おい、連れてこい」
ブラッドフォードが指を鳴らす。それは天高く上っていったような、それくらい透き通った音だ。
ヤツの同志数名が、女性四人と男性一人を連れてきた。
「お前ら……!」
セレス、セラ、シャロン、アーサー、ヴェルだった。
「彼女たちは悪くないんだ。お前が一人で突出したからこそ、彼女たちを脅して連れてこられた。お前が弱いことは知っている。だから「ライオネルは捕まえた。殺されたくなければついてこい」で解決できる」




