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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
勇者の資格
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九話

「待て待て、そんな強いヤツが俺たちの誰かを欲しがってるって? おかしいだろ、なんでそうなるんだよ。レベル七百なんだから、それ以上なにを望むってんだよ」

「それは俺にもわからない。だが、そういう見方をするのが自然なような、そんな気がするのだ」

「感覚でもの言われても困るんだが……」

「お前がそれを言うな。お前も十分感覚派だろうが」

「言い返せぬ」

「じゃれ合いはその辺にしてください。問題はそこではありません」

「もしもエイブラムが私たちの誰かを欲しがっていた場合の対処、ね」


 突如、凛とした声色が会話に混じってきた。


 俺は声がした方、背後を振り向いた。


「おま、セレス」

「なんて顔してるの? 私が来ちゃダメだった?」


 城の中で待っているはずのセレスだった。あんなに頑なだったのに、一体どうしたってんだ。


「お前来たくないって言っただろ」

「来たくなかったわよ。でも勇者が現れたっていうのなら、魔王の私が出向かないで誰が動くのよ」


 プイっと横を向いてしまった。この反応だけでなんとなくわかってしまった。


 シャロンは笑っている。誤魔化そうとはしているのだが肩が震えていた。


 セラは微笑んだままため息をついていた。つまり、アーサーとヴェル意外は「どうしてセレスがここに来たのか」を理解しているのだ。


 おおかた独りになって寂しくなったってとこだろう。わかりやすくてとてもよろしい。


「まあいいや、本題に入ろう。ブラッドフォードがアーサーを殺しに来ただけなら話は簡単、問題はエイブラムが関わっていた場合だ。その場合、俺たちはどうするべきだと思う?」


 セレスと目が合った。数秒顔を見合わせた後、彼女が口を開く。


「どうするもこうするもないわ。エイブラムと戦っても絶対に勝ちはない。上手く逃げ回るしかないわ」

「お前、本気で思ってんのか?」

「割りと本気よ。レベル七百の勇者を相手にしてどうするの? 従者を守るのは魔王の役目だけど私にそんな自信はない。力も当然ない。アーサーとの戦いに関してはライに助けてもらったけど今回ばかりはそうもいかないでしょう?」

「まあ、そう言われると難しいわな。太刀打ちできる相手ならいいけどそうじゃないからな。アーサーとヴェルのレベルを開放しても無理だろうな」


 負けるのは嫌イヤだし、戦ってもないのに負けを認めるのもイヤだ。でももしエイブラムがでてくれば、俺たちは頭を下げるか逃げ回るしかないと思う。


「エイブラムが出てきたら、だろ? 今はブラッドをどうにかすることを考えた方がいい」


 意気消沈する俺たちの中で、アーサーだけが妙にやる気になっている。


「それもそうだけど、ブラッドフォードだけでもかなり面倒だぞ。しかも残り三人の同志がいるんだぞ」

「一応案はある。俺とヴェルのレベルを開放すれば太刀打ちは可能だ。同志はお前らでなんとかしろ」

「ブラッドフォードの方が強いんじゃないのか?」

「だから二人でなんとかする。俺一人じゃ無理だ、賜法も解体してしまったしな。俺は賜法を練るのが苦手だから、もう一度同じ賜法を作れと言われてもできない」

「お前賜法消しちまったのか」

「ああ、使い勝手が悪かったからな。消したというか、低レベルでも扱えるように小さく使い勝手を良くしただけだ。それに他の賜法も思いついたから問題ない。で、魔王様はどうする? 俺たちのレベルを開放してブラッドと戦うか、全員で逃げるか」


 二人の視線がぶつかり合っている。どちらの眼光も鋭く、どちらも引く気がないといった様子だ。


 俺はこの会話に入ることができない。レベルを開放すればアーサーとヴェルはブラッドフォードと戦える。だから引き合いに出せる。でも俺はブラッドフォードとは勝負にならない。セレスの眷属であるからセレス以上の決定権も持たない。だからこの会話はアーサーとセレス二人のもので、なんだかそれが酷く辛かった。


「――レベルを開放すれば確実にブラッドフォードを倒せるの?」

「確率は五分五分だ。重要なのは俺とヴェロニカがブラッドと戦うことじゃない。お前らがいかに従者を引きつけておけるかだ。そのまま倒してしまっても構わないが、ちゃんと従者たちがブラッドを援護できないようにすることが重要になる。どちらかと言えばお前らの意思と強さが必要だな」

「ふぅ」とため息のようで、諦めにも似た吐息がセレスの口から漏れた。

「そこまで言うのであればアーサーとヴェロニカに任せよう。しかし失敗は許さない。絶対に成功させろ」

「誰に言っている。このアーサー=バートレットに二言はない。やるといったらやる」


 俺たちに負けて従者になったというのに、コイツはなんてポジティブな脳をしてるんだ。確かに俺たちよりも強いかもしれないが、お調子者すぎて心配になる。


「ヤツらはアルメンテにいるはずだ。どうする、すぐに行くか?」

「すぐにはダメだ。セラ、ブラッドフォードについての最新の情報は集められるか?」

「ええ、魔王ネットワークですぐに調べられますよ」

「それならば十分後に出発だ。一応対策くらいは整えておきたい」

「なぜ十分なんだ? その程度ならなくても同じだろう」

「それ以上は勘付かれる。このアナベラという女が負けたのだ、とな。アーサーが出ていってから現在までの時間を考えればその辺がボーダーラインだ。今でさえギリギリ怪しい」

「勘付かれてはまずいのか? よもや奇襲など考えてはいないだろうな?」

「よもやもまさかもない。奇襲あるのみだ。そのための対策を十分以内で考える。異論は認めない」


 セレスがアーサーを睨めつけると、アーサーも舌打ちを一つだけして引き下がった。


 彼女は正々堂々が似合う。そんなセレスが奇襲を選ぶ理由を、きっとアーサーもわかっている。彼女の魔導炉を奪ったのは、他でもないアーサーなのだから。誰もセレスに異論を唱えたりしない。勝機を上げるためにはこれしかないと全員がわかっている。俺もその一人で、一番悔しく思っているのがセレスであることも知っているから。

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