七話〈リターン:ライオネル=アークライト〉
「んで、ヴェルはなんだって?」
「どうやらブラッドフォードという勇者と遭遇、その後ブラッドフォードの同志である勇者と戦い勝利したようですね」
念話を終えたセラが表情を変えずにそう言った。
「ブラッドフォード? 聞いたこと、あるようなないような」
「ライは本当に勉強不足ですね。凶悪な勇者の情報くらいは目を通しておいたらどうですか」
「あー、魔王ネットワークか。見方知らないんだよな、俺」
「今度教えてあげますからちゃんと覚えてください」
ちなみに魔王ネットワークとは、魔導送話器で見られる魔王同士の交流の場だ。概念的な掲示板、というのがわかりやすいだろう。交流の場というか、こういう勇者がいました、こういう賜法に苦労させられました、っていうのを教え合う概念的魔法ツールだ。魔導送話器を持っているのがセラだけであるため、見たことがないのも仕方ないと思うが。
「つっても俺は魔導送話器持ってないけどもな」
「お嬢様やシャロンは私と一緒に見たことがあります。なのでいろいろとライよりも知識がありますよ」
「はい、すいません」
「素直でよろしい。で、ブラッドフォードの話をしましょうか」
魔導送話器を取り出してあれこれと操作している。片手で持てるサイズではあるが、セラの身長が小さいため機械そのものが少し大きめに見える。
セレスは窓際でお茶を飲み、シャロンは一人でテーブルゲームをしている。こういうときでもかなり自由だな。従者が勇者とぶつかったってのに。
「ブラッドフォード=オルブライト。北の大陸ノースレリックで最強と言われる勇者ですね。同士である四人の勇者もまた強く、今の私たちで相手ができるかと言われるとノーです」
「ノースレリックか。でもなんでこんなところにいるんだよ」
北のノースレリック、南のサウスレリック、西のウエストレリック、東のイーストレリック、そして中央のセントラル。俺たちがいるここはウエストレリックだが、ウエストレリックの最南端に位置しているので「偶然来ました」では説明がつかない。
「どうやらアーサーを殺しに来たらしいですよ。どうしてここに来たのかの理由はわかりましたが、どうしてアーサーを殺そうとしたのかまではわかりません」
「そりゃ四光の後継者だったからじゃ?」
「それでは説明がつかないのです。四光の後継者など、この世の中には溢れている。後継者が魔王の従者になったからと言って一人ひとり処理していてはキリがない。そうなると、なにか別の意図があると考えるのが自然です。しかし、ここはとりあえずアーサーとヴェロニカのところに行きましょう。同志に勝ったとはいえギリギリだったでしょうし」
「だな、よし行くか」
ソファーから重い腰を上げる。シャロンもまたボードゲームを閉じた。だが、セレスだけはまだお茶を飲んでいる。
「おいセレス、行くぞ」
俺がそう言うと、セレスはカチャリとティーカップを置く。
「私は行かない」
窓の外を見つめたまま、彼女は凛として言う。城の中だというのに魔王モード。これはつまり、アーサーをまだ許していないというサインだ。
「まだ怒ってんのかよ。帰ってきたらアーサーに謝らせるからさ、今は迎えに行こうぜ」
「嫌よ。私はここに残る。どうせ帰ってきて謝るのならば残っていても関係ないでしょう?」
「それもそうなんだが……あーもう、わかったよ勝手にしろ。行くぞ、セラ、シャロン」
「はいよ、じゃあ行ってくるよお嬢」
「行ってきますお嬢様」
リビングから出ていく時に一度後ろを振り返るが、セレスはずっと外を見たままだった。
もうなにも言うまい。俺とケンカした時だって、余計なことを言うよりも放っておいた方がいいことが多かった。
城を出からはセラを先頭にして進んでいく。歩くとも走るとも違う、飛ぶという表現が一番しっくりくる。地面を一歩踏み込む度に、前に五メートル以上前進する。のだが、これが十メートル、十五メートルとなるとどんどんとキツくなる。セラとシャロンは余裕みたいだが、俺はどんどんと魔法力が削られてしまう。
息が切れる前に目的地に到着したからいいものの、これが数十キロということになったら目も当てられない。
「コイツが、その、ブラッドフォードの、同志か」
「息切れしすぎでしょ。もうちょっと体力つけなよ」
ヴェロニカと気絶したブラッドフォードの同志を目の前にして俺の息は切れまくっていた。それをシャロンに指摘されるも言い返す気力がない。
「アーサー、は?」
「向こうで考え込んでるわ。行ってあげて」
「俺が、行くの? ヤバくない?」
「一度息を整えてから、ね」
「お、おう」
ヴェルにウインクされ、俺は仕方なくアーサーへと歩いていく。俺の代わりにセラとシャロンがヴェルと会話を続けていた。同志の方はまだ起きない。起きたところであの三人ならなんとかできるだろう。
少し離れた場所で、大きめの岩に座っていたアーサー。片膝を立てて頬杖をつき、憂を帯びた瞳で森の奥を見つめている。戦闘以外に一体なにがあったのかを訊くのはちょっと躊躇われる雰囲気である。
「なにも言わないのか」
先制の一言。牽制をしてるのか、とでも返せばいいのか。
「言うタイミングがなかったんだけだ」
「――そうか」
チラリとも見やしない。本当に年上かよ。
俺とアーサーの間を冷たい風が吹き抜けていった。いや、実際は暖かかったのかもしれないし本当に冷たかったのかもしれない。その風が俺たち二人の関係性のような気がして冷たいと感じたのだろうか。
それは、俺にはわからない。




