六話
戻りづらいが、この状況を自分で打破することもできない。
「どうしたものか……」
「一度ちゃんと話してみたらどう?」
念話を終えたヴェロニカが右隣に座った。
「それができたら苦労はない」
「できるでしょう? アナタはバカじゃない」
「バカだとかバカじゃないとか、そういう話ではないだろう」
「ただ、そのプライドを少しだけ緩めてあげればいいだけよ。どうせ頭を下げるのが嫌だとかそういう理由だなんでしょう?」
心を見透かされたようで癪だが、十年も一緒にいるヴェロニカだからそれも仕方がない。そう思いながらもため息をついた。
「それよりお前はなんで来たんだ。あー、もう、お前とも本当ならば顔を合わせづらくて仕方がないというのに」
「まあ、私にもいろいろ考えがあるのよ」
そう言いながら、彼女がアーサーの右手を取った。自分の太ももの上に乗せ、両手で包み込むようにして優しくさすっていた。
お互いに特に恥ずかしいことではないため、アーサーはされるがままに手を預けた。兄妹のようで、親子のようで、師弟のようで。そんな暮らしをしてきたからだ。
「私がアナタを窘めたのは、求めた形ではないけれどようやく対等な立場に立てたから。ようやく、アナタの隣に立っても恥ずかしくなくなった」
「そんなもの、最初から恥ずかしがっているお前が悪い。まあお前を対等に見ていなかったというのは間違いないがな」
当然のことだと鼻を鳴らす。二人の間には強烈なほどの力の差があり、年齢的なものもあったからだ。同時にアーサーが彼女を育てたという事実がヴェロニカにとっては大きかったのだろう。
「これは勇者としてとか従者としてじゃなくて、私の精神状況の問題なのよ。本当はアナタの奴隷でもいいと思ってたし、一生追いつけないとも思ってた。でももし追いついたらやりたいこともあった」
「やりたいこと?」
「アナタのダメな部分を直していくっていうことよ」
「なんだそれは。そんなことがしたかったのか。別に最初からやればよかったじゃないか」
「それじゃあ意味がないわ。アナタと同じ場所で、アナタと同じ目線でなければ、きっとアナタは言うことをきかないわ。それになによりも私が納得できないから」
「ふんっ、勝手にしろ。お前が頑張ったところで俺が言うことを聞くとは限らないがな」
「それでこそアナタらしいわ」
鼻を鳴らしたアーサーが立ち上がった。何も言わずにアナベラへと歩いていく。
「私が追いかけた、大きな背中」
彼女の声は聞こえていた。しかし反応したら負けだと歩き続けた。
見下していた魔王や従者に負けた。自分より格下だと思っていた勇者と同レベルまで落ちた。他の勇者にバカにされ、でも見返すだけの力などない。
しかし、だからこそ、今の自分がいるのだと気付いた。気付かされた。自身の中にある自尊心が消えたとは思えない。今でもなお誰かをバカにし続けているし、自分は強いと慢心している。
少しずつ成長できればいい。ヴェロニカが隣りにいるということの意味を、アーサーは理解し始めていた。ヴェロニカがなぜアーサーの隣に居続けるのかという理由と共に。




