二話
俺とヴェルがイスに座る。残りの三人はベッドに。
「んー、ライの匂いー」
「やめなさい」
俺の部屋に入るとセレスは必ずこれをやる。うつ伏せで寝っ転がり、枕に顔を埋めるのだ。部屋の主としては恥ずかしいのでやめて欲しい。
「まあいいじゃん。いつものことなんだしさ。それより本題だな、アーサーとの馴れ初め的なやつ」
あぐらをかいたシャロンが急かす。ニヤニヤと笑い、面白がっているというのがよくわかる。
「そうね。一番最初に出会ったのは今は亡き町。おおよそ十年前になるわね。私がまだ七歳だった頃」
「なるほど七歳……ん? 十年前七歳ってことは、お前今何歳なんだ?」
「今は十七だけど、それがどうかしたの?」
「い、いやなんでもない。続きどうぞ」
確実に二十歳超えてると思ってた。
「アーサーは当時十三歳だった。あの人もまだ子供だったけど、子供のくせに一人で生計を立てていた。勇者として金を稼ぐこともあった。盗賊として盗みをすることもあった。私はそんな彼に助けられた。って、なんで渋い顔を?」
「いいから、俺のことは気にしなくても良い」
「そう?」
アーサーが二十三歳ってところが非常にもやっとする。アレで二十三とかどういうことなのとは思うが。
「町が滅亡したのは勇者の集団が暴れまわったから。けれどその勇者の集団を屠ったのはアーサー。一人で何十人何百人という勇者を倒してみせた。私はその時はまだ勇者じゃなくてただの一般人だったから、勇者にとっては動物と一緒だった」
「殺されそうになったところを助けてもらったのか」
「それだけじゃないのよ。勇者たちは殺しを楽しんでいた。泣き叫ぶのを面白がって、たくさんの人が悲鳴の中で死んでいった。私もそうなる予定だった。ちょうど爪を二枚剥がされたところだったわ。彼に助けられたのは。アーサーは勇者を全滅させて、私はすぐに彼に駆け寄った。そして、私も連れていってくれと言ったのよ」
「なんかちょっと美談っぽいところ悪いんだが、アーサーがそれを実行するとは思えないぞ。あの性格じゃ「面倒だ」とか言いそうだし」
「最初は面倒だと言われたわ。でもその後で「ある条件」を出されたの」
「その条件とはいかに」
「無理矢理盛り上げようとしなくてもいいのよ? 簡単に言っちゃうと、勇者になること、しかも数年で百レベルを超えるような勇者になって自分に従うことっていうのが最初の条件。次にアーサーが動く前に私が動くこと。ようは前座ね。あとは身の回りの世話をすること」
「なんというか、アイツらしいな」
「一緒に旅をするのであればレベルは必要だしね。それ以上に自分の世話をしてくれるような人が欲しかったんだと思うけど」
「命を助けたのだから自分に従え、か。それでさっきのセリフが出てきたわけか」
「まあ、そういうことよ。今まで私はアーサーを叱るなんてことはしなかった。それはひとえに命を助けてもらったから。でも今は勇者じゃない。従える部分は従おうと思うけれど、ただワガママを聞いていただけでは、アーサーがちゃんとした大人になれないと思ったの」
「セレスティア城の中では年長者なんだけどな、そういう自覚はねーだろうし、決して悪いことだとは思わない」
背もたれに体重をかけた。
「でもなぁ、それを本人に言ってやらないと意味がないとも思うぞ。付き合いは短いけどアイツの性格はなんとなくわかるしな。ようは子供なんだよ。力を持っちまったが故に、今までアイツは誰にも叱られなかったわけだしな。ヴェルがアイツを正そうとしてるのはわかったから、それをちゃんと伝えてやるといい。んで衝突したら今度は俺たちがなんとかしてやるさ」
「ライ……」
ヴェルの頬が緩む。それを見て、俺の頬も緩んでしまった。
「せいっ」
「どぅおー!」
背もたれに衝撃があり、俺は椅子から飛び出して床につんのめってしまった。後ろを振り返ると、すごく不機嫌そうなセレスが立っていた。
「ヒューヒュー! やっちまえ!」
「ヤジを飛ばすなよ……」
シャロンとセラが楽しそうに拳を振り上げている。「そうだもっとやっちまえ!」とでも言いたげだ。
立ち上がり、埃を払う。
「なんなんだよ、ったく」
「デレデレしないの」
「デレデレしてませんから……」
「うるせー! ヴェルの方がバインバインで色っぽいからって色目使ってんじゃねーぞイ○ポ野郎!」
「口がきたねー! 絶対シャロンだろ!」
「きゃー逃げろー」
「おいてめぇ! 自分の主人にそういう言葉を教えていいと思ってんのか!」
「このイ○ポ野郎!」
「やめなさい!」
そんな様子を見て、ヴェルは一人でクスクスと笑っていた。
俺はシャロンを止めるかセレスを止めるかで迷っているのに、コイツらはみんな揃って気楽なもんだ。ってそうじゃない。とりあえずシャロンを捕まえて説教、その後でセレスを調教、これだな。
「おいヴェル」
「ん? なんだ?」
「追ってやれよ。んでぶつかって来い。今までとは関係が違うってのもちゃんと伝えてやれ」
「お前は優しいな」
「バカ野郎、面倒なのが嫌いってだけだ。さっさと行け」
ヴェルを部屋から追い出し、俺は主人と従者を捕まえて床に正座させた。シャロンはずっと笑ってるし、セレスはよくわからないみたいな顔してやがる。
「ホント、普通にしてればいい環境なんだけどね……」
顔に手を当てて、盛大にため息をついた。




