二十七話
俺は今まで自分たちを『有利な立場に立たせる』ことを重要視してきた。だから今度は『相手に対して行使し、不利にさせる賜法』を考えた。もちろん頭の中での思いつきレベルでしかなく、練習や練り直しなどは一切ない。二度目のぶっつけ本番だった。
「僕の魔導炉の時間を、無理矢理加速させたのか……!」
「お前のおかげだよ。俺一人じゃ、こんなやり方考えもしなかった。おかげで指一本動かせないだろ?」
俺は加減の魔導炉の時間を一気にふっ飛ばしただけ。でも、その特性は他の全ての魔導炉を加速させ続けている。一つの魔導炉を刺激しただけだが、連鎖的にアーサーが持つ魔導炉全部を空っぽにさせた。
加減の特性を持たない俺だが、時間の特性だけは一級品だと、ベネディクトさんにも言われていた。それだけでなく、他の魔導炉二つに宿った両親の魂が、俺に力を与えてくれたんだ。
普通に魔導力を消費しただけならば、魔導力が底を突いてもこうはならない。急激に消費されたせいでリバウンドが起きた。
あの青白い光は魔導力。あんなにも勢いよく大量に流れ出すなんて、上位勇者ってのはやっぱり予想斜め上の存在だ。アーサーのことは好かないが、上位勇者のすごさは認めざるをえない。
「この、僕が……!」
「お前だから負けたんだ。ずっと考えてたんだよ、なんで〈完全破壊〉と〈完全調律〉しか使わないんだろうってな。んで行き着いたんだよ。使わないんじゃなくて使えないんだって。お前、魔導炉の数は異常かもしれないけど、魔導炉の大きさそのものは並。魔導特性の扱いは並以下。違うかよ、天才さん」
下唇を噛み、視線だけで殺されかねないほどに俺を睨んでいる。
たぶんだけど、俺の見解に間違いはない。〈完全破壊〉が至近距離で使えないのも、自分を巻き込む恐れがあるから。そうだとすれば、自分の賜法すらも完璧に調整できていないことになる。
黙りこみ、凝視し続けるアーサー。まだ若いし、勇者としては将来も有望なのだろう。
けれど、コイツを生かしておくことはできない。このままにしておいたらたくさんの魔王が死ぬ。それに聖魔大戦を彷彿とさせる戦いが起きてもおかしくない。数百年前の悲劇を引き起こしかねないのだ。
「下がりなさい、ライオネル」
肩を叩かれ、力が抜けた。肩を叩かれたからというよりは、その小さな衝撃でも身体が耐え切れなかった。
埃に塗れても彼女の黒髪は美しく、その凛とした立ち姿は、いつ見てもため息が出そうなほどに流麗だった。
「なにする気だよ」
そんな彼女の背中に言葉を投げた。
「彼を生かしておくことはできない。それならば、魔王としての職務を果たすまで」
剣をキツく握り、上段へと腕を上げる。切っ先を天へと向け、振り下ろす体勢に入った。
「やめてくれ……! まだ、まだ死にたくない……!」
「やめろセレス! クロムウェル家は殺さずを信条にしてきたんじゃないのかよ!」
大声を出すだけでも身体が痛む。肉が引き裂かれそうな感覚と、骨が折れてしまうのではというほどの激痛。だが、今止めなければ一生後悔するのは明白だ。
「なんでもする! なんでもするから命だけは助けてくれ!」
セレスの動きが静止する。
「――ならぬ。アナタは、ここで斬り伏せる」
容赦のない一言がアーサーの胸を貫いた。
「俺がやる! お前は人を殺めちゃダメなんだ!」
「ライはもう限界だ。私が手を下すしか、もう方法はない」
セレスが剣を握り直すと、キンッという小気味のいい音とともに刀身が黒光りした。
「残念だよ、勇者アーサー」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
黒き凶刃が、アーサーの頭上に振り下ろされる。最後まで許しを請い、涙を流すまでに至っても、彼女は気にも止めなかった。
剣の軌道がゆっくりと感じられた。剣は黒い残像を残しながら、彼女の信条を砕いていった。




