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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
従者の資格
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二十話〈クロスオーバー:セラ=ブラウニング〉

 セラは城門の前に立ち、大きく深呼吸をした。


 握りこぶしを作り、胸に当てる。


「大丈夫、私なら、大丈夫」


 自分に言い聞かせるように、何度も何度も小さく呟いていた。


 体術でも魔法でも、セラは城の中で一番弱かった。大衆戦闘であっても個人戦闘であっても、彼女の貢献力は低かった。


 セラはこの城に来てから戦闘を学んだ。魔法だってろくに使ったことがなく、クロムウェル城の面々、一人一人が師のようなものだった。


 頭がよく要領もいい。しかしそれに慢心することなく努力の道を突き進むことができる。それが彼女が持つ一番の才能であった。そうでもなければ、魔王セレスティアやその従者と肩を並べることなどできなかっただろう。


 セラは今でも肩を並べられたとは思っていない。自分は弱く、誰も守れない。足りない、まだ足りないのだ、と。


 努力を積み重ねる傍ら、向上心や大志、そして野心を強く抱いていた。良いところでもあり、悪いところでもある。それは彼女自身がよくわかっていた。


 自分を戒め、瞼を開く。


 これから戦う相手を倒し、自分はもっと上に向かうのだと。


 森の方角がら、ショートカットの女性が歩いてきた。燃え上がる真っ赤な髪の毛と、露出度の高い服装。先日見た、あの女性である。


「私の相手はアナタがしてくれるの?」

「ええ、僭越ながら。私が一番適していると思いましたので」


 城の前で、セラとヴェロニカが顔を合わせた。


「悪いわね、少し遅れてしまったみたい」

「魔王討伐遠征に決まった時間はありません。特に問題はないのではありませんか?」

「それもそうね。でもここでお喋りしているような時間はない。そうでしょう?」

「はい、私にも役割があります」


 なぜヴェロニカだけがここに来て、アーサーの姿が見えないのか。

また、それをセラがなぜ口に出さないのか。


 セラは理解していた。城の中にはもうアーサーがいて、セレスティアと対峙していることに。


 ヴェロニカもまた理解していた。セラが口に出さないということは、アーサーの居場所を知っているということ。それ故に、顔には出さない焦りがあるということも読み取れた。


 二本の剣を構え、小さく息を吸った。肺の中いっぱいに空気が流れ込むのを実感しながら、一度息を止めた。


「〈陰影埋没(シャドウストーカー)〉」

「〈真影転移(ブラックテレポーター)〉」


 ヴェロニカの姿が一瞬にして消え、次の瞬間にはセラの真後ろまで接近していた。眉は釣り上がり、口元には笑みを浮かべる。そんな勇ましく強かなヴェロニカとは反対に、セラは驚愕した表情のまま攻撃を受けることしかできなかった。


 ヴェロニカの武器は大きな槍。突きも横薙ぎも、小さなセラの身体には重すぎる。吹き飛ばされないようにと懸命にこらえるも、どうやってもそれは不可能だった。


〈陰影埋没〉でもう一度影に潜ろうとするセラだが、それよりも前にヴェロニカの姿が消えてしまう。


「アナタの賜法はアーサーとの戦いで見せてもらったわ。影に潜る能力、面白いわね」

「なんなのですか貴女は……!」


 相手の攻撃を受け止めながら、賜法の本質を考える。


「そんなんじゃ大切な主人は守れないわよ」


 間違いなく自分よりも格上で、経験値も熟練度でも勝てない。この瞬間移動の正体を暴かないと、劣勢は加速するばかりだった。


 考えなければ、なんとかしなければと思えば思うほど、焦りが思考を鈍らせる。


 けれど彼女はクロムウェル城の中では一番の切れ者だった。落ち着くのも大事だが、周囲や相手を観察することの重要性をよく知っていた。


 槍を受け流すだけ。様々な角度から多様な攻撃を防御や回避を繰り返す。その中で一筋の希望を見出した。


「貴女も影を使うんですね」


 その言葉を聞き、ヴェロニカの動きが少し鈍った。


「思いの外、理解が早いのね」

「私も影から影に移動する賜法を持っていますから。だからこそ気付けたんです。貴方が私の影を追うような動きは、私の動きにそっくりです」

「そりゃそうでしょうね。相手と自分の影を重ねないと、影から影への移動はできなんだから」

「日が昇ってから少し遅れてきたのはそのためですね。貴方と私のリーチ差を考えれば、影が長ければ長いほどに有利。しかし私と違う点は、影が薄すぎると賜法の効果も薄くなる。最低限の影の濃度と長さになる時間まで待っていた。貴方の賜法は、影から影への瞬間移動ですね」

「ご明察。アナタと私では発動速度が違う。一度発動させてしまえば私が有利になる。だけど私の〈真影転移〉にはいろいろと制約があってね」

「私の見立てによれば、貴方の賜法は夜の間は最強だと思いますが」

「ええ、そうかもね」


 もう一度ヴェロニカは槍を構えた。セラを見つめるその瞳は「これ以上話をするつもりはない」とでも言いたげだ。


 呼応するように口を閉じ、セラもまた双剣を構えた。


 お互いが同時に地面を踏みしめ走りだす。双方の銀閃が重なりあっては弾き弾かれ、またぶつかっては後退する。経験の差では負けているであろうセラだが、その観察力が差を縮めていた。身体能力はほぼ互角で、気を抜いた方が負けるというのはどちらも理解していた。


 しかし、その空気を変えたのはヴェロニカの賜法だった。

「〈地盤創成(グランドトリック)〉!」

 地面が割れ、粘土のように形状を変えた。再形成されて何本もの角のような形をとり、一斉に襲いかかってくた。

 角自体の強度は弱いものの、あまりにも数が多すぎる。

 セラは〈氷壁封鎖(アイシクルケージ)〉を使い、氷の壁を作り出す。本来は箱を形成するものだが、壁として使用することも可能だ。


 氷壁封鎖に触れた角は凍りつき、それ以上は進んでこない。しかし、次から次へと新しい角がセラへと向かう。


 何十、何百という攻撃をいなし続けるも、そのいくつかは頬や腕を掠めていく。滴る血も気にせず、ただただ迎撃するだけ。今の彼女にはそれしかできなかった。


「ようやく通ったな」


 セラにもわかっていた。これだけ闇雲に攻撃するのには理由があり、ヴェロニカの好きなようにはさせてはいけないと。

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