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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
従者の資格
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二話

 クロムウェル城の面々は魔王の眷属なので、全員無駄にレベルが高い。


 上から順に、魔王のセレスが三百二十、シャロンが二百八十、セラが二百六十で俺が二百二十。俺が一番低いのは、デバイスに搭載されているレベル抽出装置の指向性によるものだろう。魔導炉が一つしかないのが原因と思われる。


 まあそれだけじゃないだろうけど。


 ちなみに、魔王も勇者も相手のレベルは一見ではわからないようになっている。デバイスに触れなければ、他人のレベルはわからない仕様だ。今考えてみても、五百年前にこんなシステムと作った奴は本当にすごいと思う。


 クロムウェル家は代々魔王の家系であり、セレスも類にもれず魔王になった。


 俺はそんな彼女と契約し、従者としてこうやって付き添っている。セレスの従者は、俺の他にもあと二人いるが、じゃじゃ馬を乗りこなせるのは俺くらいだろう。


 と、いうことにしている。あまり調子に乗ると、他の二人になにをされるかわかったもんじゃない。


 それに、体よく扱われている、なんて誰だって思いたくはないからだ。


「裏手に回ったのはいいけど、これからどうすんだよ」

「当然助けに行く。そのためにここに来たんだ」

「飛び込んでってもまあ、なんとかなるだろうけど。もうちょっとスマートに事を運ぶ術を学んだほうがいいんじゃないか? 毎回毎回手助けする方の身にもなれよ」

「馬鹿を言うな。お前が大変なときは私がなんとかしてるだろう。お互い様だ」


 そんなやりとりの最中、背後に気配を感じた。


「おいお前ら! ここでなにをしている!」


 見つかった。ヒートアップ寸前で、周囲への警戒を怠ったのが原因か。


 勇者の一人が大声を上げたことにより、俺たちは仕方なく行動を開始する。


 一直線に走りだし、リーダー格と思われる人物へと疾駆……するはずだった。


「四面楚歌、ってこういうことなんかね」


 勇者の壁が、俺たちの前に立ちはだかった。目の前の勇者は十人ちょっとだが、人質の周りや俺たちの後ろ側にだってたくさんいるはず。


 そして人質の後方、木造の民家の上には何人もの勇者が立っていた。皆弓矢や銃器を俺たち二人に向けていた。


「勇敢なのはいいことだが、無鉄砲なのはいけねえなあ!」


 剣を肩に乗せ、リーダー格と思われる大男がそう言った。大きな体躯に無精髭、鎧もボロボロでみすぼらしかった。しかし筋肉隆々で、力では勝てそうにない。


 視線だけで辺りを見渡すも、ぞろぞろと新しい勇者が増えるばかり。今の状況では、どうやっても逃げ出せそうにない。


「ライ、今逃げ出すとか考えただろ」

「なんで考えてることわかるかな……」


 セレスに言われ、内心ビクッとしてしまった。こういう鋭いところがまた面倒くさい。


 と言っても、はやり逃げるなんてのは無しだ。魔王の従者になった時から、コイツとは一蓮托生、人々を守るのが役目だから。


「野郎ども! やっちまえ!」


 号令と共に放たれる飛び道具。降り注ぐ火矢は逃げ道を塞ぎ、飛んでくる銃弾はまっすぐに命を狙ってくる。


 右手を前に突き出すのと同時に、俺は指を鳴らした。

「来たれ〈世界掌握(ワールド・リンケージ)〉」


 刹那、世界は灰色に染まった。誰一人として、指一本も動かさない、俺一人だけが動くことのできる世界。それこそが〈世界掌握〉の力だ。


 この世の時間を完璧に止める。俺の魔導炉に相性が良い魔導特性(リチュアルメソッド)は時間。気質の一つであり、扱える者が最も少ないとされていた。


 攻撃力はまったくないが、強力にして凶悪な能力だと思う。


 世の中の人間は勇者、魔王、そして民衆に分かれている。


 しかし、人はみな生まれてすぐに特殊な首輪、魔導拘束具を強制的に付けさせられる。それにより魔導力を抑えられてしまうため、民衆は魔法を使うことができない。魔法を使うのであれば、勇者か魔王になるしかないのが現状だ。


 魔導炉は魔導力を生み出す装置のようなものであるが、そのまま魔法として使っていても、本当の力は発揮できない。いくつもある魔導特性を割り当てることによって、その魔導炉の力を最大限に引き出す。


 対象となる気質(ディスポジション)は、時間や空間、夢や金属など。


 付与する種属(アトリビューション)は、炎や水、風や雷など。


 行動を与える形態(ファンクション)は、治癒や破壊、分解や強化など。


 それらを組み合わせて、魔法は賜法(アクシス)に昇華し強力な力を生み出す。個人個人が自分が上手く仕えるような賜法を編み出し、必殺技として、切り札として使っていた。


 魔法のままでは特性の十分の一程度しか力を行使できない。せいぜい小さな火を出したりそよ風を吹かせたりと、魔導炉に適用させなければ、魔法とは些細な力だ。


 が、俺はその魔導炉を一つしか持たないイレギュラー。魔導炉の大きさや、どの特性が適正かというのも重要だが、魔導炉の数はかなり重要になる。つまり、俺の魔装師としての才能は最低ラインに等しい。いやそれ以下、かもしれない。


 セレスの傍を離れ、まずは後方の部隊を殲滅しにいく。〈世界掌握〉の限界は五分。普段は一分以上の使用は厳禁だ。止めている時間が長くなればなるほど身体に負担がかかってしまう。


 もしも俺に他の魔導炉があったのなら、もっと長時間使えるんだろうなと思うこともしばしばあった。時間の特性のみで賜法を使うというのは、本来ならば規格外のこと。賜法とは本来、数ある特性のいくつかを組み合わせて発動させるのだ。魔導炉に適応させていない特性を自由に使うなど、それこそ才能がなければできない。逆に考えれば俺にも才能があるのかも、なんて少しだけ誇らしくもある。


 持てる力全てを使い、身体を限界まで強化。一人一人殴ったり蹴ったり、それはもう見境なく倒していく。


「よし次!」


 残り時間三十秒。後方の勇者が予想以上に多く、時間がかかってしまった。


 残りの制限時間内にできることと言えば、あの矢と銃弾を撃ち落とすことくらいだ。


 拳をできるだけ強化して、片っ端から撃ち落とす。誰も見ていないし、綺麗になんてやる必要はない。


〈世界掌握〉が終わったあと、セレスが活動しやすければそれでいいんだ。


「おおおおおおおおおおおおおお!」


 地面を思い切り踏みしめ、前方に目一杯跳躍した。銃弾を何発も撃ち落とす。住民がいない方向を選び、なるべく被害が少なく済むように。そして最後の火矢を、下から上にかち上げた。


「状況、終了」


 灰色の世界が茜色に飲み込まれ、あるべき姿に帰っていく。


 着地と同時に、肩を叩かれる。


「よくやった」


 そう言って、彼女は飛び出していく。


 可憐で流麗、戦っている姿はいつ見ても美しい。しかし、動き自体が早すぎて見えることの方が少なかったりする。


 セレスが勇者の目を釘付けにしてくれるから、こっちは別の仕事がやりやすくなる。


 人質の縄を解き、民家の裏へと誘導。他の勇者に見つかれば当然迎撃する。そう、俺の役目は基本的に裏方なのだ。前衛をセレスに任せておけば間違いはない。


 もしもここにセラとシャロンがいたら、もっと楽になるんだろうな。と思いつつ、きっとコレ以上楽になったら、俺の出番もなくなるんじゃないかという懸念もあった。


「おお、こんなところにいたのかライオネル」

「早いお帰りで」


 住民の避難が完了する頃には勇者を全員倒してしまった。集落防衛の時はいつものこんな感じだ。

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