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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
従者の資格
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十六話

「こんなとこでなにやってんだい、魔王の騎士さまがよ」

「んだよ、シャロンか」


 海が見える丘の上で、俺は一人で風に吹かれていた。その時に話しかけてきたのはシャロンだった。


「私で悪かったな。セレスの方がよかったか?」

「そういう意味じゃない。見つかっちまったな、と思ってよ」

「この場所を教えてくれたのはお前だろ? 私と二人で組手して、最終的には夕日を見て終了ってのが昔は日課だったな」


 そんなこともあったなと、俺は小さくため息を吐いた。


 シャロンがこの城に来た時から、彼女は体術を教えてくれていた。俺とセレスとセラの三人にだ。


 俺とセレスは戦闘の基礎をクロムウェル夫妻に教わっていたため順応できた。無茶苦茶なシャロンのトレーニングは厳しく、セラはだいぶ苦労していた。が、持ち前の勤勉さと飲み込みの速さで、成長速度には目を見張るものがあった。


 シャロンは腕っ節が強く、型にはまらない戦い方を得意とする。ちょっと隙ができたからと攻撃しようものならすぐに迎撃されてしまう。野生の勘と戦闘本能は、クロムウェル城の中では最も優れていた。

ロングハンマーをメインの武器にしてはいるが、素手での肉弾戦も強い。姉御肌であり性格も熱く、年上なのもあって頼れる姉貴といった立ち位置にいる。


 それは、昔も今も変わらない。


「連れ戻しに来たのか?」


 誰が落ち込んでいても、真っ先に話しかけてくるのがシャロンだ。ぶっきらぼうに見える彼女だが、それがただのスタンスであることは俺も知っている。


「うんにゃ、そのつもりはない。ただちょっと話がしたかっただけだよ。お前はお前の行きたい場所に行けばいい」


 突き放されたみたいで、それはそれでなんか悲しい。けれど、あの城から逃げ出したのは俺だ。今はセレスの顔を見るのが辛くて仕方がない。


 草を踏みしめる音が近付いて、彼女は俺の隣に座った。


「んで、こらからどうする気なんだい?」


 間髪入れず、問題視している点へと突っ込んでくる。らしいと言えばらしいが。


「そんなこと俺にもわかんねーよ」


 生前のベネディクトさんが渡してくれた手紙を見ながら答えを探す。ちなみにまだ封は開けていないため、なにが書いてあるかはわからない。


「それは?」

「ベネディクトさんがくれたんだ。困ったら読めって」

「今じゃん」

「今、なのかがわからないからまた困ってる。もしかしたらこの手紙には超常的な賜法が込め――」

「ないから。そういう展開はない」

「ですよね……」


 まだ見る覚悟ができなくて、手紙を胸元へと仕舞った。


「大事なんだな、その手紙」

「そりゃ、親同然の人がくれた手紙だからな。でもどうしてそんなこと訊くんだ?」

「さり気なく胸元に仕舞っただろ。ズボンのポケットじゃなくてさ。お前って結構いろんな物をズボンのポケットに入れるだろ? 胸元に仕舞うってことは、無意識でも大事にしてるってことだ」

「ホントに無駄なとこよく見てるな」

「これでもお前らの姉貴分だ。一人ひとりのクセくらいちゃんと見てるよ」


 男まさりで勝ち気な彼女は、いつもと同じように笑った。かっこ良くて、美しい。


 空一面の茜色。丘の前方に広がる草原も違わず、茜色に染まっていた。


 風が吹くと草樹はなびき、主張するかのように音を立てる。まるで俺の心模様みたいに、ざわざわと。


「お嬢のこと、信じてないわけじゃないんだろ?」

「あん? そんなの当然だろ。俺はセレスを信じてる。もちろん、ベネディクトさんとジュディスさんも」

「それならいいじゃないか。いつものように、いつものポケーっとした顔で帰ればいい」

「常にアホ面してるみたいな言い方すんなよ。だけど、まあいろいろと考えることが多いんだ」

「どうでもいいけど、あんまりお嬢に心配かけるな」

「――わかってる」

「お前がどういう結論を出しても、私もお嬢もセラも責めないよ。好きなようにしたらいいさ」


 俺の頭に手を乗せ、グッと力を込めた。


「いででででで!」

「我慢しろ」


 強引に頭を引っ掻き回し、彼女は立ち上がった。人の頭をなんだと思ってるんだこの女は。


「じゃあな、唐変木」

「うるせー、さっさと帰れ」


 本来は白いであろう歯が、茜色にきらりと光った。こういうの似合うんだよな。


 去りゆく彼女の背中を、俺は最後まで見送らなかった。


 どうしたらいいのかと自分に問いかけてみても、返ってくるのは「うん」とか「すん」というなんとも言えない言葉ばかり。当たり前だ、俺が俺自身に疑問を投げているのだから。


 どんな質問をしたかなんて、恥ずかしくて誰にも言えないけど。


 俺のことを育ててくれた人がいる。


 俺の側にずっといてくれた人がいる。


 俺を心配してくれる人たちだっている。


「俺もまだまだだな」


 膝に手を当て、ゆっくりと立ち上がった。涼風に当たりすぎたのか、身震いしてしまう。


 行きたい場所にいけ、か。


 そんなシャロンの言葉が俺の脳内でぐるぐると駆けまわり、また心をかき乱す。答えは自分で見つけなきゃいけない。


 俺がなにをしたいのかそれを見つけるために歩き出すんだ。


 城がある方向とは真逆、草原に向かって歩き出した。


 やるべきことを、果たすために。

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