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魔王を守る下僕となりて  作者: 絢野悠
従者の資格
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十二話

 セラは大人しくなり、俺のシャツをキツく握る。雨に濡れたせいか、彼女の体温が直接伝わってきた。体温が高いななんて感じると、妙な気恥ずかしさを覚えてしまう。


 魔物が作ったであろう横穴はかなり大きかった。中には枯れ木や枯れ草、なにかの動物の毛皮なんかが落ちていた。それらをかき集め、焚き火をすることにした。


魔法を使って火を付けたあと、お互いが横穴の両端で服を絞る。


パチパチと火が跳ねる音。それに混じって、水滴が地面に落ちる音聞こえてきた。意識しないでおこうと思えば思うほど、セラの裸がどんなものかを想像し始めてしまう。


「いかん、いかんぞ」と自分を戒めつつ首を横に振った。


「そのまま、後ろ向きでこっちに来てください」


 急に声をかけられたせいで、心臓が口から飛び出るかと思った。


 幾度か深呼吸してから、言われるままに後ろ歩きで焚き火の側へ。


「服を貸してもらえますか?」


 顔を背けたまま、おずおずと服を差し出した。人の気配が近づき、濡れた洋服をそっと持ち去る。


 背後から物音が聞こえるが、おそらく木の枝がなにかに服を掛けているんだろう。


 セラはクロムウェル城の中で一番年下で一番背が低く、それでいて一番家事が得意。細やかな気配りもできるし、使用人さまさまである。


「寒くはありませんか?」

「え、いやまあ。これくらいなら大丈夫だと思う」

「寒いのならそう言ってください。こちらへ」


 腕を掴まれて、誘導されるままに焚き火に近付いた。当然ながら俺は後ろを向いたままだ。


「おーっと身体のバランスが崩れたー」なんて言いながら振り返ることもできそうだが、そんなことしたら後でどうなるかわからない。きっと簀巻きにされて三日三晩木に吊るされてしまうんじゃないだろうか。


 焚き火を横目に、火の暖かさが感じられる場所で座った。


「先ほどの続きなのですが」


 彼女は少し遠い場所からそう言った。背を向けているのだろう、というのがわかった。


「魔王セレスティアとその一味がこれからどうなるかって話か?」

「はい、私はライの意見も聞いてみたいのです」

「って言われてもなぁ……」


 あぐらをかき、アゴに指を当てた。


 思い出してみても、アーサーという勇者は強過ぎる。事前に情報を入手していたとしても、戦いになったかどうかわからない。それに前回はアーサー独りに四人がかりで惨敗。同志が加わったとあれば、被害は尋常ではなくなる。


 あの感じでいくと、あのヴェロニカという女性しか同志がいないように思える。そこだけが救いか。


「セレスはもう、魔王としては終わってるんじゃないかな。魔導炉が二つの魔王とか聞いたことないし。魔法だけが驚異的にすぐれているなら、魔導炉に特性を割り当ててなくてもなんとかなるとは思うけど」


 その辺の魔王よりはずっと魔法に精通してる。けれどセレスの場合、それが賜法を凌駕しているかと言われると難しい。才能はあるし強い。けれど人外や化け物と言われるほどではないのだ。


「貴方も、そう思いますか」

「たぶんシャロンも同じこと思ってるんじゃないか? セレス自身も、な」


 そこで、一度会話が途切れた。


 魔王自身が「自分はもう終わりだ」なんて言うはずがない。特にセレスは弱音を吐かないから、こちらから歩み寄らねばいけなかった。


 自分の中ですべてを解決できる強さだと受け止めることもできるし、他人の顔色を気にするあまりに言い出せない弱さとも取れる。それでも、魔王であっても、一人の少女であることに変わりないことを俺たちは知っていた。


 しかし魔王であっても人は人でしかない。


「俺はさ、ずっとあいつと一緒にいたんだ。両親がいない俺の側にいてくれて、寂しい時も困った時も俺の手を取ってくれたんだ。確かにアイツが泣いた時には慰めてやったりもしたが、まあそういうことなんだろうな」

「支え、支えられる関係ですね」

「アイツの魔導炉が減ったのは従者が不甲斐ないからだ。そしたら今度は俺たちがなんとかしてやる番だろ?」


 一瞬間を置いてクスクスと、控えめな笑い声が聞こえてきた。


「なにがおかしいんだよ」

「いえ、貴方は出会った時から変わらないなと思いまして」

「何年前だっけか。つか俺ってそんなに子供っぽいか?」

「精神的にも身体的にも成長したと思います。けれど、根本が全く変わっていない。成長していないというわけじゃないんです。軸がブレないな、という意味です」

「そんなのお前もシャロンもセレスも一緒だろ」

「そうですね。けれど、貴方の奥底にある芯が通った強さは、他の人たちはそう簡単に持ち続けてはいられない」

「大事なモンを守りたいって思うのは当然のことだろ? 特に気にするようなことじゃないさ」

「そう、ですね」


 あまりに気恥ずかしくて、俺はそっぽ向くように顔を背けた。


「命を賭しても守りたいモノがある、というのは素晴らしいことです」


 背中に、なにかがぶつかった。そこから感じられる熱が、セラの背中なのだと教えてくれる。


 熱くなっていく顔を見られないことだけが、この状況では唯一の救いだった。


 声を出そうかと思ったが、寄りかかってくる彼女に失礼な気がして、俺は口をつぐんだ。たまにはこういうのも、悪くはないかもな。


 雨はすぐに上がり、俺たちは生乾きの服を着た。


 外に出てみると、山を登り始めた時よりも太陽の光が強く降り注いでいた。


 道なりに進んで頂上に出た俺たちは、必要な分だけの花を採り、早めに下山することにした。山の天気は変わりやすい、とはよく言ったものだ。


 その間、セラはやけ嬉しそうだった。理由はわからないし、訊くのもなんか気が引ける。俺は落ち込んでいるよりはいいんじゃないかと、自分を納得させるのだった。


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